誘い、それは是か非か
トゥーナは今日はいつもと違い、部屋ではなく墓地を訪れていた。
トゥーナの両親、レクスとライラの墓参りのためだ。
この世界においても、墓参りという概念は存在するが、基本土葬である。
そして両親の墓は城の裏手に、ひっそりとつくられていた。それなりに大きいが。
「お父様、この国は大きく変わってる。ちゃんと約束は果たせそうです」
『トゥーナ。私がもしいなくなったらどうする?』
『お父様いなくなるの?』
『私だっていつかはいなくなる。それは明日かも知れないし今この瞬間かも、それともかなり遠い未来かも知れない』
少しさびしそうにレクスは言っていた。と思う。
『いやっ。お父様、ずっといっしょにいて』
『できないことは約束できないよトゥーナ』
この頃のトゥーナは、わがままばかり言ってよく父を困らせる娘だったということを、トゥーナは覚えている。
もう少し賢かったらとか後悔していないでもない。
『できるもんっ!』
無理難題を言うものだ。レクスも子供のいうことだと半ば諦めている。
『無理を言うものじゃないよトゥーナ』
『だって。お父様がいないのなんて嫌っ!』
『さっきもいっただろう。いつまでも一緒にはいられないって、だから一つだけ約束してくれ』
『なあに?』
『私がいなくなったこの国を、トゥーナが変えてくれ。ちゃんと好きな人と結婚して、国中が笑顔になれそうなそんな国に』
『う~ん...よくわかんないけどわかった。約束』
トゥーナは小指を差し出す。
『頼んだよ』
レクスも小指を出して指切りで約束を交わした。おそらく最初で最後の約束だったろう。
そしてそれから数日してから、レクスは死んだ。
「私はちゃんとお父様との約束を果たします」
(そういうことか...)
と影から観察しているのは、例によって見回りにきたハヤトだ。
こっそりとトゥーナの様子を監視しているつもりだったが、変なことを聞いてしまい、複雑な心境に変わる。
「気になられますか?」
いきなり声をかけられて攻撃態勢に入る。
が、声の主はフローラだった。
「すみませんいきなり声をかけて」
「いやこっちもすまなかった」
「私とは面と向かって話をなされるのですね。嫉妬されますよ」
「少しは気をつけているつもりだったんだけどな...」
ハヤトもだんだん免疫がついたのか、ついてないのか、見るだけなら問題はなくなった。触れるまでいくとアウトだが。
「あんたは家族とかいないのか?」
「家族は15年も前に娘を失ってから一人です」
(15年...)
どこか引っかかるものがあったのだろうか。
15と言う数字について、考えこんでしまうハヤト。
「あっハヤト!」
トゥーナもこちらの存在に気づく。
あいつも気配読めたのか。
「何してるの二人で」
「立ち話」
「井戸端会議です姫様」
示し合わせたように答える二人に、釈然としない様子のジト目で睨みつけてくる。
「何もなかった?」
「何もなかった」
「なにもありません」
これもまた息ぴったり。案外トゥーナを弄り倒してるだけあって、気が合うのかもしれない。
トゥーナは面白くないという顔を浮かべて、ため息。そして。
「ハヤト。あなたに言いたいことがあるの」
「俺に?」
フローラが「まさかっ?」とか言ってすごくわざとらしい反応は無視することにする。
「こ、今度お祭りをやるから。あ、あなたも来なさい」
ようするに祭りの誘いだった。
ハヤトとしては別に仕事でもないので、断ることもできるがあえてOKしておく。
国のことについてあまり知らないのを、ハヤトはよくは思っていなかったからだ。
「しかし何でまた今の時期に祭りなんだ?」
「あさってから鎮魂祭、死んだ人の魂を弔うためにお祭りをするの」
お盆のちょっと派手なバージョンという解釈にしておいた。正直鎮魂祭とかいわれても、内容がまったく掴めないからだ。
「そっか。そういう風習だもんな」
「ハヤトは違うの?」
「俺が生まれたところじゃ、鎮魂祭じゃなくてお盆っていって。死んだ人の魂が現世に帰ってくるから、その間ゆっくりさせてあげようってことで、一応祭りっぽいのはやってたような気がするけど。
基本的に踊りを踊ってるだけのさびしい祭りだったよ」
お盆であっても関係なく、ゲームしてた男がいうことではない。
「そうなんだ。ちゃんと死んだ人も大事にするんだ」
「死んだ人もな」
ハヤトの身内で死んだ人といえば、爺だけで他はみんなぴんぴんしている。
ハヤトはそこだけが不思議だったが、まあどうでもいいことだ。
だから死んだ人を大事にするとか言われると、爺を大事にするとしか認識がいかないのだ。
「と、とにかく言ったからね。ちゃんと来なさいよ?」
「あ、ああ…」
なんだかこんな殺伐とした世界であるのに、平和ボケして祭りなどやってていいのだろうかと思ってしまう。
それで言葉に詰まってしまった。
「じゃあ…な」
少しきまり悪そうにハヤトは姿を消した。
「姫様」
フローラがどこかまじめそうな声で声をかける。トゥーナが振り返ると。
「どんまい」
トゥーナはイラッとしたのかフローラとにつっかかって三十分費やした。
こうしてみれば、まるで時折喧嘩する仲のいい親子のように見えるのだが。
           
 




