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ゲーマー忍者の異世界無双   作者: 世捨て人
六章・戦王の鍵
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毒と鞭

「あいつはアホなのかとりあえず」


ハヤトはトゥーナに命じられたとおりに、鍵の監視のために鍵が安置してある部屋の扉の前で、仁王立ちで監視、もとい警護に当たっていた。


グチをこぼしながらもちゃんと仕事はやる。それがハヤトクオリティだ。


しかし、ただ立っているのも暇なものである。廊下には時計もないので、カチカチという秒針が動く音を楽しむとかいう、爺くさい暇つぶしもできはしない。


さらには一応警護なので寝るわけにもいかない。

深夜の警護は城の兵がやってくれるそうだが、それまでは本当に精神力と忍耐力の限界挑戦である。


「暇だな...」


ハヤトは座りこんで少し物思いにふけることにした。

これは、まだハヤトが小学校の頃の話だ。





ハヤトの小学生時代は、今となんら変わらず、友達というのも別段いるわけではなかった。

周りの子供と遊ぶなどもってのほか。テストで百点を取れないようなら即刻家を追い出されるような、小学生にして毎日が崖っぷちだった。


そんななかで一人だけハヤトの側に居る者が居た。

名前は忘却の彼方だ。だが、それが何者かは知っている。


初恋の相手にして初失恋の相手、そう幼馴染だ。

かれこれ一年以上は会っていない。


なぜ彼女を好きになったのかと思い返してみると、よくわからない。


まず彼女がなぜ自分の側にいたのかさえもわからない。

トゥーナ以上に謎の女である。


そんな彼女から昔言われた言葉がある。


「楽しい?」


これだけだ。しかし、それがハヤトにとっては衝撃だった。

楽しいかどうかなんて考えたこともなかった。

ただ義務だから、『言われたからやる』ぐらいのことだったのだ。

医者になる。そう決められて育ったハヤトの考えに、揺らぎをもたらした言葉だ。


そして当時のハヤトは。


「楽しくない、けどその必要もない」


と、諦めたような言葉を吐いた。

思い返せば、ハヤトは言外に助けてくれと言っていたのだろう。

それに対する彼女の言葉は。


「楽しくない人生なんて、当たりのないくじびき」


と答えた。

当時小学生のハヤトには意味がわからなかったが。

今ならわかる、彼女は楽しみがないなら何をしても同じ。勉強したって遊んだって、楽しくなければ思い出にすらならない。

そういうことだ。


それから彼女はいつも見ればそこに居て、もう一度見るといないような存在となっていた。

そして思いの丈を話してフラれたのが最後の記憶だ。





「思い出話出すと面白くない話しか出てこないな」


人の記憶というのは蓋を開ければ黒歴史が詰まっているものだ。


いつの間にかハヤトは、夜が更けるまで黙考していたらしい。

外には鈴虫のなく音が聞こえる。


「ハヤト様」


廊下の反対側から走ってくるフローラの姿が見える。


「どうしたんですか?」


「お風呂の用意ができました。どうぞゆっくり浸かって気分転換と疲労回復を」


ハヤトは疑いの目を向ける。


(この人が用意か...絶対何かある)


これまでも、意味深な添え書きのされた手紙や、封筒を受け取っているので、疑いの目を向けないわけには行かなかった。


「なんですかその目は?」


「犯罪者を見る目だ」


毅然として言い放つ。あくまで疑いの目は緩める気はない。


「安心してください。別にとって食おうなんて思ってませんから」


「気にしてるのそこじゃねえんだけどっ!!??」


こんなおどけたフローラに、良いように手玉に取られる状況が納得できないハヤトだった。


「大丈夫ですよ、別に何か特別なことをしたわけではありませんから」


「....わかった。ありがたく頂くことにする」


とりあえず一日座りっぱなしで、風呂に入らないのは体が固まりそうだった。

風呂のお湯で体をほぐそうと考えた結果だ。

本当は嫌々だったりするのだが。


「それではこちらです」


案内を代わりの兵に任せて、風呂へと向かった。







「おぉ~広いな」


ファミリープールぐらいの風呂の面積で、明らかに一人で入るような大きさではないが、トゥーナが前に、女中は住み込みと言っていたのを思い出したので、そういうことかと納得する。


「はぁ~疲れた...」


帰ってきたサラリーマンのおっさんのような、気の抜けた声を吐き出す。

だが、次の瞬間からさらに疲れることとなる。


「姫様スタイルいいですねぇ」


「貴女もなかなかよ」


ここは男湯のはずであるのに、なぜか女性連中の声が聞こえる。

ここでハヤトは悟った。


(は...嵌められたっ!!!)


今頃はフローラが、イエイとかグッドのサインを出しているに違いない。

その姿が頭に浮かんで、沸々と怒りが湧き上がる。

さらに悪いことは続く。


「あれハヤトも入ってたの?」


かと思ったがそうでもなかったらしい、女性陣は平然としている。健全な男子としては目のやり場に困るし、異性として見られてないのかと自信を無くす。


「お前らここって男湯のはずじゃ...」


「ここは混浴よ」


「混...浴....」


健全な男子なら、このワードだけで興奮するレベルだが、女性恐怖症のハヤトからすると危険なコブラのうじゃうじゃいるジャングルに、身一つで放り出された感じしかしない。


「ハヤトもこっちにきたら?」


それは死刑宣告だということに、トゥーナはまるで気づいていない。


「いや俺は出る」


「まあ待ちなさい」


いつの間にか近くに寄ってきていたトゥーナに、腕を掴まれて立ち上がろうとしたハヤトは、バランスを崩してトゥーナに向かって倒れこむ形になる。


「うおっ!?」

「きゃっ!!」


____バシャーン。


結構な水しぶきを上げる。

その水しぶきの間から、ハヤトは見てはいけないものを見て、さらに自分の手に神域が握られているという事実を目の当たりにする。

そして。


___もにゅ。


発育のいい柔らかい部分を握った感触が、手から伝わる。

と、瞬間トゥーナの顔が赤くなる。


「この変態っ!!!」


一撃、重たいビンタを喰らった。

原因はトゥーナにあるのに、理不尽極まりない。


ハヤトは女性恐怖症と、今のビンタのダブルパンチで、ブクブクと風呂のそこへと沈んでいった。



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