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海賊シャーロット(2)

<俺は宇宙海賊シャーロット。ESPエンジンは俺がもらうぞ>


 宇宙海賊は、ギャラクシー77が搭載するESPエンジンに組み込まれた『超能力者の脳神経』の血に連なる末裔であった。

 ブリッジのクルーの殆どは、宇宙海賊のメッセージを理解できなかった。しかし、船長と数人の幹部は、その事実を知っていた。それは、人類が百年以上に渡って隠し続けていた、巨大な罪だった。そして、船長は、その罪の重さに圧し潰されそうになっていた。


(今になって……、今になって、何故、私達が報いを受けなくてはならないのだ。裁かれるべきは、百二十年も前にESPエンジンを開発した科学者達ではないのか?)


 駄目だ。船長の動揺は、ブリッジ全体に漂い始めた不安に拍車をかける。いけない! どんなに辛くても、ギャラクシー77の乗員を守らねばならない。それが、過去の罪を引き継いだ者の使命ではないのか。


 船長は、どうにかして自分を立て直そうとしていた。


 しかし、その時、ブリッジ内に絶叫が木霊した。


「敵船発砲!」

「何! エネルギー弾か?」

 船長は、その言葉に即座に反応した。

「違います。ほ、砲弾です! じ、実体弾で撃ってきました」


(砲弾だと。エネルギー弾なら、対ビーム散乱壁のコロイドミストで防げるのに……)


