狂気なる王
「見張り代わるぜ」
野営をするということで、ハヤトも見張りに出ていたところ、代わりの兵士がやってくる。
「悪いな」
「一応あんたは客人なのに見張りまでやってもらって、それはこっちのセリフだぜ」
ああいう王の元にもこういう男はいるのだと、この国に対しての認識を改める。
そして当の王はといえば…。
「ハヤトくん。いっしょに飲まないか」
呑気に鹿肉と酒を両手にこの堕落振りだ。
酒付き合いも仕事のうちとか、誰かがいってたような気がするので、誘いに乗ることにした。
これもあくまで仕事だ。
「一杯どうだい」
酒瓶を出して酌をするそぶりを見せる。
が、ハヤトは酒など飲んだことも、親が酒を飲んでいるところをみたこともないので、酒の飲み方もしらないのでとりあえず遠慮した。
「そうかい?じゃあ水もあるけど」
最初からそっちだせ。
水があるならそっちを出せよと思い切り怒りたくなったが、これでも一応国王であるのですんでのところで押しとどまった。
ハヤトは水を杯に入れはするが、口はつけずにおいた。
どうもこの男はきな臭くて信用ならない。
「鹿肉もなかなかに美味い。君が狩った鹿だ食べるといいよ」
鹿肉の丸焼きを頬張りながら、別の肉を差し出してくる。
誰のせいだと思っているんだ、こいつは。
自分で狩った鹿とはいえ、とても口にできないでいるのにこいつは平然と食べている。許しがたい。とてつもない悪だ。
ハヤトのフォーゲイザーへの認識は、要注意人物へと変わった。
「どうした?具合でも悪いのか」
「別に...腹減ってねえだけだ」
本当なら空腹で倒れそうだが、今は食欲の逆の、食べることへの激しい嫌悪感しかない。
「残念だね。せっかくの肉なのに」
といいつつも次々頬張っていく。よく太らないものだと関心するところだろうが、そこは変に高めの新陳代謝のせいだろう。
「俺は寝るぞ」
「ん?そうかい。また明日だ」
ハヤトは馬車の中で仮眠をとることにした。そう、あくまで仮眠だ。
「やつは?」
「完全に眠ったようです」
「よし。全員武器を取れ!!」
フォーゲイザーの号令で武器をとって立ち上がる兵士たち。
そして、ハヤトが寝ているはずのテントへと足を潜めて向かう。
ハンドシグナルでフォーゲイザーが『行け』と命令を出す。
テントにまず二人が入る。
中には眠ったままのハヤトがいる。
「悪いな。お前の命はもらったっ!!!」
____ザクッ。
二人でハヤトに向かって剣を突き刺す。
「こ、これでこいつは...」
そのときハヤトから白い煙が出る。
そして、テントが煙でいっぱいになったときに、ハヤトの体から無数の刃の破片が飛び出す。
これは、クナイを砕いてさらに鋭利に削ったものだ。
剣を突き刺したまま、煙のせいで前が見えずに、立ち尽くしていた二人はまともに喰らって、血を出して倒れる。
外で様子を見ていたフォーゲイザーは何事かと、動揺を見せる。
「どうなっている。誰か見て来いっ!!」
「無理です!煙で前が」
「くそっ!なんなんだこれは」
「なんだろうな」
不意に聞こえるはずの無い声が聞こえてくる。
その声の方向に即座に振り向く。
「貴様なぜ生きている!!」
「心外だな。俺は幽霊じゃないぞ、足はついてる」
足を叩いておちょくるような仕草をする。
「やっぱりな。お前はなんか怪しいと思ってたんだよ。
やけに食い物や酒を勧めてくるから、なんかあると思ってたんだよな~」
腕を組んで一人でうんうんと頷いて、余裕の態度を見せる。
「お前は確かに寝ていたはずだっ!!」
「寝てたのは俺の分身、しかもクナイの破片入りのな」
自分の作戦がことごとく破られて、悔しそうな顔を浮かべるフォーゲイザー。
「大方、俺の杯の底には睡眠薬、もしくは痺れ薬が入ってて、眠るか痺れで感覚が麻痺したところを殺ろうと思ったけど、中々飲まないんで寝込みを襲って殺そうとか思ったんだろ?」
すべて的を射ていた。というか作戦の全容そのものだった。
「黙れぇ!!貴様さえいなくなれば僕はトゥーナを手に入れてウィリアナも手にできるんだ!!!邪魔をするなぁッ!!!!」
「煩悩の神様だな。かかってこいよ、相手してやる」
今こそ今までの怒りを晴らすときだと、ハヤトはアドレナリンが溢れ出しているように、凄まじくやる気がみなぎっていた。
「いけえ!!!討ち取れば褒美はなんでもくれてやる!!!」
この一言に兵士がそろって向かってくる。
「口寄せの術・朧」
口寄せにより巨躯を誇る龍を呼び出す。
____GRAAAAAAAAAAAAAAAAAA
ただの咆哮。ただそれだけで兵士の何十人かは体を空中へと放り出される。
「どうしたこんな時間に呼び出しやがって」
「悪いな。あのクソ野郎を倒さなきゃならないんでな」
「任せろ」
意気揚々と朧は歩いていく。その間何人も向かっていくが、象はアリがなにをしようと気にもしないように、ズンズンと進んでいく。
「全員僕を守れ!!!」
なんと自己中な王であろうか。さすがに朧でさえも呆れる。
そしてついに朧の腕がフォーゲイザーに届きかけたそのとき…。
______タァンッ!!!!
一発の銃声が鳴り響く。そしてその標的は。
「くそっ...たれ...」
ハヤトの脇腹を弾丸が深く抉っている。
油断した。普通なら気配で気づけそうだが、今のハヤトは少々頭に血が上っていた。
「ハヤトッ!!!」
朧の体が粒子と消える。朧はハヤトを媒介に呼び出されているので、媒介が戦闘不能になれば、自動的に消える。
「な、なんだよ脅かしやがって…こいつを谷にでも捨てて来い」
ハヤトは数人の兵士の手によって、谷へと投げ捨てられた。
「よくやったスコープ」
「いえ私は何も」
スコープと呼ばれた者は森の影から顔を出して、ただ獲物を撃った感触を確かめて、無機質で無表情な顔をしてハヤトを見つめていた。
「全軍!!ウィリアナへ!!」
 




