夢のために
「独り?そう...貴方も私と同じなのね」
「同じ?」
「私も同じ、ずっと独り」
影から見つめた彼女の顔はひどく寂しそうだった。
こいつ親がいないんだ。
彼女の心境を悟ると心が痛かった。
自分は地球で親に見離された、だがそれならまだいい。
彼女には見捨てる親も見返す親もいない。
「で、どうするのよあんたこのままどこか行くの?」
「考えてねえ」
「だったら私に仕えない?」
「は?」
ハヤトは頭が真っ白になる。
何言ってんのこいつ。なに?使える?そりゃ忍者だから間諜とかには使えるけど。
意味不明すぎる。
命狙われたやつ雇うって馬鹿なのこいつ死にたいのか。
「いいのか?俺はあんたの首を獲ろうとしたやつだぜ」
なりゆきだけどな。
「別に。あんたは首を獲らなかった、さらに戦争を止めてくれた。あんたは本質的に悪いやつじゃないのがわかった、それだけよ」
さすが一国の女王人を見る目はあるんだな。
「俺は忍びだ。いつあんたの首をもらいにいくかわかんないぜ」
「べつにいいわよ、こんな安い首」
おいおい何悲しいヒロインで自殺願望ぶっちゃけてんのやめろ俺はそういうの苦手なんだよ。
「自分の立場考えろよ、あんたは一国の主。国民の顔だ、そんなあんたが安い首っていったら国民まで安いって言ってるのと同じになるぜ」
「あんたも同じなのね。あんたもやっぱりみんなと同じこと言うんだ
やっぱり私が主だからしっかりしなきゃ強くならんきゃって言うんでしょ!!」
彼女は激高しながらも泣いていた。
「落ち着けよ今のは一般論だ。俺は違う」
「違わない。どうせ貴方も同じ」
こいつも苦労してんだな。
「昔話聞かせてもいいか」
「好きにすれば」
「俺はさ、医者の家系に生まれて小さいときから勉強勉強ってうるさくてその上俺がひとり息子だから余計に言われた。
そのおかげで成績はいつもよかったけど友達も信頼できるやつも誰もいなかった」
「誰も?家族も?」
「そうだ。それであるとき好きな子ができて告白したが、フラれた。そしたらそのまま引きずって引きこもった結果俺のダメ人生の始まりだ。
愚痴をこぼす相手もいやしねえ。友達も家族もなにもかも離れていった」
「ふん、いい気味ね」
ちくしょうこっちは黒歴史語ってんだぞちょっとは感動しろよ可愛くねえ女だな。
だが心なしか元気が戻った気がする。
「でも俺とは違ってお前には愚痴をこぼせるやつも相談できるやつもいる
だったらたまには弱い部分を見せてもいいんじゃねえか」
「なんで...なんでそんな優しい言葉をかけるのよ馬鹿...ずっと抑えてたのに...」
涙が滴り落ちる。
「あんたのせいで一国の女王が涙流してるじゃない。なんとかしなさいよ」
「泣いたのはそっちだ知らん」
そうだそんなの知らん。
「薄情者!こうなったら絶対に私に仕えさせる」
え~面倒です。ってすごく言いたい。
「あ~いくとこ思い出した...い、行かなきゃ~...」
「逃がすか!!!」
やっぱりかちくしょう。やっぱ女怖え~。
「こっちはもとより逃げるつもりなんだよじゃあな」
「そこか!!」
嘘だろ!?声の反射で!?下手すりゃ俺より化け物じゃねぇえか。
「貫けブリューナク!!!!」
どこからともなく長さが2mぐらいの槍を取り出してハヤト目掛けて投擲する。
あいつ今どうやって。
考えている時間はない。それだけ槍は恐ろしい速度で向かってくる。
「ちくしょ!」
当たる寸前で体をくねらせて直撃は免れるが。
「追え!ブリューナク!!」
壁に向かっていった槍は途中で軌道を変えて再びハヤトに襲い来る。
「マジでかっ!?」
ハヤトがいくら逃げようともブリューナクはいくらでも追ってくる。
とすれば方法は二つ。
槍を破壊するか所有者自身をどうにかするしかない。
「方法は二つに一つだ」
正直ハヤトの性格というか末期病のおかげで少女に近づくことはできない。ならば槍を一点集中で狙う。
「いくぜ」
肩がけの忍刀を取り出す。
ゲームでいつも使っていたあのスキルを想像する。
実体で使うのは初めてだができるよな。
「いくぜ、明鏡止水」
自分を中心に水面をイメージ。その槍の波動を感じ取ってもっとも弱い、そう当たれば砕ける点を探る。
「見えた!」
槍がハヤトを貫こうと襲い来る瞬間にさきほどと同じように避けると槍の穂先の付け根を下から掬い上げるように斬り上げる。
「ぜやぁ!!!壊れろ!!!」
槍は穂先からひび割れて元から長く使っていたのかべきべきと音を立て粉々に砕け散った。
「そんな私のブリューナクが...」
「俺の勝ちだな。もういくぜ」
「待って。お願いここにいて」
「俺は忍びだ闇に消える」
「私は貴方がいなかったらまた独りになる。そんなのいや!!」
「言ったろ一人じゃねえ。孤独が怖いか」
「怖い...怖いからそばにいてほしいの」
「だったら戦え!戦わなきゃずっと独りだ。戦え自分と自分もおかれてる状況と」
それは自分を救った爺の言葉だった。
「いっしょに戦ってよ!私はこの国を平和にしたい。もう戦争なんてしたくない涙なんて見たくない。私の夢を手伝ってよ」
くそ。あいつのこと思い出すようなセリフ吐きやがって。
「あ~もうわかったよ。あんたの下についてやる」
そんな顔して言われたら放っておけねえじゃねえか。
「じゃあ今日からよろしく忍びさん。私はトューナよ」
トューナは今まで見せることののなかった笑顔を見せた。