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ゲーマー忍者の異世界無双   作者: 世捨て人
六章・戦王の鍵
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鳴動

トゥーナは目の前、正確にはその眼前の彼方に転がる死体を見て、絶望に晒される。

あのハヤトが死んだ。

どんなに死にそうな目にあっても、何事もなく帰ってきて他愛ない笑い話をしていたハヤトが。


言いたいことがあったのに、ちゃんと告白しよう。

フラれてもいいから自分に正直でいよう。

そう思ってここにきたのに。

もうそれも叶わない。


ではどうする。あの男、戦王を殺そう。

そう思うと、体の奥から不思議と力が沸き上がる。

あの男を殺すに足る力がみなぎる。


「魔法っ!?トゥーナ姫。まさかあなたは…」


スクレールはトゥーナの体からあふれでる何かを見て驚き、魔法と言った。

魔法とはこの世界で人間が使う力ではなく、エルフ族のみ使うことができる。


「エルフの血脈か面白い。肴にするには悪くない」


「殺す」


トゥーナが手をかざすと、戦王の体が水の檻に包まれる。

まだ終わらない。続いて雷で感電、灼熱の業火で水が蒸発するほど燃え上がらせる。


「死になさいっ!!」


魔力の放出量は著しく上がる。それに比例して威力も段違いに跳ね上がる。


「こざかしいわぁっ!!」


トゥーナの全力の魔法攻撃は戦王の一閃により霧散した。

所詮こんなものだ。ハーフをさらにハーフにしたエルフの魔法など。

仇を討つ力もない。


(ごめんハヤト…)


