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ゲーマー忍者の異世界無双   作者: 世捨て人
四章・策略の求婚者
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夢幻

「始めるぞ」


ハヤト(分身)は人生初となる外科手術を、自身に施そうとしていた。

ここには、手術台も、顕微スコープも、メスも、麻酔もない。よってここからさきは、ハヤト自身の気力とうろ覚えの知識がものをいう。


メスがないのはわかっているので、代わりにクナイを取り出す。

そして、クナイを腹部に突き刺して、患部を開き始めた。


「ぐあぁぁぁァァ!!!」


麻酔もなくやっているのだ、痛みは尋常ではない。常人のうち何人かは痛みによるショック死をしても、おかしくないような痛みを耐え続けているのだ。


「今刃が入った」


「そのまま...一気に...いけ」


分身であっても、ハヤトは変な気分だった。自分の分身に体を切られて、その上指示は自分でしているのだから。


「あったぞ」


「いいか...血管を...傷つけないように...慎重に...だぞ」


「わかっている」


そう。わかっている、だがそれでも理解するのと、手を実際に動かすのとはまったく違う。


言われた通りに、血管に触れないようにゆっくり、ゆっくりと弾を引き摺りだす。

ズリュ。ズリュ。と肉を擦る音が聞こえて、気分が悪かったが、そんなことを言っている場合ではない。


「もう少しだ」


「ああ...わかるぜ...今だ...いけ」


ある程度出たところで、弾を掴んで引っこ抜く。


「やった...成功だ」


しかしまだ終わりではない、縫合という作業が残っている。しかし糸などという便利な道具はない。


「何か縛るものは」


ハヤトはふと異世界にきて間もない頃に、アイテムストレージが見れることを発見したのを思い出して、すぐさますがりつくように、アイテムストレージを探っていく。

するとちょうどワイヤー糸と書かれた項目を発見する。


「これだ」


急いで糸を呼び出して、分身に縫合させる。


「これで終わりだ」


「ありがと...な」


「自分に礼を言うな」


分身は煙となって消えてしまった。

そしてハヤトは、そのままぐったり寝てしまった。

精神力も大きく使ったのだろう。






その頃夜刀神側は...


「夜刀神」


「黒か」


どこか威厳のある声で返した声の主こそが、夜刀神である。


「ハヤトが討たれました」


「そんなことは知っておる。見てみよ、やつは自分で弾を取り出して見せおった」


ハヤトを見守る池を見つめて豪快に笑い声を上げる。


「やつは化け物ですね。麻酔なしに腹を切るなど、自害に等しいでしょうな」


「だがやつを天は見捨てなかったのぅ。あやつにはまだ天命があるということだ」


「はぁ...」


烏も夜刀神が思いつきで言葉を口にするので、反応にも困るのがいつものこと。


「しかし、あれで覚醒にいたらんのか」


「不十分...ということでしょうな。あの程度では」


「ぬふふふ。強欲な器じゃ」


夜刀神は水面に写るハヤトをじっと見つめ続けていた。





トゥーナは現実から目を背けたいのか、死んだと聞いてからかなり寝込んでいた。

これはトゥーナの夢の中である。


「ここは...」


「トゥーナ」


聞き覚えのある、今一番聞きたい声が聞こえてくる。


「ハヤト?」


その声のするほうを向くと、確かにそこにハヤトの姿はあった。

今すぐにでも抱きしめたかった。でもそれをすると...。

そう思ってためらっていると、ハヤトが自ら抱きしめてくる。


トゥーナはハヤトの体のぬくもりを感じていた。


「貴方私が怖いんじゃなかったの?」


「怖い?まさか。俺はトゥーナのこと好きだよ」


耳元でささやかれた最後のほうの言葉に、トゥーナ心との頭の中は爆発寸前だった。


「なななな...何言ってるのよっ!!」


「俺は本気だぞ」


顔が真っ赤だったのに、さらにトマトよりも赤く染めて動揺するトゥーナに、追い討ちをかけるようにハヤトはトゥーナにキスした。


「どうだ?これでも嘘だっていうつもりか」


いつもとは違うハヤトの反応に、狼狽する様子を隠せない。

夢だとわかっていても、いきなりの反応に対応しきれていないのだ。


そっか。これ全部夢なんだ。だから何言っても私の自由なんだ。


そしてトゥーナは、いつか言おうと思っていた言葉を、口にしようと口を開きかけたとき。


「ごめんトゥーナ。俺もう行かなきゃ」


えっ?どこにいくの。待って、ひとりにしないで。


気づけばハヤトの姿はなく、トゥーナは夢から叩き起こされる。


目が覚めたときにはすでに昼だった。ハヤトがいなくなってから、およそ三回目の昼。いつもなら仕事をしているだろう時間だが、そんなことをしていられる精神状態じゃなかった。


「やっぱり...夢か」


何回あの夢を見たところで所詮は夢、何度も何度もあのシーンが繰り返されるだけだ。


ハヤトのことを思うだけで、胸が苦しくなる。

いつも顔は見せないが、トゥーナはちゃんと始めてあったときの顔を覚えていた。

それからずっと(そと)ではなく、(うち)を見てきた。

そして文句を垂れながらも、そばにいてくれるハヤトに惹かれた。

だがそのハヤトはもういない。


私が行けといったから?悪いのは私。ハヤトを殺したのは…私。


今のトゥーナの心を満たしているのは、罪悪感と絶望感と悲しみだ。


「ハヤト...ごめんなさい...」


トゥーナは、テーブルの果物籠にいっしょに入った果物ナイフを手に取り、そして...。


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