ゼロの暗殺者
ゼロナは、食べることのできないはずの牛肉を口いっぱいにほおばるハヤトを、顔を引きつらせながら無理やりに笑顔でみていた。
「どうした食べないのか?」
食べられないと言っているのだが、この男はなんの迷いもなく食べている。その状況が信じられなかった。
「わ、私はいいです...」
そう言ってなにやら携帯食料を漁るゼロナ。
それをなにかゼロナが、まともな食生活をしていないと勘違いするハヤト。
「ちゃんと食べないとダメだぞ」
肉しか食ってないような男のセリフとは思えない。
そもそも肉ばっかりで、栄養バランス大丈夫かと逆に心配になるぐらいだ。
「そ、そうですね...あはは」
苦笑してごまかすことにした。
「主。そろそろ夜だが、その少女はどうする気だ」
「そういえば」
もう日は地平線に沈みかかっている、このままなら夜を迎えるのは時間の問題だ。
そして指しあたっての問題というのがゼロナだ。
「どうするんだ?俺の伝で格安の宿紹介できるけど」
宿とはトゥーナの城のことだろう。確かに女中がみんな住み込みで働いているのだ。部屋ぐらいいくらでもあるだろう。
「いえ。このままここに泊めてください」
泊まるのはいいのだが、10歳程度とはいえ男と女が一つ屋根の下というのはどうかと、ハヤトであっても、いやハヤトだからこそ深く考える。
「あのさ...俺一応男なんだけど」
「ハヤトさんはそんなことしない人だと思ってます」
ハヤト的には喜んでいいのか、悪いのかだが信頼されているので、ここでダメだと言ったら信頼を裏切ることになるので、ここは了承するしかなかった。
「一応言っておくがベッドとかないからな」
「さっき見たので知ってます」
実はベッドが欲しいのだが、そんな、ものがないのが当たり前のように言われると、余計に欲しくなるハヤトだった。
夜。さすがに夜はハヤトも警戒して、目を片方だけ空けて寝ていた。
忍びの心得として『寝るときは片目だけを開けて寝よ』というものがあり、これはいついかなる攻撃、敵が来ようと、すぐさま対応するための心得とその訓練のためのものである。
いくらゼロナが10歳ぐらいとはいえ、間違いが起こってもおかしくはないのだ。
警戒しても不思議はない。
そしてそんな警戒心丸出しのハヤトにかかる影が。異様な殺気を感じる。
ハヤトは、その影がアクションをするまでは、息を潜めることにした。
その影はハヤトに向かって腕を振り下ろす。
ハヤトはその瞬間に、上体を捻らせて迎撃の態勢を取る、が。
「ハヤトさ~ん...トイレどこですか~...」
影の正体はゼロナで、どうやらトイレのようだが。
「トイレないぞ」
ハヤトの拠点にはトイレなどない。基本的に外だ。
「そん...な...」
結局恥を承知で外ですることになる。
(さっきの異様な殺気はなんだ...)
と一旦考えるが、まさかゼロナではないと思ってちゃんと寝ることにした。
「おわしてございますハヤトさん」
またあの変な挨拶から朝が始まる。
「ああ俺はここにいるよ...おはようそしてお休み...」
起こされたのというのに、再び眠りに入るハヤト。
「起きてくださいハヤトさん」
「無理...」
ちなみにただいまの時刻12時だ。
「ハヤトさん。行きたいところがあるので、いっしょに来てほしいんですけど」
「何?...行きたいとこ...?」
ハヤトもしょうがないなあといった感じに、体を起こす。
「お願いします」
「で、どこなんだ?」
「それは...」
「王城か」
ゼロナの目的地とはトゥーナのいる城だった。
「これだったら昨日案内してもよかったな」
「えっ?格安の宿ってここだったんですか」
今頃気づくゼロナ。
「まあいいや。ようがあるのはトゥーナでいいな?」
「はい」
「よしいくか」
二人は城の中へと入っていった。
「お~いトゥーナ客~!」
と軽い声を出しながら入り口のドアを破壊する。
「こらハヤトっ!!部屋の扉どうしてくれんのよ」
「お前が修理する」
無責任にもほどがある。
「それよりこの子がお前に用事があるって」
「何この子」
「どこの子かはわからないけど、結構な頻度で遭遇してる不思議な子だな」
「なにが結構な頻度で遭遇よ。どうせいちゃいちゃしてるくせに」
どこかひねくれたように言うが、いまどきいちゃいちゃもどうかと思う。
「お前何勘違いしてる?」
「ふんっ!」
恋する乙女は嫉妬深い。たとえ10歳前後の少女が相手でも。
「で?そっちの子は私になんの用?」
「はい...え~と...」
ゼロナはどこからか隠していたナイフを手に持つと、トゥーナに襲い掛かる。
「死んでください」
トゥーナにナイフがあたる寸前で、ハヤトがナイフを弾き飛ばす。
くるくるとナイフが回転して壁に突き刺さる。
「ゼロナ...やっぱりそうだったんだな?」
ハヤトは悲しみの籠もった目で、ゼロナを見つめる。
「意表はついたつもりだったんですけど。さすがですハヤトさん」
軽口を叩きつつも、長柄の刀とナイフで力が拮抗してカチカチと音を立てる。
「昨日のあれも、お前は俺を殺そうとした。そうだな」
「でもハヤトさんはまったく寝てくれないので、仕方なく嘘つきました」
「なんでだよ...なんでそんなこと...」
「ごめんなさいハヤトさん。私はある方の命令で貴方たち二人を始末しなければなりません。
だから改めて名乗ります。
暗殺特務戦闘隊大隊長兼狙撃暗殺部隊隊長。コードネーム:スコーピオン。
すべてを0に変える者、ゆえのゼロナ
お二方、その命貰い受けます」
「ここまで堂々とした暗殺は初めてだ。だから俺も名乗らせてもらう
ウィリアナ忍び部隊隊長ハヤト。もっともその軍は俺だけだが」
ハヤトも妙な意地を張って名乗る。
そして部屋の壁を破壊して、外へ飛び出したことで、戦いの火蓋が切って落とされる。




