来訪者は突然に
鎮魂祭も終わり、町は一旦また静けさを取り戻す、そしてこの男、ハヤトもまた静けさというより鎮火したように横になって、いや横たわっていた。
「主、もう昼だが」
「いい...今日休み...」
一ヶ月の休みをいいことに寝呆けていた。
この自堕落ぶりに烏も黙ってはいられなかった。
「たまには修行でもしてきたらどうだっ!」
珍しくキレる。
「修行?なんの?」
と言われると、烏は忍びの修行のひとつも知らないので黙りこんでしまう。結果、ハヤトが二度寝することになる。
「はぁ...」
こんな男の補佐をやっている自分が、情けなくなって一旦拠点としているツリーハウスから外へと出ようとする。
すると入り口で。
「こんにちは」
少女が立っていた。
こんなところに人がくるはずもない。そう思っていた烏は虚を突かれる、しかし一瞬でわれに帰る。
「なんのようだ?ここにはだらけまくった主以外誰もいないぞ」
「その主さんに用があってきたんですけど」
その少女はハヤトに用があってきた。つまりはあのだらけ主を起こさねばならない。
烏は意を決して起こしにかかる。
「主、客だ」
「客?...追い返せ」
にべもない。
「お前に用があるそうだが」
「俺は用がない」
当たり前だ。ハヤトの方に用があったのなら、いろいろ訳のわからないことになるだろう。
「いいから起きろ」
「やだ...寝る」
こうなってはもう意地でも寝る気だ。
烏も負けじと起こしにかかる。
「起きろ」
「もちっと寝かせて」
起きる気はないようだ。
ちょっとイライラしてきたのか、烏は嘴で突き始めた。
__ツンツン。
まだ起きる気配はない。
今度はさらに早くする。
___ツンツン。
それでも起きる様子はない。
ちょっとダイレクトに痛いところをやってみる。
__ツンツン。
これでもかというぐらいやったが、まったく効いていない。
これにもうついに烏がブチキレた。
___ツンツンツンドスドスドスドスドスドス。
途中から突き刺さったような音しかしていない。そしてハヤトも、さすがにこれは効いたのか、ようやっと目を覚ます。
「うるせぇええええええええええええ!!!!!」
森に響くほどの大絶叫。こんな木でできた家では、反響というより振動がすごかった。
しかしハヤトはおかまいなし。
「っせーんだよっ!どんだけ突けば気がすむんだよっ?お前は俺を蜂の巣にでもしたいのかっ?」
一日寝ようとしていたハヤトは、眠りを邪魔されたのだ。不快というだけでは気持ちは収まらないだろう。
しかし烏も反撃に出る。
「お前はあんな少女を、一日中入り口に立たせる気かっ」
「知るかんなもんっ!!」
「この鬼畜がっ!!」
「黙れゴミアサリっ!!!」
一応八咫烏にとっては禁句の一言である。なんでも現代のゴミ箱をあさる鳥と、神話の神聖なる鳥をいっしょにするなということらしい。
「なんじゃこらぁ!!!やんのかこのなまけ忍者がっ!!!」
もうキャラとかかなぐり捨てて、ハヤトとガチ喧嘩を始めていた。
鳥と人だから鳥が不利だろうと思うだろうが、烏は上空を飛びまわってフンを落としまくって、ものすごい優勢である。
「てめっ!それ掃除すんの誰だと思ってんだ」
「その権利を貴様に譲ってやるわ」
「てめえっ焼き鳥にしてやるっ!火遁・火走り」
とこんな調子で小一時間ほど鳥と人の戦いは続いた。
一時間後...
「て、てめえこら...さっさと...焼き鳥に...なりやがれ...」
「と、ところで主よ...何か...忘れて...おらぬか」
「あっ...」
いまごろになって客の存在を思い出す。
「プフ...アハハハハ!!!」
その場にいた誰かが思わず笑い出してしまった。
それはハヤトでも烏でもなく「客」だった。
そしてその客を、ハヤトは今一度よく見ると、それは不思議で神出鬼没な少女ゼロナだった。
「ゼロナ?」
「ハヤトさん面白い人ですね。笑っちゃいましたすみません」
目に涙を浮かべるぐらい笑っていたようで、目を擦りながら言う。
「なんだ客ってゼロナか」
「今頃ですか。もう一時間くらい立ちっぱなしです」
「あ~なんか悪い」
ポリポリと頭を掻いて謝るハヤト。
「今日何しに来たんだ?」
「ウィリアナに来たんですけど、どこいったらいいかわからなくて、とりあえず知ってる人のところに来ました」
「それで俺のとこか。他に知ってる人とかいないのか」
「いません」
首を横に振りながら言う。
そのとき....。
____BMOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO。
「あの声はっ!!」
ハヤトはゼロナを放って外へと飛び出す。
「ハヤトさんっ!?」
ゼロナも追って飛び出す。
飛び出した先にいたのは、というよりこちらに向かってくるものは、ハヤトの主食たるギガントヴァッカだった。
「肉...肉...飯...」
「ちょっとハヤトさん目が血走ってますよ」
ハヤトはこうして、あの牛が走ってきたところを捕まえるぐらいしか、食料を得る機会がないので、これはなんとしても捕まえなければならない食料なのだ。
___BMOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO
地鳴りとともにギガントヴァッカが走ってくる。
「ハヤトさんっ」
「ねりゃああああああああああ!!!」
ゼロナの心配をよそに、ハヤトは一撃で巨躯を誇る牛を殴り倒してしまった。
牛は例のごとくズシンと音を立てて倒れる。
その様子をみたゼロナは、空いた口が塞がらないという状態だった。
「さ、飯にしようぜ」
「ハヤトさん」
「ん?」
「その牛さん食べれませんよ」
「えっ?」
今頃人に言われて、食べられないことを知る。




