潜入調査
「俺はなにをすればいいんだ?」
「敵状視察。地図渡すからそこの国の兵力、武器、戦略とか探ってくるの」
「別にそんなことしなくていいんじゃねえか?」
確かにハヤトの強さをもってすれば国の一個や二個容易く潰すことは可能だろう。
「あくまでも私は和睦したい!もう血は見たくないの!!」
ハヤトの意図することをちゃんと理解したうえでの反論にハヤトも言葉に詰まる。
「貴方が敵の情報をもってくる。それをすべて封じることで戦うすべを失わせるそうして戦争をなくす」
「別に頼まれた仕事はするけどひとつ言っとくぞ」
「なに?報酬は払うわよ」
「違うそうじゃない。人はだれもが聖者じゃない。どうしようもなく救いようのない人間がいることを忘れるな」
「肝に銘じるわ」
おそらくそれでも人を信じるだろうこの少女は。
「つくづくあいつみたいだ...」
ハヤトは足音もなく消えた。
「ここかってこの地図汚いな!!よくこれでたどり着いたな俺」
×とか線しか書いてない超適当な地図を渡されてとりあえずその方角まで行くが、行ったら着くものだ。
「そろそろ変装とかないとな」
忍び込むときは変装セットでいるわけにはいかない。
やり過ごすのにはいいが機動力が格段に落ちるのだ。
いざを考えてのことだ。
「潜入開始」
ウィリアナ公国の隣国、ペレサ軍国。
国税の九割を軍事費に使うという古くからの軍事大国であり。
常に戦争をしているといっていいほど気の荒い国風だ。
「さっさと忍びこむか」
とりあえず城を目指すことにする。
気づかれないように高速で走り行く。
「ここか」
裏口と思しき場所から忍び込む。
こういう忍者らしいことは地球じゃ無理だよな~、ざまあみろ忍びオンラインゲーマー共。俺はお前らよりよっぽど忍びしてるぜ。
一人で優越感に浸る。が、正直虚しいだけだ。
「む?」
なにやら軍事訓練をしている現場を目撃する。
「千、二千、三千、まだいる。一万、一万五千、三万はくだらないな、よくもまあこんだけ兵がいるもんだ」
一旦敵兵の数の調査はあとまわしにすることにした。
「次は...」
おくの扉から中へと進入する。
中は約幅2Mくらいの長い廊下が続く。
「こういう施設って地下にえらい危ないもん作ってたよな」
ということは調べるべきはまず地下の研究施設の有無だ。
ハヤトは地下を目指して進んでいく。
「あからさまだな」
怪しそうな重い扉が地下に聳え立つ。
「開門」
中へと首尾よく忍び込む。
「なんだこれは・・・生き物か?」
地下にいたのはこの世のものとは思えない生物。合成獣だった。
「馬鹿なっ!?生物の創造それは人の起こしてはいけない禁忌のはずだ」
本来生物を作るのは神の仕事とされ、人はそれを許されてはいない。
それはバベルの塔を建てることに等しい行為だ。
一時、忍びオンラインの職業に口寄せ師と呼ばれるテイマーのような職業において、合成獣を造ろうという風潮が流行った。
創造には成功したがその後プレイヤー自身がアンデットになるペナルティが検出されたため、名実ともに禁忌、もしくはタブーとされた。
「あんな生物どうやって止めるんだよ」
ハヤトが解決策にもがいていると、誰かが入ってくる。ハヤトは急いで物陰に隠れる。
「合成獣の様子はどうだ」
「順調です」
「これでウィリアナを沈めてくれる」
まずいな、このままじゃ。
「さて、出て来いネズミ!!」
まずい気づかれた。あいつただ者じゃねぇ。
男は鉄製の棒切れを投擲すると棒がハヤトの顔の横を掠めて壁に突き刺さる。
「ちっ!」
ハヤトは身元がばれる前に迎え撃つことにした。
持ち前の脚力で接近、刀を刺す形でつがえて向かっていく。
「甘い見えるぞ」
男は刀を素手でつかむ。
「なっ!?」
ハヤトは目の前の現実に驚きを隠せない。それはそうだ、もはや音速になろうかという速度で接近、刺突までを行ったのにもかかわらずこの男は完全に見切って刀をつかんだのだ。
「君がネズミか。筋はいいが相手が悪かったな!!」
「お互いさまだぜ」
手の中に忍ばせていた閃光玉を炸裂させる。
「目晦ましか!?くそっ!!」
「今日のところは退いてやる。借りは必ず返すからな」
「待てっ!!」
ハヤトは男の目がつぶれているうちに逃走する。
「はぁ!...はぁ!...はぁ!...やばかったぜ今回は。あんなのどうやって倒すんだ?皆目検討がつかねぇえよ」
とにかく報告を優先しなければと急いでウィリアナに戻ることにした。
「そう。貴方が勝てないならいよいよ負けね、この国は」
「まだ負けた訳じゃねえ!借りは返す」
「だったら入ってきたらどう?」
ハヤトは窓から報告。
「し、忍びは姿を見せない」
女性恐怖症患者にそれは死刑宣告だ。
「変な人」
「どうするんだ?お前のいう和睦は使えないぞ」
「仕方ないわ。相手がおとなしくなるまで待ちましょう」
「は?」
何を言ってるんだこの女は。
あっちはこっちを滅ぼすとか言ってるんだよ?おとなしくなるわけないだろ。こいつどんだけ人疑わねえんだよ。
「おいトゥーナ」
「何よ、別にあなたに呼び捨て許した覚えはないわよ」
「金貸してくれ」
「はぁ?お金ぇ?」
もちろんこれは嘘だ。本当にトゥーナがアホでなければ金を貸さずに「あんたばっかじゃないの」的なことを言うはずだ。
「い、いくらほしいのよ」
驚愕の事実。やっぱりアホだった。
「なによどうしたのよ姿見えないんだから黙らないでよ」
「俺、仕える人間間違えたかも」
ハヤトはちいさくため息をついた。