 船長が逡巡する間にも、砲弾は接近しつつあった。


「着弾まで二十秒。船長、どうしたら……」

 クルー達を不安が包んだ。このままではいけない。だが、船長の命令は、一瞬遅れてしまった。

「緊急回避。両舷全速取り舵いっぱい。回避しつつ、砲弾を迎撃! 荷電粒子砲、撃ち方始め」

 船長は回避行動を指示した。しかし、巨大なギャラクシー77を動かすには、補助機関では明らかに非力だった。動力と慣性がせめぎ合って、船体を軋みが襲う。

「荷電粒子砲、全力射撃。撃ち方始め」

「敵砲弾、着弾まで十秒!」

 間に合ってくれ。ブリッジの誰もが、心の中で祈っていた。

「着弾まで五秒。四、三、二……」

 その時、朗報がブリッジ内に響いた。

「荷電粒子砲、砲弾に直撃。迎撃成功っ!」


『やったー』という声がブリッジに溢れた。助かった。生き残った。クルー達全員が安堵した。


 しかし、丁度その時、悪夢は再び訪れた。

「敵船、第二射発砲。着弾まで六十秒。更に第三射、第四、来ます」

 クルーの悲鳴が上がる。

「怯むな。回避しつつ迎撃! 荷電粒子砲、撃ちまくれ」

 船長の檄が飛ぶ。

「第二射、迎撃成功! 続いて第三射に照準」

「っ、いけません。荷電粒子砲、砲身の冷却追いつかない。オーバーヒートします!」

「構うな。撃ち続けろ」

 しかし、船長が命じた途端に、ブリッジの照明が消えた。

「ど、どうしたんだ」

 途端に、クルー達のざわめきがブリッジ内を埋め始めた。

「各部、応答ありません。センサー・ブラックアウト」

「動力が落ちました。し、システム、ダウンしています」

「荷電粒子砲はどうか?」

「分かりません。荷電粒子砲の制御サーバーとの接続が、き、切れています」

 クルーが震えた声で報告をする。

「補助電源に切替。サブシステム緊急起動。復旧を急げ!」

 すぐに補助電源に切り替わったのか、ブリッジ内をオレンジ色の光が包んだ。

「電源復旧」

「敵の砲弾は? 回避状況知らせ」

 すぐに、船長が最速で知るべき情報を尋ねる。

「間に合いません。砲弾、急接近」

「荷電粒子砲、沈黙。お、オーバーヒートしています!」

「当たりますっ! 着弾まで五秒っ! せ、船長ー」

「もう駄目だぁー」

 クルー達の絶叫がブリッジを埋める。

「間に合いませんっ。着弾します!」

「総員、ショックに備えよ」

 ブリッジの誰もが悲鳴を上げていた。当たる、砲弾が。船が破壊される。どうしたら……


 もう駄目かと全員が思い込んだ時、奇跡(・・)が起きた。

「え? 何も起こらない……」

「攻撃が直撃したんじゃないのか……」

 起こるべきことが起こらないことに、ブリッジの要員達は呆気に取られていた。

「あ、えと……、ほ、砲弾回避? 消えました。な、何が……」

「て、敵船もロスト。消えました」

 索敵手からの報告は、あやふやだった。直ちに船長が問い正す。

「そんな筈があるか。探知急げ」

「はい。……い、いました。敵船、こ、後方に移動しています」

 外れた砲弾。海賊船の突然の移動。取り敢えず、損害は回避できたようだが、何もかもが分らず仕舞いだ。

「な、何が起きた……」

 船長も、クルーも、誰もが、何が起きたのか分からずに呆けていた。助かったというのに……。


 その時、船長の手元のコンソールが鳴った。

<ブリッジ、こちらパイロット。『ショート・ショート・ジャンプ』成功。砲弾は全弾回避した。安心しろ、船長。ギャラクシー77は、まだ生きておる>


──パイロットとESPエンジンが助けてくれた


 ブリッジ内に、安堵感が広まりつつあった。

 しかし、宇宙海賊は諦めていなかった。

「敵船、回頭。こちらに向かってきます」

「荷電粒子砲は」

 船長の叱咤が走る。

「砲身、冷却中。クールダウン完了まで使用不能」

 ブリッジ内に再び緊張が訪れた。

「敵船、更に発砲。着弾まで九十秒」

「せ、船長、指示をっ」

 まだ逃げ切れた訳ではない。敵はまた撃ってきた。しかし、今度は距離がある。推進剤を持たない砲弾は、真っ直ぐにしか飛ばない。

「進路そのまま。補助機関、最大船速。両舷いっぱい。振り切れぇー」

「零度ヨーソロー。両舷いっぱい、最大船速」

「船長、砲弾の進路から逸れました」

「よし。そのまま回避運動を続けろ」

 大丈夫だ。今度は避けられる……はずだった。だが……、

「せ、船長。砲弾が、砲弾の進路が曲がりました。直撃コースです!」

「な、何っ」


(何故だ。重力や空気抵抗のない宇宙空間では、実体弾は直進するはずだ。誘導弾ではないのだ。たとえ、ミサイルを撃ってきたところで、この距離では燃料が足りない。誘導は不可能なはずだ。一体どうしたら……)


 船長は、船の生き残りを賭けて、懸命に打開策を考えていた。

 その時、再び手元のコンソールが鳴った。

<ブリッジ、パイロット。『念動力』だ。海賊は超能力を使って、砲弾の射線を曲げたのじゃ>

 船長は息を呑んだ。まさか、敵の超能力がそれ程のものとは。どうしたら良い。このままでは回避できない。

「砲弾、来ます。着弾まで二十秒」

「荷電粒子砲は?」

「未だ撃てません}

「着弾まで十五秒」

「船長、回避行動、間に合いませんっ」

「着弾まで、十秒。九、八、七……」

 命中までのカウントダウンが始まる。悪夢のようだった。

「うわぁ、今度こそ、もう駄目だぁ」

「狼狽えるな! 総員、ショックに備えよ」

「ぱ、パイロットー。助けてくれー」

 もう当たる。その時、再び奇跡(・・)は訪れた。

<ブリッジ、パイロット。『ショート・ショート・ジャンプ』成功。砲弾は回避した>

「や、やったー」

「『ショート・ジャンプ』をすれば、砲弾は避けられるんだ」

「パイロットとESPエンジンさえあれば、逃げ切れる。助かるんだぁ」

 ブリッジ内を安堵が包んだ。そして、希望も。

<ブリッジ、こちらパイロット。ギャラクシー77は健在なり。ESPエンジン、好調>

 操船室からの通信が聞こえた。しかし、船長は、まだ楽観していなかった。

「パイロット、ブリッジ。そんなに連続して『ジャンプ』をして、大丈夫なのか?」

 『ショート・ショート・ジャンプ』で、避け続けることは出来るだろう。しかし、いずれは限界が来る。『ジャンプ』は、パイロットの脳神経にも、ESPエンジンにも負担をかけるのだ。

<ブリッジ、パイロット。案ずるな。皆、ESPエンジンを信じるのだ>

 クルー達に頼もしい声が聞こえた。


 助かる。上手くゆく。ESPエンジンは万能だ。ESPエンジンさえあれば、どんな困難だろうと、乗り越えられる。


 クルーの誰もがそう思った。


 しかし、本当にそうだろうか……




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