やつの妹がくる
ウィリアナ王国城内をちょっとだけ震撼させた事件から三日。城の警備は身体チェックと、持ち物チェックまで徹底する始末だ。
無理もない。十歳になる少女をやすやすと進入させた上に、武器の持ち込みまで許したのだから。
その原因となる事件から三日後。
「姫様っ!バール王国の姫からこちらに伺うとの書状が」
「あの馬鹿の妹ぉ?しょうがないわね、ハヤト呼んで」
ハヤトを呼んだのは関係者であるからで、決して私用で呼んだわけではない。
「はい、愛する人ですね」
こういうときばっかりは上機嫌になる下世話な使用人。
一応トゥーナとハヤトの関係を応援しているのだ。
「なんかおかしいっ!!」
「おかしくないですよ?」
「疑問形にするなっ!!」
遊んでいるだけかも知れないが。
トゥーナのツッコミは意味を持たずに、さっさとフローラは行ってしまった。
「あの性格どうにかならないかしら」
フローラのおせっかいは、トゥーナにとっては悩みの種。
ハヤトの側では...。
「パパ、起きてください。呼び出しです今すぐに城に来てほしいって」
「ん...ああ...お休み...」
とバタン。
「パパ起きてください」
とこうして眠れる獅子でもなんでもないハヤトを起こしているのは、先日妹を飛び越して娘になったゼロナだ。
なぜ敬語調なのかといえば、癖のようなもので直す必要もないので放置している。
これ以上粘っても根負けしそうなので、ハヤトは無理にでも体を起こす。
「どんな用件だ」
「バールの姫様が来るので来てほしいと言うことです。BY愛する人とか書いてますけど」
それを書いたのは言わずとわかるあの人だった。
「あとパパ少しお願いが」
「ん?」
「引越しませんか?」
現在ハヤトの家は、水道もガスも電気も通っていない。
ウィリアナにはちゃんと、ハヤトの家にはないものがすべてあって、現代日本とほぼ変わらない生活ができるようになっている。
ハヤトの家は風呂は川、トイレはその辺の草むらという、原始人レベルの生活しか送れない、物件的には最悪だ。
しかもたまにくる牛しか食べれないので、台所などは存在しない。
下手をすると学校の体育館よりひどい環境だった。
そんな生活がゼロナにとっては耐えられなかったのだ。
「無理だ」
そうハヤトにはしたくてもできないのだ。
「なんでですか」
「金がない」
理由というのはこの一言で片付いた。
「遅い」
トゥーナは、ハヤトが、呼びつけてから一秒でこないと、不機嫌になるような困った性格なのだ。
「悪かったな。これでもゼロナ抱えて一分くらいで来たんだが?」
とりあえず皮肉で返す。
「肝心の相手の姫さんは?」
「もうすぐ来るはず...」
「トゥーナ様っーーーー!!!!!」
と城の廊下を爆走してくる人影が。
そのままトゥーナにダイブ。
「ゴヘッ!!!」
姫には似つかわしくないような、苦悶の声を上げて床に倒れこむ。
そしてなぜか頬ずりしてる少女が。
「誰こいつ?」
トゥーナは床で目を回して倒れている。
「姫様ーーーーー!!!!」
と懐かしい声が。
「スクレールか」
「お久しぶりですハヤト殿、うちの姫は?」
「それ違うか?」
とトゥーナに頬ずりしている少女を指差す。
「ひーーーーーめーーーーーー!!!!!申し訳ありませんトゥーナ様。こら離れてください姫様」
大変だなと哀れみの目を向ける。
「改めて私はバール王国国王のロゼンジと申します。このたびはうちの兄が大変な失礼をいたしました」
失礼とかいうレベルじゃないけどな。
「別にいいわよ。あなたが悪いわけじゃないし」
「いえ私の気がすみません。お詫びの気持ちとしてこの通り死ねといわれれば死ぬ覚悟とともに白装束で参りました」
戦国時代?
「いやほんとそんなつもりはないんだけど」
「私たちはウィリアナに対して無条件降伏を申し立てます。どうぞお気の済む処置を」
割と強引に迫ってきた。
「じゃあウィリアナとバールは同盟を結ぶこと。
その条件として貴女は私の義妹になる、以上」
「おいそれって...」
同盟ということは相手を許すということになる。
しかもトゥーナの妹ということは王位継承権は子供が生まれない限りは第一位になる。
「いいの。私妹欲しかったの」
それを聞いたらフローラが何を思うかと想像するかと思うと頭が痛くなった。
「それなら喜んで同盟を結びたいです」
こうしてウィリアナとバールの同盟が締結した。
「ところでゼロナはどうするの?向こうに帰る?残る?」
「残ります。ここにはパパがいますから」
___なんですとっーーーー!!!?
これには全員驚いて慌てふためく事態に。
「そこでトゥーナさんちょっといいですか」
「な、何よ」
「パパのお給料全然払ってませんよね。ていうか見たところ一枚も。だから払ってない給料で家買ってください」
ゼロナは強引な手段として、トゥーナに家の代金の請求をしたのだ。
これではトゥーナも断るわけにはいかない。
なぜなら火種は自分なのだから。
「わ、わかったわよ」
「よかったですねパパ」
「なんのこっちゃら...」
とにもかくにも、ハヤトにもまともな家ができることになった。
 




