ネズミの罠
「ネズミに借りを返すなどという筋を通す感性があろうとは知らなんだな」
「言ってろ。勝手にやらせてもらう」
「では」
男は意味もなく仮面を被る。
「ネズミ、貴様はこの面に傷をつけることはおろか触れることさえ叶わぬだろう」
その安い挑発だけでハヤトの怒りを買うには十分だった。
「なめやがって...」
ちいさく漏らすと最大速度で相手の間合いへと入り込み右から相手の左腕までを切り落とすために袈裟斬りを振り抜く。
が、男の肌に当たった瞬間鈍い金属音が響いた。
男の手は一度も動いてはいない。
「ちっ!あんたこの前暗くて見えなかったけど体。人間のじゃねえだろ」
「そうだ、俺の体の九十パーセントは機械。俗に言うサイボーグというやつだ」
「厄介だ」
「お互い様だよ」
男もハヤトと同様に剣を取り出す。
腕をしならせることで剣がまるで鞭のように変幻自在の動きをするうえに地面を陥没させるだけの威力を以ってハヤトを狙ってくる。
デタラメかこいつ。
「逃げ回るだけかネズミ!」
「ネズミじゃねえ...よっ!」
一瞬の隙で剣を跳ね上げて再びわき腹を狙う。
「甘いっ!」
男のわき腹、機構部が開いていくつものミサイルが飛び出す。
間一髪体を逸らせて至近距離被弾は避ける。
「無駄だっ!」
ミサイルは軌道を変えて何度もハヤトに襲い来る。
なんでこの世界は近代化が進んでんだよ。
心の中では泣き叫びたくなった、この世界の無情さに。そして無駄な科学力に。
「風遁・金斬り」
ハヤトが忍刀をミサイルの数だけ振るうと風圧が風の刃に変わってミサイルを斬砕する。
「やるな。逃げ回るだけがネズミの取り柄ではないか」
「だからネズミじゃねえよ」
ハヤトは男に迫ると前にもやった刺突の構えを見せる。
「頭のほうは猿かネズミ。それは一度止められたことを忘れたか」
「忘れてねえよ。だからこそだ、だからこそあんたは絶対的自身を持ってこれを避ける」
言葉通りに男は体を回転させたことで刃は空を突く。
「さあ思惑通りに避けてやったぞ、どうするつもりだ」
「チェックメイト」
ハヤトは地面に転がる手裏剣を掴んで勢いよく引っ張る。
これだけでは何もないが手裏剣の先にはワイヤーのような糸が。
「それがなんだというのだ!!」
「俺の餌籠へようこそ」
ワイヤーで結ばれた手裏剣が男を中心として四箇所。地面に縫い付ける形で配置されている。
あとはそれのすべてがつながっている物体を引くだけで。
「ぬあっ!」
地面はごっそり抜け落ちる。
「貴様いつの間にこのような策を」
男は落ちる寸前にどうにか壁に捕まって奈落落ちを逃れる。
「最初からだよ。あんたたちが手紙を送ってきたときからずっと用意してあった。
そこに誰かが立って、俺がこの手裏剣を引かないと発動しないトラップだ。
そしてあんたは見事にその位置に誘い込まれた」
「つまり俺は貴様の手のひらで踊らされてたわけか」
「まあそういうことだ」
「ドブネズミが...」
「言いたいことはそれだけか?」
「いいや!まだだまだ終わってはいない!!」
腕の機械のターボをブースター代わりにして穴から飛び出る。
「ちっ!しぶとい」
「はっはっはっ!!文字通り墓穴を掘ったなドブネズミ!貴様の墓は貴様で掘ったあの穴にしてくれる」
「逆に送り返してやんよ」
剣と刀が激しくぶつかり、金属音が幾度も鳴り響く。
「なぜだ!?なぜお前はあの娘に与する!?お前ほどの力がありながら」
「知るかっ!俺の勝手だ!」
「だったら俺の下に来い!俺は世界を掌握する!」
「ノーサンキューだ!あいつはちゃんと前を見てる!人の前では弱音の一つも吐かねえけどちゃんとこの国の先を見据えて戦おうとしてる。
ただの戦争がしたいだけのお前らとは違う!」
「戯言だ!時に人は情を捨てねばならない。人を捨てねばならない」
「そうならないために俺があいつを支えてやんねえといけねえんだよ
あのアホ姫様をよぉぉぉぉぉ!!!!」
ハヤトの一撃がついに男の核である心臓部に突き刺さった。
「ぐはっ...見事だネズミ」
そう言い残すと男の体は深い穴へと吸い込まれていった。
「じゃあな、名も無き皇帝」
そのとき城のほうから雄たけびとともに大軍が押し寄せてくる。
「みんな!!敵の頭は死んだわ!あとは殲滅なさい!!」
「「オオオオオオオッ!!!!」」
トゥーナの言葉に応えるように兵士は自らを鼓舞する。
「何気に一番戦争乗り気なのあいつじゃないのか」
とりあえずハヤトの仕事は終わったのでトゥーナの元へ帰ることにした。
「お疲れさま」
「いや~疲れた」
「ありがとう。あなたのおかげで血も見ないし私はまだひとりじゃない」
「言ったろ?お前を影から見守ってやるって」
「それって草場の?」
「もうそれでいいや」
疲れているのにツッコミまでさせられてはいよいよ体力がもたないと思ってさらっと受け流す。
「トゥーナ」
「なに?」
「ほら」
二本ついた鈴を投げ渡す。
この角度で直渡しできる俺のコントロールさっすが~。
どうでもいいところで自分を褒める。
「なにこれ」
「困ったらこれを鳴らして俺を呼べ。呼び鈴だ」
「じゃあさっそく...」
「あっ...ちょい待て...」
時すでに遅し、チリンチリン鳴らされていた。
「だ~!!!」
そしてトゥーナの目の前に呼び出される。
「へえ~これ便利ね」
なにやら面白がった笑みを浮かべるあくどい王女。
「しまった...!」
すぐさま物陰に逃げる。
「あっ!せっかく顔みれるチャンスだったのに」
「いいか!これから一週間休暇貰うから絶対に鳴らすないいな」
「なによ家来の分際で」
「俺がいなきゃ戦争に勝てねえくせにな」
「「ふんっ!!」」
この二人の物語は始まりを迎えたばかりだった。
すみません。毎日毎日深夜投稿でみなさんの睡眠時間削って非常に申し訳ないです。
これからはちょいちょいゴールデンタイムにしたいなとは思うんですがこの時間にさせてください。
あと今回締まり悪いなというのが個人の感想です。
次回から新章いきます




