戦王復活
同時に駆け出す二人、だが戦王のほうは丸腰。ハヤトのほうが若干有利であった。
決めるなら、丸腰である今しかない。
ハヤトは、数秒でもコンマ何秒でもいいから疾くを優先した。
まずは牽制のためのクナイ。
戦王も伊達に、王を名乗るわけではない。飛んできたクナイを素手で弾き飛ばす。
だが、それはあくまで牽制、自分の払った腕に視界を潰されて見えていなかったのだ。
その腕の方向から来る白光の剣閃を。
(もらったっ!!)
そう思った瞬間に、ガキンッと鈍い音がした。
それは、戦王の手に握られたドス黒い剣とぶつかった音である。
ハヤトは、驚きに目を見開いた。なぜそこにあるのだ、先ほどまで丸腰だったお前がなぜそれをもっているのかと。
『驚くか人の子よ。なぜ我がこれを手にしているのかと』
戦王はハヤトの心を思考をすべて読んでいた。否、最初からそう思うことをわかっていたようだった。
ハヤトは、二擊目が来る前に一度距離を取った。
「せっかくだ。聞かせてもらおうか、なんで剣なんてもってる?」
戦王は手から、黒いモヤモヤとしたものを引き抜いて剣の形へと変化させる。
その黒いものは、一対の剣として戦王の手に収まる。
『こういうことだ』
「あれ壊しても意味ないか...」
ハヤトの言うとおり、あれを壊してもまた生み出されていくらでも増えていくので、ハヤトお得意の武器破壊ができない。
やってもする意味がないのだ。
しかし壊せない訳ではないので、やりようはある。
「二本同時に壊してやる」
二本同時ならば、今戦王がやってみせたとおり剣を生み出すには、二本の手が必要なのだ。それならば、多少の時間はかかるはずだ。
ハヤトはそこを狙うことにした。
勝負は最初の蹴り出し、ここで目で追える速度を出してはこの亡霊には勝てない。
一瞬、ただこの一瞬のために足の力のすべてを出し切り奔りだす。
走り出しはいい、だが狙うは二本の禍々しくドス黒い剣だ。
ハヤトは腰に剣を番えて、貫くようにかつ凪ぐように剣を振り抜いた。
___ピシッ。
『むっ?我が剣が折れたか』
「これで終わりだぁ!!」
ハヤトは、触媒と化しているクオの体ごと戦王を貫いた。
大量の血とともに、剣を作り出していたあの黒いモヤモヤとしたものも流れ出る。
『ぐおぉっ!!!よもやそれほどに素早き一撃をこの我に与えるとは見事なり人の子よ』
黒い瘴気が流れ出るとともに、クオの体も徐々に崩れていく。
おそらくは最初から戦王の亡霊に体を取られ、それがなくなりかけている今、体も朽ち果てようとしているのだろう。
『名を聞いておくぞ人の子よ』
「ハヤトだ」
『ハヤト、その名に違わぬ瞬身見事、誠に見事だ。
だがしかし、この戦王このようなところで終わる傑物ではないわぁっ!!』
今この瞬間に崩れ落ちるかと思われたクオの体が、罅割れ始めた。
まるで、魚の鱗でも取れるかのようにボロボロと剥がれていく体は、やがて新たな体を創り出した。
その朽ち果てた体のあった場所には、一つの生命体が二本の足で立っていた。
「ふむ...やはり我の体だ」
「なんだ...お前は...」
背丈は優に二メートルは越すであろう巨体、鍛えられた隆起する筋肉、獅子のように逆立ち尚且つ堅牢に後頭部を覆う黒髪、腰に下げた一振りの長刀がギラリと見るものに威圧を与える。
「改めて名乗ろう、我が名は戦王。先程はいささか遅れを取ったが此度は負けはせぬぞハヤト」
戦王の完全復活、一番恐れていたことが現実となった。
さきほどの亡霊などでは比べ物にならないほどの存在感。
亡霊の微かな存在感ではなく、今度は目の前でその絶対的な存在感を放っているのだ。
「貴様ぁっ!!」
朧が叫び散らしながら、戦王に向かって跳びかかる。
無策もいいところだ、まるで怒りで我を失っているようだった。
「朧止まれっ!!」
いまの朧はもうハヤトの言葉など耳には入っていない。
この目の前の怪物にしか目がいっていない。
「死ねぇっ!!!」
朧の巨大なアギトが、戦王に迫る。
完全に捉えたと思われたその瞬間。
「がなるな蜥蜴」
朧の頭は戦王の足元の地面に叩きつけられる。
朧の頭を中心として、そこから隕石規模のクレーターが出来上がる。
「ゲハッ...」
「朧っ!!」
ハヤトが走って駆け寄ろうとするが、戦王が朧の体を片手で持ち上げて投げ飛ばした。
巨大な朧の体を避けきれず、ハヤトは巻き添えを食らう。
「あいつ化け物だなマジで...」
龍の体はとても巨大なので、重さをいうときは必ずトンで表される。
成体の龍であれば数十トンは下らないような質量をしているのだ。
それを片手で投げる腕力は戦王を語るだけのものがある。
「くそがぁっ!!!」
「落ち着け、今行っても同じ目に遭うだけだ」
怒り狂った朧をどうにかして宥めて止める。
そうなんどもこんな巨大を受け止めていては、ハヤトの体がもたない。
「どうした?お前らしくないぞ」
「あいつの顔は忘れはせん、やつは...」
「うん?どこかで見た龍だな、果て?どこでみたやら」
戦王はいきなり腕を組んで考える仕草をし始めた。
そんな気の抜けたことをしているが、相手はあの戦王だ。油断はできない状況にある。
「貴様、壱夜刀のことを忘れたとは言わせぬぞ」
「そうか...トカゲ、貴様はあの壱夜刀とともにおったトカゲか
忘れはせぬぞ、我に後一歩傷を付けそうになった男のことだ忘れはせぬよ」
「朧、お前とあいつの間になにがあった?」
朧は数秒黙って、ゆっくりと口を開いた。
「やつはわしの友、壱夜刀を殺した男だ」
「壱夜刀だけではないぞ、三夜刀、四夜刀、六夜刀と殺してやった。
あれは愉快であったな、そして今お前の番ぞ八番目」




