それはひどく無情で運命的な
聞こえるはずのない突然の声に、その場にいた人間は各々希望と焦燥し、安堵していた。
そして窓の外の声の主は、部屋の中に入ってくる。
その姿は間違いなくハヤトだった。
「ハヤト...?ホントにハヤト?」
「偽者に見えるか?」
夢じゃない。そう信じるのに、しばらく時間がかかった。
だがすぐにいつもの調子を取り戻す。
「おかえり」
「ただいま。は良いんだがその前に...」
ハヤトは刀をフォーゲイザーに向ける。
「俺がなぜ谷に落ちる結果になったか、はっきりさせようかフォーゲイザー」
「な、なんのことだ。僕は知らないぞ」
「この状況で惚けても虚しいぞ。白状しなければ俺からいうが」
もうすでにフォーゲイザー包囲網は出来上がっていた。
フォーゲイザーに逃げ場は用意されていない。
「どういうことハヤト」
「ハメられたんだよ。こいつはお前とこの国を手に入れるために俺を罠に嵌めて、どてっぱらに銃弾ぶちこませ、あげく谷に俺は捨てられたってわけだ。
どうだフォーゲイザー?反論があるなら聞くが」
何も答えようとはしない。なぜならすべてが事実であるからだ。
弁明の仕様ない。
「沈黙は是と取るぜ」
「なぜだ...なぜお前は生きているっ!!なぜ俺の邪魔をするっ!!!」
もう隠す気もないようだ。
「一人称は僕じゃなかったか?エセ奇策師殿?」
この一言で完全に論説対決はハヤトの勝ちだ。
「答えろ。なぜだ」
ハヤトは服をまくって腹を見せる。
「わかるか。お前のとこの誰かに撃たれた銃弾のあとだ。そこを手術して弾丸を取り除くことで、どうにか助かった。
まったく医者の息子の初手術が自分なんて勘弁してくれ」
皮肉をいいながら服を戻す。
「そんなことが...くそが...お前さえ、お前さえいなればっ!!!」
懐から小銃を取り出して、銃口をハヤトに向けて発砲する。
だがハヤトにはすでに見えた弾、指で挟んで止める。
「終わりか?」
「くっ...」
ハヤトは持っていた刀で、小銃を跳ね上げて、喉元に刃先を向ける。
視線はひどく冷酷だった。
「さぁ。どうしてやろうか」
「選びなさい。今ここで殺されるか監獄に入れられるか」
どちらも死刑には変わりが無い。死ぬまでの時間が変わるだけだ。
「こ、この僕を監獄へ?できるわけが無い。僕はバール王国の国王だぞ」
「いいえ国王様。いや、フォーゲイザー。貴方はもう国王ではありません」
壊れた入り口から入ってきたのは、スクレールだった。
「す、スクレールぅぅぅ!!!!どういうことだっ!!!僕が国王じゃない?笑わせるな!!!」
スクレールは、静かに一枚の羊皮紙を取り出して読み上げる。
「議会より通達。議員9人のうち9人の賛成により現国王フォーゲイザーを王の座から退位させることにする。
さらに、次期国王には妹君のロゼンジ殿を即位させるものとする」
バール王国は基本的に、国王と議会のふたつで国政を動かす議会主義の国だが、国王不信任の場合は、議長を含む議員の過半数が賛成すれば、即国王を解任、新たに就任させる権限をもつ。
「馬鹿なっ!?議会が全員一致だと!?ありえない!!陰謀だ!!」
「貴方の人望ですよ。国の予算を、この国へ来るためだけに費やす貴方を、国は王とは認めない。そういわれているのがわからないのですか」
フォーゲイザーを守るものは何一つとしてなくなった。
「さあ、どうする。うちの姫様はお怒りだからな、早くしないと、俺の手を押して刺しかねないぞ」
フォーゲイザーに選択が迫られた。今死ぬかあとで死ぬか。
そしてついに口を開いた。
「助けてくれ...まだ死にたくない」
