脱走
ハヤトは眠らされて捕まって縛られて宮廷に連行されていた。
「おいこらっ!!縄解け歩き難いんだよ!なんで亀甲縛りなんだよ絶対お前らそっちの趣味の練習だろこらっ!!」
「うるさい黙って歩け」
ことあるごとに鞭を打ってくる。
「痛って!俺はそっち趣味じゃねえぞあえていうなら鞭じゃなくて縄できつく縛って吊るして眺める派だ」
勝手に性癖カミングアウト。
「お前・・・・」
「なんだよ...」
じりじり顔を近づけてくる。
「やっぱりそっちの趣味だよな」
「同士か」
なぜか意気投合。
「やっぱり吊るしてそれを眺めるほうがな、なんか萌えるよな」
「さらに蝋燭垂らしてじわりじわりといたぶるのがいいんだよな」
「やっぱお前気が合うな、もし牢獄にいれられたら牢の中と外で話し合おうじゃないか」
脱獄を手伝ってはくれなかった。
どころか監視する気満々じゃないか。
「それにしてもあいつ見ろよ、典型的ロリコンだ」
「消えろ社会のゴミクズ、性犯罪者」
Sコンビ結託。
「うるさい!男はみんな死ぬときは無垢なる少女に目覚めるロリコン予備群なんだよ!」
「お前にいたっては末期だろうがフランツ」
「お前こそSMクラブ従業員だろうがロッツ」
なにやら喧嘩を始めてしまった。
「俺は?重要なの俺じゃないの?」
「「ちょっとそこで待ってろ!!」」
そして通路の真ん中で殴り合いの喧嘩スタート。
「ロッツごめん、友達になれそうだったけど」
これはチャンスと脱走を図る。
忍びの技のひとつに間接をはずして縄を抜ける技があるそうだ。
いわゆる縄抜けと呼ばれる。
ただし普通の縛り方でなかったのが不幸なのか少々時間がかかる。
それでも脱走にさほど問題はなかった。
「じゃあな」
「「しまった!!!待てっ!!!」」
こうなったらもう捕まらない。宮廷の廊下でライフルでも撃とうものなら余計なところに流れ弾がとんでいくだろう。
「脱走者一名、各員配置について捕縛せよ」
自分の失敗を棚に上げて命令するのはフランツ、これでも少尉ぐらいの地位はある。が、逃がせば隊を辞するしかないだろう。
必死にもなる。
「ご苦労なこった」
長くつづく廊下を走り回る。
「いたぞ!!」
「ここは通さん」
「邪魔だーーー!!!!」
忍刀で斬り上げさらに上から振り下ろす形で二人斬殺。
そういえばどっかの熱血少年がいってたな。
『殺人の怖いことは慣れることだ!!そうやって罪の意識を忘れていく』
俺もいつか殺人鬼みたいに全部忘れてこんなこと続けんのかね。
考えながら走っていると行き止まりに行き着く。
「しまった」
後ろからは敵が。
「しょうがね...ごめんなさい」
まだ持っていた宝禄火矢を行き止まりの壁に向かって投げつける。
幸運なことに壁の外は通路だった。
こんなところでムササビを使うわけにはいかないな。
こんなところに隠し通路って忍者屋敷か。
心の中でサイレントツッコミをしながら通路からの脱走を図る。
「まずいぞあの先はシークレットエリアだ」
「姫しか道を知らない未知の領域だ」
「姫様脱走者がシークレットエリアに...はい...申し訳ありません...決して取り逃がしはしません...はい...了解しました」
フランツが姫との無線での通話を終えるとなにかを兵士に指示し、散り散りに散らばっていく。
「なんだここ、まるで迷路だな」
そこは配管や鉄パイプが集まった城のシステムの結晶ともいえるいわば肺のようなものだ。
「道がわかんねえ・・・案内板とかおいてないか、とりあえず明かりだ」
手に持った蝋燭に火をつけて心許ないが今はこれで我慢するしかない。
「しかしなんで一国が俺を狙ってるかがわからん。なんでも姫の言いつけだったかしかも生きてって普通指名手配って殺せが常識だよな」
さまざまな憶測を巡らせるが一向に答えが見えてこないどころか謎が深まっていく。
カツン、カツン、カツン。
ヒールの地を踏む音が聞こえたのでとっさに隠れる。
「あれは...」
来たのは姫その人だった。
なんであいつ来んだよ。いやチャンスか。
ここにはハヤトと姫の二人のみ。
ここを逃せば理由を聞くチャンスは一回めぐってくるかもしれないがそんなのをまっていても答えてはくれない。
意を決して姫に近づくが決して姿を見せない。
ハヤトの性格は案外忍びに向いていた。
「おい」
「誰!?」
「ハヤトだ」
「あのときの変な格好のやつね」
変な格好とかいうなよこれでも装備するとき見栄え気にしてステータス無視してボスにやられた経験あるんだから。
「姿をみせたらどう?」
「忍びってのは姿を見せないんだよ。お前の前でも顔はみせなかっただろ」
「ふん!詭弁だわ私が怖い?」
はい怖いですめっちゃ怖いです。
心では震え上がっていつ失禁してもおかしくない精神状態だった。
「そういう主義だ放っとけ」
「それで何の用?」
「呼び出したのはお前のほうだろあんな似てない指名手配書配りやがって」
「あ~そうだったわ」
忘れてたのかよふざけるなよこの女。
「あんたいったい何者?戦闘スキルが高すぎるうえに味方側でもなく敵方でもない、どこの回し者?」
「ただの独り者だよ」
静かにそう答えた。