鍵の行方
城全体を揺るがすような爆音。
その衝撃で、寝ていたものは全員が飛び起きる。
それはハヤトも例外ではない。
(なんだ!?)
ハヤトは意識を半分だけ覚醒させたままにしていたが、残った半分が跳ね起きる。
トゥーナも遅れて起きる。
何事かと城中が大騒ぎだ。そんななか、トゥーナの元に連絡係りの兵士が飛んでくる。
「姫様っ」
「なにがあったの?」
「王城の三階の廊下において爆発。全員就寝していたため、死傷者はありません。
それと、王の鍵とフローラ様が見当たりません」
そこでフローラが、一人で鍵を追いかけていったことを理解する一同。
フローラならば、まぁ大丈夫であろうが、いなくなったというところが心配だ。
「いますぐ鍵とフローラを捜索。まだ遠くには行ってないはずよ」
寝起きだというのに的確な指示だ。
関心しつつも、自分も行かなければと、ハヤトは音もなく気づかれることもなく部屋をあとにした。
「あれ?今だれかいなかった?」
「いえ、自分と姫様以外には」
案外トゥーナの勘は鋭かった。
「ひどいもんだな...」
爆発によって崩壊した廊下を眺めて、呟く。
言葉通りに、普段ならガラス張りで、煌びやかに装飾が施された、美しい廊下であるのだが、今は爆発でガラスも砕け、一箇所には穴が開いている。
美しい廊下は見る影もない。
「さて、どこいったかだが....」
ハヤトは三階から飛び降りる。
もちろん、普通に飛び降りるのではなく、忍び道具のひとつムササビを使う。
ムササビ...忍びが高い場所に潜入するときに使う、ある程度の耐久性を持った布。
体全体に膜を張るようなイメージで、落下速度を減速させ、風に乗って飛行距離を伸ばすこともできる。
ムササビジャンプというものを思い出しながら、ハヤトは穴の開いた廊下から飛び立ち、地面へと降り立つ。
「どこ探すかな…」
とりあえず夜目の効きそうなアイツを口寄せする。
「口寄せの術」
ボフンッと膨れ上がったような白煙とともに、
いつもの烏ではなく、天狗が現れる。
「て、天狗?」
口寄せする奴を間違えたかと焦るハヤトに、天狗が口を開く。
「お初にお目にかかりやすハヤト様、俺は烏天狗の薬師丸次郎坊といいやす。
本日、烏のじい様は急用にてあっしが出て来やした」
烏の代理ということだろう。頭はあまり回りそうにないが、実力は申し分ないはずだ。
しかし、空から捜索するに当たって、頭数が一羽じゃ足りなすぎる。
「口寄せの術」
今度は烏軍団を口寄せ、その数は約千羽。
千羽鶴ならぬ、千羽烏である。
「外にいるメイドみたいな格好した人を探してくれ」
ハヤトの命令に、烏たちが一斉に飛び立つが、暗い夜に黒い体なので、分かりにくいことこの上ない。
「次郎坊、お前もだ」
「あっしは烏のじい様の代わりですので、側に居やす」
天狗はハヤトの側を動く気がないようだ。
千羽に探させたのだから、すぐ見つかるので別に構わないとは思うのだが。
「アー!!」
鳴き声を響かせながら、烏の一匹がクルクルと上空を旋回している。
見つけたという合図だろう。
「行くぞっ」
「分かりやした」
ハヤトと天狗は走ってその地点へと向かう。
ハヤトが目撃地点にたどり着くと、男二人と槍を構えて対峙する、フローラの姿が目にはいる。
「あの人闘えんのかよ」
「ハヤト様、加勢は?」
この質問は自分は加勢したほうがいいか?とこう いう意味で聞いたのだ。
「当然する」
ハヤトはあくまで自分が加勢することしか、頭に入れていない。
そんな主に、天狗は自分の役目を再度問い直す。
「あっしはどうしやしょう?」
「お前も混ざれ」
ハヤトから加勢の命令を受けた天狗は、気分が高潮して仕方なかった。
久々の戦闘に、喜びを感じている。
「行くぞ」
ハヤトは瞬間移動の如く、一瞬でフローラの隣に並び立つ。
「ハ、ハヤト様!?」
いきなり現れたハヤトにギョッとしたが、どうにか素に戻る。
「悪い遅くなった。
俺たちでやるから、フローラさんは下がっててくれ」
「ハヤト様、あれが鍵です」
指差す男の手には、確かに六角錐のクリスタルが握られている。
「あれが鍵?」
普通に鍵のようなものだと思っていたハヤトは、驚いたような表情を見せる。
天狗に至っては、話をまったく聞いていない。
戦闘することで頭が一杯だ。
「さて、じゃあ取り返すとしようか」
ハヤトが男二人を睨むと。
男二人は、顔を見合わせて目で合図すると、そのまま森の中へ走り出した。
「待てやこらぁっ!!!」
ハヤトも追って走り出す。
単純な足の速さで、ハヤトに敵う者はいないが、二人はコンビネーションを使って、鍵を持っているのか分からないようにして、上手い具合に撒いている。
「へへ…あいつも俺たちのコンビには敵わねぇぜ」
「このままあそこまで逃げ切れば…」
「させるかぁ!!!」
ハヤトはムーンサルトで、二人の前まで跳ぼうとするが。
それを狙ったように、無音で弾丸が飛んできた。
ーーーー弾!?
ハヤトはゼロナの一件以来、弾の方向や球数を、空気の振動だけで判断できるようになった。
そのため、顔の近くに飛んできた弾丸でさえも避けることができる。
「ちっ!」
狙撃手は舌打ちをしながら、次弾を装填する。
しかし、ハヤトを前にして一秒かかった時点で時すでに遅し。
胸には深々とクナイが突き刺さっている。
かなり見ていて痛々しい。
ハヤトは仕留めたかなどは気にせずに前の二人を追いかける。
追いかけて森を抜けた先には、無数の武器を手に持った、一般市民とおぼしき人々が群れる光景が、広がっていた。
「こいつはなんの冗談だ?…」
ハヤトも目の前の現実を信じることができないでいる。
「ハヤト様っ」
天狗も遅れて飛んできた。
空を飛ぶくせにハヤトより遅いとは、どういうことだろうか。
「遅い」
「道に迷いやして…」
苦しい言い訳だが、説教する時間も惜しい。
とりあえずは来ただけでも良しとする。
「さて、この状況.…どうしたもんかな」
鍵は敵の手に、それを守る敵は数万を優に越える。
対する味方は二人。
いや、千一羽と一人だ。
「ハヤト様、ここはあっしに」
そういう天狗の目はギラついている。
やる気満々、これならいけるかも知れない。
「いや、俺もやる」
そう言って投げたクナイが開戦の合図となった。




