最終話 偶然と必然が導く明日
暗く夜を背負う男。
ハヤトたちの始まりにして、戦神でもある夜刀神が、ハヤトたちの前に降り立ち、契約を迫ってきている。
見たところ、交戦の意思は見受けられない。
「我と契約を結べ八番目」
「契…約…」
ハヤトの息はあがり、肩で息をしながら声を絞り出す。
剛力解放と夜刀神化の重ね掛けに、体がついに限界がきたのだ。
その命潰える瞬間が。
「我と契約すれば主は助かるが、拒めば死ぬ」
もはや契約とは名ばかりの命令に近しい物言いだった。
ハヤトに選択肢は用意されてないらしい。
「主亡きあと、夜刀神として転生する。そういう契約だ」
「夜刀神になれってか…」
「さぁ選べ八番目。ここで果てるか、それとも神になる運命を進むか」
考えるまでもない。
ハヤトの答えはもちろん…。
「契約だ…夜刀神」
「ハヤト駄目よ!まだ助かるから!そんな神になるなんて保証どこにあるのよ。
こんな人隣も知らない男を信用するの!?」
トューナの言うことももっともなのだが、何より時間がなかった。
迷う時間など、もはや一秒だって残されてはいなかった。
「俺は…お前らを置いて死ぬわけにはいかねぇんだよ」
ハヤトは自分の後世よりも、現在の家族をとった。
それだけハヤトの情が深く、愛が強かったということだ。
「確かに契約は受けた。主は二度の生を受け、夜刀神となる」
ハヤトの体を、ほのかな光が包む。
傷ついた体を癒し、ハヤトの顔色も正常に戻っていく。
「謳歌せよ、生を死を。事を成すがよい、気の向くままにただまっすぐに」
夜刀神は瞬きもしないうちに、霞みがごとく姿を消した。
(ありがとな…じじい)
ハヤトは小さくそう呟いた。
ハヤトはとっくに気づいていた。祖父は、夜刀神が化けた姿なのだと。
なぜそうしたか、それは夜刀神にしかわからないが、いまとなってはどうでもいいことだ。
「帰ろうトューナ。みんな待ってる」
「ええ」
~十年後~
あれからトューナの夢である戦争の撤廃。和平による解決という夢は、いまだ実現にはいたってはいないが、あと一歩まできていた。
他民族との交流も、ウィリアナ国を中心に世界の国々が徐々に賛同の意思を示すようになり、またトューナとハヤトは賛同のするか否かを決めかねている国の相談役として、また他民族との架け橋、仲裁へと走り続けた。
そんな感じに世界と交わるうちに、ウィリアナは賑わい、人が増え、なおかつ世界最強の王が守る国というフレーズのもと、徐々に大きくなっていった。
城も昔のままでは窮屈になり、五回の改築増築を繰り返して、いまでは立派ではすまない巨城へと姿を変えていた。
たまにトューナが悪戯で、色々変な機能をつけたりしたのもあってわりと資金難が何度か起きたこともあった。
そのたびに大工にハヤトが参加したりして、人件費を抑えていたのが、いまは懐かしき出来事。
そんな世界を変えた二人は、一時の休息を得るために、ベランダで夜風に当たる。
何度も感じた風だが、やはりここの風が一番なのだ。
「なぁトューナ」
「何?」
「俺たちの出会いってほんと偶然からの始まりだったよな」
「何よ改まって」
「俺はこの世界にきて、お前と出会って、毎日戦い続けた。もしかしたらこれも偶然なのかもな。
俺が最初に出会ったやつが商人の娘とかだったら、それこそこんな景色は見られなかったし、こんな体験もしなかっただろうな」
「そうね。でも積み重なった偶然は、実はそれがあるべき姿なんじゃないか。私はそう思う。
何よりこんな素敵な人に出会えた奇跡を、偶然なんて言葉で終わらせたくない。
きっとこれが運命なんだってそう思いたい」
トューナを見ていて、ハヤトは思う。
_______偶然や必然というのは、所詮起こりえた事実の可能性に過ぎないのだ。
そしてそれが、どんなに辛くてどんなに苦しくても
目の前に幸せが浮かぶ瞬間がそこにあるのだと。
ハヤトの目に映る幻影が、トューナからその面影を消していく。ずっと縛られてきたものが、解き放たれたのだ。
ーーーありがとう栞。やっとお前の幻影から解放されたよーーー
ハヤトはこぼれそうな涙を隠して、トューナを抱き上げる。
「行こうみんなが待ってる」
偶然と偶然が交われば、それは正に運命であり、紛れもない明日なのだ_____ 。