トゥーナは己の死を覚悟した。

届かない力量差が数秒で埋まるはずがない。

精神論でも目に見えて同じことだ。


「ではこの戦王に向かってきたことを称えて一撃で殺してやる」


殺される。ついさっきまで殺すつもりでいた相手に。ハヤトを殺したあの男に。


「ではな。エルフの血脈を継ぎし女」


戦王の剣閃がトゥーナに向かって放たれる。

避けられない。そう思ったとき、それは半分に切り裂かれる。


「レディに手を挙げては紳士失格ですよ弐夜刀」


後ろでタイミングを図っていたスクレールが、戦王の剣閃を弾いたので、直撃は免れたようだ。

スクレールはこんなときでも恭しく頭を垂れる。


「スクレール…従者とは皮肉な名前をつけたものだな伍夜刀」


「伍夜刀…?」


「我々とそこのハヤト様は全員が異界より召還された夜刀神のバックアップのための存在なのですよ。ハヤト様はおそらく知らなかったでしょうが」


そういえばハヤトは自分の身の上を話そうとはしなかった。

単に聞かなかったというのもあるが、それ以前に異界というものの正体もわからない。

そもそも夜刀神とは何なのだろう。

頭の中をかき回されるような感覚を覚える。


「五百年も経った現代に今さら舞い戻ってどうしようというのですか弐夜刀」


「知れたこと。我は神を…夜刀神を超える」


「夜刀神様は絶対の禍津神にして戦神。なんとも馬鹿げているとしか…」


「あんなものに様をつけるな伍夜刀ッ!!我はあれを絶対に許さんぞ。我らを代わりとしか思うておらん惰神を」


初めて戦王が人間らしく怒るところを見た気がした。

戦王もまた人なのだ。


「もうご託はいい。一撃で終わらせてくれよう」


戦王は降り注ぐ雷を刀に纏い、それを真上から降り下ろした。

剛腕から放たれた雷撃は地面を焦がしながら一直線に進む。

斬撃に乗っているため遅いが、それでも避けられないほどに速い。


今度こそやられると思った。だが、目の前に絶対に現れるはずのない人間が現れた。

なぜならその人間は、今目を離すまで死体になって転がっていたはずなのだから。


「ハヤト…なんで…?」


「何故だっ!!貴様何故生きているっ!!」


戦王は確かにハヤトの心臓を貫いた。

脈が無くなるのをこの目で確認した。だがどういうわけかハヤトは生きて動いている。これほど奇怪なことがあるものか。


「貴様か。この女を泣かした下種は」


「ふん…所詮はくたばりぞこないが動いていているだけよ。再び眠るが良いわぁッ!!」


再びの戦王の雷撃。

しかしハヤトは剣も使わずに手で弾いて見せた。


「馬鹿なッ!!?貴様一体何者だ」


「五月蝿い。それ以上口を開くな」


ただの言葉なのに強制力がある。

これは俗に言われる言霊というやつだ。


「来い烏」


ハヤトが呼ぶと、いつもの口寄せではなく天上から舞い降りてきた。

まさに神の使いとも言える。


そして烏は腕に止まると恭しく頭を垂れる。


「覚醒おめでとうございます八夜刀様」


「いい。まずはあれを片付ける」


「御意」


そう言うと、烏は刀身から何から何までが真っ黒に塗られたような刀に変わる。

漆が塗られたような光沢が、鮮やかで美しい。


「銘は」


「黒刀八咫烏」


「悪くない」


ハヤトはそう言って握った刀の感触を確かめる。悪くないむしろ昔から使っていて体の一部と間違えるほどに馴染む。

これまでのどの刀とも違う。

これこそが夜刀神と化した者だけが持ち得る絶対の力を持つ刀なのだ。


「いくぞ烏」


「御意」


ハヤトは一歩一歩の間合いを確かめるように、ゆっくりと歩いてつめていく。

さも勝利までのカウントダウンかのようだ。


「貴様がどうやって生き返ったかは知らんが、さきほどのはまぐれだ。たまたま貴様に天命があっただけよ。次はない」


三度におよぶ戦王の雷撃。地は焦がしたかのように黒く焼け焦げ、美しい緑の平原はみる影もなくなっている。

そんな地面に容赦なく雷撃が走る。

しかし、ハヤトの前ではもはや戦王の雷撃など赤子がものを振り回して遊んでいる延長に過ぎないものだった。


「失せろ」


ハヤトの刀のひと振りで、雷撃はまたも霧のように霧散した。


「ば、馬鹿なっ!!?」


戦王はかつて見たこともない光景に狼狽する。


かつて戦王はこの世界において最強だった。故に自らを戦王を名乗り、恐怖の対象となり、戦の神となった。

当然同年代に送られてきた、夜刀神のバックアップにあたる者たちもすべて亡き者にしてきた。

野望があった。いつか神をも越える存在になると、かつて自分の側にいた女に約束した。

それには人の生涯では短すぎた。最強と謳われた戦王も老いと病には勝てなかった。

だから死ぬ間際、この地に自らの力を封印し未来(さき)を生きる者が蘇らせることを願い死んだ。

見事に願いは叶ったが、なんだこの有様は。

神に届くどころか、一度踏み潰したはずの蟻に遅れをとっているではないか。


「許さんぞハヤト....貴様だけは許さんぞぉぉぉぉぉぉっ!!!!」


戦王は再び天に向かって龍が咆哮をあげるよりも轟音を響かせた。

ハヤトはそれをただ静観しているだけだ。

戦王の体に黒い鎖模様が浮かぶ。荒い呼気が離れているハヤトにもはっきりと聞こえてくる。


「これを見せるのは初めてだ」


また外見からくる凄みというのが一層増しているように感じる。

おそらく見かけだけではない。


「そうか。そいつは光栄だ」


そんな戦王に対しても、ハヤトは眉ひとつ動かすことはない。

本当にただ見ているだけとしか言えない。


「烏。終わりにしよう」


「御意に」


ハヤトも刀を番えて戦王に向かって走り出す。

裂いた空気がまるで翼のように見える。


「死ねハヤトォッ!!!」


二人の剣が激しくぶつかり、衝突は天地を揺るがした。



















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