「決まりね。今すぐにラスターゲフェングニスへ連絡。罪人を連行するわ」
「はぁい姫様」とか言って、うきうきしながらフローラが出て行った。
鬱憤のひとつくらいは晴れたのだろうか。
「助かったスクレール。あんたがいなかったら俺もトゥーナも危なかった」
「私からもお礼を言わせてもらうわ。ありがとう」
「いえいえ。私はただ、議会を焚きつけてハヤト殿を救出しただけの老人ですよ」
それは謙遜しているのかと、疑いたくなるような発言に二人して苦笑する。
「しかしよく俺が谷にいるってわかったな」
「実はというもの、貴方方が出て行かれてから跡をつけておりましたところ、途中で倒れる兵士を見つけたのですが、フォーゲイザーやハヤト殿の姿が見えず、フォーゲイザーの馬車を目視したのですが、ハヤト殿の姿がこちらにもなかったのでもしやと思い探しておりました」
裏方でかなりすごいことをしていたようだ。執事とはとんでもなくすごい職業なんじゃないかと、感心していた。
「ではこの者を縛り上げて、引き渡してまいりますので私はここで」
ズルズルとフォーゲイザーを引き摺ってスクレールは部屋を後にした。
そして部屋には、ハヤトとトゥーナの二人きりとなった。
「ハヤトっ!」
いままで我慢していたのだろう。二人きりになった途端に抱きついてきた。
「ちょっ...おまっ...やめっ...」
ハヤトは通常の人格を維持するのに必死だった。
どうにか微妙に押さえ込むことはできるようになったらしい。
「いいから。このまま居させて」
俺が困るんだけど。
「ごめんねハヤト...私が行かせたばかりに...」
「き、気にすんなよ。自分の意志で行ったんだ、お前が悪いってことはないから謝るな」
「でも、ハヤトが私の知らないところで死んだらどうしようって」
「お、俺が簡単に死ぬかよ」
言葉の端々が上擦って動揺丸出しだった。
トゥーナ的にはわかっていることなので、そのまま続ける。
「ねえハヤト...あのね」
夢の続きを言おうと決心して口を開く。
だが一向に反応が返ってこない。
「あれ?ハヤト?」
良く見れば立ったまま寝ていた、静かにトゥーナにもたれかかるようにしてだが。
そしてとうとうバタリと倒れる。
「ちょっとハヤト?」
そのとき窓から一匹のカラスが。
ハヤトの烏だ。
スクレールとの会話のあと、こちらをずっと覗いていたのだろうか。
「貴方ハヤトの...」
「主は休養が必要だ。連れて帰るぞ」
烏は返事も聞かずに、三本足で器用につかんで窓からハヤトをぶら下げたまま出て行った。
その様子を呆然とみていたトゥーナは。
「言えなかったな...私の気持ち」
一方...監獄へと連行される馬車。
中では、フォーゲイザーが何かの呪いでも出そうというのかという、憎しみのこもった目で何度も何度も「殺してやる」と連呼していた。
(あいつさえ。あいつさえいなければ。もういい、手に入らないなら壊してしまえばいい)
ここは馬車のなか、どうすることもできないくせに、まだ何かを企んでいた。
そして協力でもするかのように、突然馬車が横転する。
馬の引き手は横転したときに、足の骨を折ってしまい動けずにいる。さらには中で見張っていた護送兵まで、頭を打って気絶していた。
(なんだ...何が起こっている)
わけがわからずにいると、突然馬車の壁がメキメキと音を立てて壊れ、外から光りが入ってくる。
「大丈夫ですか」
「お前か。助かったよ」
フォーゲイザーを助けたのは、まだ十にもならない少女だった。
「私の主は貴方です。生きている限りは尽くします」
「よし、いい子だ。じゃあ任務をあげよう。トゥーナとハヤトを殺せ」




