同じでも譲れないもの
壁から飛び出したタイミングはほぼ同時。ゼロナは瓦礫の隙間からハヤトに向かって小銃で発砲、寸分狂わず瓦礫の隙間を通り抜け、ハヤトの急所目掛けて弾丸が飛んでいく。
ハヤトは同じように的確に、弾丸を切り飛ばし避ける。
さらに意趣返しとばかりにクナイを投げつける。
ゼロナは手に持ったナイフで、クナイを弾くと同時に、ハヤトに対して打ち返す。自分の攻撃が跳ね返されたハヤトは水遁・滝水(水でできた壁を作り出す術)でクナイを打ち落とす。
そして地面に着地、と同時に同じタイミングで地面を転がり、体勢を整える。
「ハヤトさん人間ですか」
「失礼だな。これでも人間だ」
顔だけは笑顔だった。が、声は笑っていない。
「こんなことならあの谷でちゃんと仕留めておけばよかったです」
「谷?」
「あの谷での銃弾撃ったの誰だと思います?」
「さあな」
「私です。貴方を殺すという目的のために撃ちました」
「...!?」
ハヤトは驚きのあまり声すら出せなかった。
こんな少女が、あの高速で動き回るハヤトを撃ったという事実に衝撃を受けたからだ。
「だから言っておきます。ごめんなさい、ホントはこんなことしたくないんですけど」
ゼロナはその手に二丁のH&KG36を手にもつ。
アサルトライフルか。古いモデルだな。
ハヤトも少々ぐらいなら、銃の種類を見分けるぐらいの知識量はある。
この銃は1985年にドイツで採用された陸戦兵器で、両手で一つずつ持つスタイルの銃だが、少女の膂力で持てる重量でないはずだ。
「それでも命令ですから。貴方方を殺します、ほかの方々は対象に入っていないので安全を保障します」
「命令か。お前は死んでもその命令を優先するんだな?」
「それが存在意義であり私です」
「俺だってお前と戦いたくない。できるなら、俺たちが喧嘩してるの見て笑ってるお前でいてほしい」
「御託は終わりです。いきます」
城の周りに被害がいくとか、ゼロナからするとひどくどうでもいいのだろう。ハヤト目掛けて二丁のアサルトライフルの弾幕が降り注ぐ。
しかしハヤトには防御のための手段。土遁・土返し(強制てきに土を盛り返す術、おもに壁や隠れるための障害物として使われる)がある。
「仕方ないですね」
ゼロナはまだ弾丸をすべて撃ち切ったわけでもないのに再装填そして再び発砲。
今度の弾はさきほどまでと違い、貫通することなくただ一点に集まっているようだ。
そしてついにその一点が貫通、そこから弾が飛び出す。
これにはたまらずハヤトも逃げる。
「どうですか?チタニウムの弾丸です。鉛より重いので穴を開けるにはちょうどいいんですよ、脆いですけどね」
チタニウムは鉛よりは脆いが反動的に重い、ゼロナが一点に集中して撃ったために、重さで壁にくぼみができ、そこがどんどん深くなり、穴ができる結果となった。
「終わりです、壁のない貴方などただの的です」
ゼロナの弾丸がついにハヤトを捕える、が。
ハヤトは煙となって消える。
「えっ!?ど、どこへ...」
「後ろだ馬鹿娘、土遁・土竜の術」
なんとハヤトは壁が貫通される前に、分身を作り
本体は土のなかで、じっと分身が消されて動揺する瞬間を狙っていたのだ。
そしてついにハヤトの刀が、ゼロナを切っ先に捕える。
ゼロナも背中越しに小銃を構えて迎え撃つ。
「一つ聞くぞ。降伏する気はないか」
「ありません」
ゼロナは前へ回転しながら飛びのいて、小銃を撃つ。
ハヤトもすべての弾丸を受けきったあと、忍具のひとつ鎖鎌(おもに敵の足を絡めとってこかせて外すのに手間取っている間に逃げるという使いかたをした)でゼロナの足を取り、引っ張ってこかす。
そのとき「きゃッ」とかいう可愛い声が出たのは無視しておく。
「降伏しろ、じゃないと本気で殺すが」
「何度も言ってるでしょう。降伏はしません」
ゼロナは鎖鎌の鎖を振り回して、ハヤトとの距離を取ると強引に取り外す。
その足からは、その代償とも言うべき血がツーッと垂れ落ちる。
「お前なんでそこまで...」
「私のマスターは生き場所を失った私を救ってくれた恩人、それを裏切るなんてできません」
『僕と共に来い。お前に場所をやる』
主の言葉が過る。
「だから死んでも私は任務を果たします」
「死んでもか...じゃあそのマスター様はお前のために命くれんのか?」
「そ、そんなこと関係ありません...私は...」
「このバカ野郎ッ!!!」
戦闘中だというのに、ハヤトはわれを忘れたように怒って叱り付けていた。
「いいか。てめえの命かけるんなら、同じように命かけてくれるやつにだけかけろ。
そんなのは命が分からねえガキのやることだ」
「貴方に...貴方なんかに何がわかるっていうんですか!!私にはあそこ以外居場所がない、戦場以外に居場所はない。私はここ以外に生き方を知らない!!
そんな私のことを知った風に...」
「知ってるよ」
「えっ...」
激昂していたゼロナは今の発言に驚いた。自分の境遇がわかる人間なんているはずもないと、そう思い込んでいたからだ。
「俺もそうだ。いきなりあの姫様に雇われて戦場暮らしだ、戦うことしか生きる方法を知らないのは俺も同じだ」
ハヤトも戦場で生きてきた。転生してからはただ戦いに明け暮れる日々、戦争や血を常日頃見ることのないハヤトからしてみれば、吐き気がしそうな毎日だった。
それでも強く生きられたのは、トゥーナのおかげだと思う部分もないわけではない。
それを鑑みると、ハヤトもゼロナも境遇は同じなのだ、ただ年が違うだけで。
「そうですか貴方も同じなんですね」
「でもお互いに譲れないものがある」
「だったら」
「ああ」
「「この一撃でッ!!!!」」




