プロローグ
現在から少し先の未来、人類は苦しんでいた。
人口爆発──それは、貧富の差を拡大し、差別を助長し、不正と貧困を栄養にして、大きく育っていた。
発展途上国の人々は、内戦や貧困から、国を捨てて先進国に雪崩込んだ。最初は彼等を受け入れていた各国も、大量の難民のための社会保障や、安い賃金の労働力で働く彼等のために、経済は悪化の一途をたどり、慢性的な不況から逃れられずにいた。
先進各国の市民の間では、ナショナリズムが台頭し移民排斥運動が沸き起こった。しかし、地球上の限られた土地だけでは、難民や不法移民を送り込めるような『都合の良い場所』は無かったのだ。
世界経済は下降を続け、各国の経済政策は行き詰っていた。
そこで人類は、増え続ける難民達を押し付ける場所として、地球圏外への移住計画を推進するに至った。
例えばスペースコロニー──月と地球との重力均衡点でのコロニー建設は、強烈な宇宙放射線に苦しめられ、素材工学も限界に達し、頓挫した。
月面基地──わずかの大気と豊富な水を蓄えた月の表面での都市建設は、何よりもその大気の薄さと低重力に起因して、計画の初期段階で停止していた。
火星や、木星・土星圏の地球型衛星のテラフォーミング──そもそも地球からの距離により、人材・物資の輸送に問題があり、遅々として進まなかった。
では、太陽系圏外の地球型惑星の探索はどうだろう? 論外だった。そもそも、人類は光速を突破して宇宙を航行する術すら持っていなかったのである。
しかし、そこにある時一筋の光明が射した。三人の科学者、エトウ(Etoh)、スズキ(Suzuki)、パウリ(Pauli)等によって、光速突破機関が発明されてしまったからだ。その機関は、発明した三人の頭文字に因んで、『ESPエンジン』と名付けられた。
ESPエンジン搭載船の建造により、先進国は難民達を太陽系圏外の地球型惑星へ、半強制移住させる政策へと舵を切った。その事により、地球上の各国の経済情勢は復活したように見えた。
そして今、七十七番目に発見された太陽系に因んで名付けられた六隻目の超光速宇宙船──ギャラクシー77が、移民達を乗せ外宇宙に旅立って行った。
では、物語を始めようか……