黒幕は人の手で堕ちる
降伏したゼロナを連れてハヤトは一度、トゥーナの部屋へと戻っていた。
ゼロナの処遇を決めるのは、トゥーナの判断が要ると判断したからだ。
「さあ答えてもらうぞ。俺たちを殺すように命令した人間は誰だ」
「フォーゲイザー様です」
あの男か。と満場一致で納得。
「またあいつ?いい加減にしてほしいわ」
「姫様今度こと燃やしましょう。焚刑です」
「いやいやもう塵に変えるわ」
さらさらと恐ろしいことが口から出てくるものだ。
そして実行できるからなお恐ろしい。
「なぁ。とりあえずあのバカ元王をどうこうするかは放っといて、どこにいるのかから聞かねえ?」
このエスカレートしていく状況下で、話が進まないのを拙いと思ったハヤトが、横からストップをかける。
「それもそうね」
「そうですね」
どうにか収まりがついたようだ。
しかし地雷を踏まないように、慎重に会話しないと、また話が戻ってエスカレートが終わらなくなるのを考えると、ハヤトの精神力はいやに磨耗していく。
「で、そこの子娘」
お前もだろ。そう思ったが、さきほど地雷は踏まないと決意したところなので、言わないことにする。
「あんたあのバカの居場所知ってるの?」
「姫様そのような言葉遣いではいけません。もっと『か』の前にあの音を伸ばさないと」
「いやそれさらに感じ悪くなってるから。一応お前ら女王とそのお付きだよな?」
明らかに王家の人間とは思えない会話に、ハヤトも苦言を呈す。
「あっ忘れてた」
「忘れちゃいかんだろ...」
もうハヤトもツッコミ切れなくなる。
「で、どこなの?」
「それは...」
ウィリアナ王国の外れの森。
ハヤトが住む森とは、ちょうど国をはさんで反対側に位置する森に作った隠れ家に、フォーゲイザーは潜んでいた。
(スコープは無事に任務を果たしただろうか)
スコープとはゼロナのコードネーム、スコーピオンの愛称だと自分はおもっているが、周りはまったく思っていない。
実はゼロナでさえもいつか改名したいと思っている。
(ちょっと気になる。だがここで見に行くようなら王失格だ。
しかし気になる)
こうしておどおどしている時点で、王など当の昔に失格である。
(ま、いっか。こうして待っているだけでいいんだからのんびり...)
そんな甘い考えはすぐに崩れ去る。
「随分と余裕そうだな、フォーゲイザー?」
聞きたくもなかったその声に、フォーゲイザーは身を震わせる。
「お、お前なぜここに…」
「俺だけじゃないぜ」
ハヤトの指す方向には。
「そこまでよフォーゲイザーっ!!!」
「トゥ、トゥーナ...姫。なぜだお前らは死んだはず…」
「ちゃんと確認したのか?」
「す、スコープはどうした?まさか...」
「死んでませんよ。ちゃんと生きてます」
ゼロナが歩み出る。
「スコープ。いや、ゼロナ。まさか裏切ったのかっ!!この僕をっ!!!」
「もうやめにしませんかフォーゲイザー様。私たちは負けたんです」
「馬鹿な、そんなはずはあるか。僕は王、生まれついての王...こんなやつらに負けるはずが...」
___タァンッ!!!。
言い終わる前にゼロナが、フォーゲイザーの喉を撃ち抜いていた。
「しゃべりが過ぎましたね。もう貴方は王でもましてや人でもありません」
「この...くそがき...」
フォーゲイザーの体がドサリと音を立てて転がる。
「ありがとうございました」
こんな屑でも、ゼロナにとっては恩人に変わりはないのだ。
「ゼロナ...」
「これでいいですか?」
「不正解だ、馬鹿野郎。少なくとも人としてはな」
本当はハヤトだって褒めてやりたかった。でも褒めればきっとゼロナはこれからも道を間違える。
だから褒めずにあえて不正解と答えた。
「人を殺すことは正義か?」
「いえ」
「じゃあ悪を殺すために人を殺すことは正義か?」
「違うんですか?」
「悪でも正義でも、人を殺したらそいつは人殺しだ。同じように悪なんだよ
お前は、そうならないで欲しい。わかるな?」
「はい」
「よし」
ハヤトはゼロナの頭をわしわしと撫でる。
トゥーナはそれを見て、かなり不機嫌そうなオーラと目でみてくるが見ていないことにする。
「あのハヤトさん。実はまだ片付いてないことが」
「なんだよ」
「フォーゲイザー様には協力者がいたんです。このウィリアナに」
「「「なんですとっーーー!!!!?」」」
ウィリアナの三人の声が重なった。
私の名はレイ。前国王レクスの弟に当たる。
レクスが死に、妻のリラも死に、ついに政権を我が物にと思っていた矢先に、トゥーナにその座を奪われ、そして暗殺を企てようとしたが、いくどとなく阻まれた。
さらには、あろうことかあのハヤトとかいう忍びのせいで、余計にやりづらくなったではないか。
フォーゲイザーの小僧に、トゥーナを上手い具合に丸め込み、ハヤトとかいう男を暗殺すればフォーゲイザーの後ろ盾である俺は、バールとウィリアナ、両方の政権を握れるはずだったというのに。
「まったく。失敗しおってあのガキめ」
「何を失敗したんだろうな」
「それは貴様らの...って貴様っ!?」
おっテンプレな驚き。
「おじ様」
「ひ、姫...様...」
トゥーナの姿を見ると、力を失ったように膝から崩れ落ちるレイ。
「これまでの所業、すべて聞かせていただきました。これから国王として貴方に処断を下します」
「馬鹿なっ!?私を罰する?笑わせる。私は王族の人間だぞっ!!!」
原則王族の人間は裁かれることがない。
しかしそんなルールは、トゥーナの前ではぼろきれに書かれた文字も同じ。
「貴方をコドル島へと流刑にします」
コドル島とはウィリアナが所有する、唯一の島である。周りに島も陸もない完全な孤島で、もちろん島民などいない。
「あんな辺境の島にっ!?この...私を!?」
「今すぐ連れて行きなさい」
近くの兵士に命令すると、もう用はないといった風に、足早に去っていった。
「おいトゥーナよかったのか?」
「あの人はもう王族じゃないもの。あれはただの罪人。情けなんていらない」
「それでも親戚だろ」
「私は国王よ、どんなときでも非常になれる心を求められているの」
その顔には紛れもなく涙が伝っていた。
ハヤトはこんなときに、抱きしめてもやれない自分の弱さを心底から恨み、怒った。
と、思っていたら。
「ハヤトッ!!!」
トゥーナのほうから抱きついてきた。
「いやっちょい待てっ駄目だって、おい...」
「いいから、このまま居させて」
そのときのトゥーナの顔は、ハヤトに埋もれて見えなかったが確かに涙でぐしょぐしょだった。
「ハヤト」
「あ、あががががががが....」
ハヤトは精神崩壊を起こしかかっている。
「まだ私のこと怖い?」




