夜刀神の世界
月と太陽が、この二つに隔たれた大地で戦う二人を見守る。
月は知っている、この戦いの結末を。
太陽は知っている、この戦いの未来を。
月と太陽は見守る。ただ何も言わず見守る。
ハヤトと七夜刀の力は、同じ夜刀神であるがゆえに、ほぼ互角。
どちらが押しているということもない。
ハヤトの怒りがそうさせるのか、七夜刀の憎悪がはそうさせるのか、大地は戦いのなかで崩れて消えていく。
そんなことは構わず、二人は刃を交え、拳を交える。
(あれを壊すには、こいつを倒すかあれ自体を殴るかのどっちかしかない…どのみちこいつを倒すしかないな)
「雑念が見えるぞ。怒り狂っていようとまだ理性を欠片でも残しているなら俺には勝てん」
頭のなかを見透かされたようだった。
嫌な気分の悪さを覚えて、ハヤトは七夜刀に集中する。
「さて八番目。なぜ俺たちに順番があって、なぜ俺たちはこの世界に連れてこられたのだと思う?」
「さぁな。時間稼ぎのつもりなら止めておけよ」
「まぁ聞け。壱夜刀からお前八夜刀は、元々地球の人間の一人だったはずだ。だが、この世界についたとたん無敵の力を得た。まるで神じゃないか」
ハヤトはいまいち、七夜刀の物言いにピンとこない。
釈然としない話に、苛立ち始めた。
「何が言いたい?」
「この世界は謂わば夜刀神が造り出した、俺たちを育てるためのブタ小屋でしかなかったってことさ。そして夜刀神は、俺たちをまるで生まれたての鮫のように、共食いさせ、選り分けるために送り込んだのさ」
「…」
ハヤトは何も口にしない。ただ黙って聞いている。
「八夜刀。俺といっしょに神にならねぇか。お前だって地球に未練があったのにここに連れてこられた口だろ?」
確かに、ハヤトには好きになった幼なじみがいた。
もう一度、できることならもう一度だけ思いを告げてみたい。そう思ったことは、この世界にきてからだって何回も思った。
「俺の手を取れハヤト」
「夜刀神解放…」
一閃。夜刀神にしか反応できないような、光速の剣閃が閃いた。
七夜刀も油断の一瞬、かろうじて受けたというところだ。
「貴様八夜刀…」
「ああそうさ、確かに未練たらたらだったよ。でもな、俺は王になって、トゥーナに会って、たくさんの国の人と関わって、俺の中じゃあの国が俺の故郷だ。守るべきもんだ!!」
ハヤトの体から、戦王のときのような覇気が溢れ出す。
(ごめん。また一人にしちまうかもな…愚痴ならいくらでも聞いてやるから、今だけ、今だけ俺に力をくれ)
「剛力解放!!これが、俺の全力で、最後の戦いだ」
天上の泉より、二人のバックアップの戦いを
夜刀神はただ静観する。
行く末がどうなろうと、夜刀神は、二人のうちの勝者の前に現れるつもりだった。
だが、ハヤトが再び使えば命を蝕む奥義を使ったとき、夜刀神の表情は、小さく動いた。
そして、夜を背負う背中は、ついに動き出した。




