バベルの塔崩壊
ハヤトは敵陣に向かって走っていく。
それにしてもどうしよう俺、あんな化け物ども相手に。
あっ俺もこの世界じゃ化け物だったか。
思考してるのか思い返しているのかよくわからない。
「来たぞ!」
「一人だ!」
「迎え撃て!」
先頭はがっちり兵士たちに固められて攻撃の手を加えようにも簡単にはいかない。
普通ならばの話だが。
「火遁・火走り」
敵はあくまでもこれから領地にするところを壊したくないのか街の外。
それが命取り。
ハヤトが起こした炎は街の外の草原の火を火種として敵に向かって炎へと変貌させながら燃えていく。
「あいつ炎出したぞ!」
「人間技じゃねえ!!」
「はやく水を!!」
敵は混乱。固めていた兵士たちは浮き足だち隙ができた。
その隙を利用しないハヤトではない。
まずは手裏剣を投擲。寸分狂わず首筋に突き刺さる。
そして向かってきた敵には千本と呼ばれる医療用の針を経絡秘孔と呼ばれる血管のつなぎ目に針を突き刺すと、様々な症状が敵の体を襲いあるものは瞬間絶命し、あるものは痛みにもがいて地面を転がる。
あのクソ医者の息子で医学勉強してていいこともあるもんだな。
無駄にはならなかったことには感謝するぜクソ親父。
心の中で医学を学ぶように厳しくしてきた父親に皮肉のこもった礼をいいながら敵を無力化。さらには絶命させていく。
「こうなったら...出でよ合成獣」
合図とともに地面からモコモコとケルベロスを彷彿とさせるシルエット。さらには頭がそれぞれ犬、蛇、鰐でできた生き物が数体現れる。
「きやがった...」
ついに懸念材料のひとつ合成獣が現れる。
『KYUAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!』
数体の合成獣がいっせいに咆哮にも似た雄たけびをあげる。
やる気だな。くっそこっちには勝機もねえってのに。
「合成獣ども!!!あいつをやれ!!!」
『KYUAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』
数体といいつつ実際は5体ほど、ただし3M級の化け物がハヤト目掛けて走ってくる。
『KYUAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』
そのとき合成獣のうちの一体の頭が爆発する。
「なんだっ!?」
後ろを振り返ると硝煙をあげる砲台が。
やってくれる。助かったぜ。
しかし事態は悪化した。合成獣は砲台を標的にしたらしく、口からエネルギーの塊を砲台目掛けて打ち出した。
「逃げろォォォォォォォォォ!!!!!」
しかしそんな声は遠く届かない。そして無慈悲にも砲台ごと兵士たちを爆発に巻き込んだ。
『KYUAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』
やってやったと自分を誇示するような咆哮をあげる合成獣。
許さねえ。顔も合わせたこともねえけど人を簡単に殺した罪は償ってもらうぞ合成獣。
ハヤトの心は殺意に満ちていた。
『KYUAAAAAAAAAAA!!!!!』
「明鏡止水!!!」
武器破壊のために存在する技を応用して合成獣のもっとも弱い部分を探る。
合成獣とは一から生み出されたわけではなく無理やりパーツを組み合わせただけなのでどこかに接着部が存在する。
そこを一点集中で攻撃すれば解体、そして機能停止に追いやることができる。
「見えた!」
ハヤトは高い脚力で首筋につかまり合成獣の背中に飛び乗る。
「ハァァァァァ!!!!」
首の付け根付近に向かって刃を突立て、そのまま横一文字に引き抜く。
『KYUAAAAAAAAAAA!!!!?』
頭から血を吹き出していることに混乱したのか暴れだす。
それに巻き込まれて敵兵が何人も踏み潰される。
「これが最後だ」
ちぎった首の付け根に宝禄火矢を突っ込み火をつけて他の合成獣へと飛び移る。
爆発、そして同時に三体の動物をつなげていたものがちぎれて体はバラバラに砕け散る。
「火遁・花火」
ハヤトが吐き出した弾は合成獣の体に染み込んでいき内部で大爆発を起こす。
『KYUAAAAAAAAAAA!!!!』
合成獣は悲鳴にも似た断末魔の声を上げる。
『KYUAAAAAAAAAAAA!!!!!』
仲間をやられたことに激怒したのか残った三体でいっせいに突撃してくる。
「土遁・奈落」
突如合成獣の足元が抜け落ちて合成獣は見事に穴にはまる。だがさすがに大きかったようで頭だけは出ている。が、しかし。
チャンスだ。
ハヤトにとっては好都合。なぜなら解体でもしなければ高い再生能力、特に蛇がついているのでそういう能力をもっているかも知れないと踏んで解体させる戦法を選んでいたからだ。
ありがとう偶然。
心の中で偶然の名前をもつトゥーナに感謝して首を切り落として『花火』を打ち込んでいく。
『KYUAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』
合成獣どもは激昂するがそれは悲鳴へと変わった。
「じゃあな悲しいバベルの塔」
皮肉とともに別れの言葉を口にする。
「そんな馬鹿なっ!?あれはペレサの最大の戦力だぞ」
「馬鹿でもなんでも人はそれを上回った。それが人の力だ」
「くっ...ぐはっ!?」
さっきまで悔しそうな顔をしていた男の体は長く伸びた鉄の塊に貫かれていた。
「王よ...なぜ...」
「お前の合成獣は敗れた。つまりはお前の負けだ。敗者は戦場にはいらん」
男は貫いた男をはるか遠くへ投げ捨てる。
「また会ったなネズミ」
「あのときの借り、返させてもらう!」