ゆるり馬車の旅
バール王国からの国王同行隊が、ウィリアナへ歴史の教科書に載っていた大名行列を彷彿とさせる長蛇の隊列を組んで、森の中山の中を突き進んでいた。
「こんな道があったのか」
道なき道を通ってきたハヤトが関心しながら馬車の中から外を眺める。
一応ハヤトは護衛だが、客人扱いなのでこのように馬車に同行している。
「その口ぶりだと君はどっちからきたんだい?」
「あんたのとこの執事にまんまと騙されて反対側までいったよ」
皮肉たっぷりで返した。
意外にも根に持っていたようだ。
「スクレールはそんなことまで知っていたのか。参ったな、僕は城の外にはこういうときしか出ないから国の知識量では負けるな」
頭を掻いて参った参ったとのんきな様子を見せる。
どこの王様もみんな同じなのか?
そういえばトゥーナも自分の国のことはあまり知らないのを思い出す。
王よりも側近のほうが、外にでることが多いので知識量で言えば国王より上なのは当たり前かもしれない。
「せっかくだ。君にいろいろと質問していいかな」
「聞かれて答えられない質問には?」
「もちろん答えなくて構わない」
ハヤトは心の中で安堵する。もし「どこの出身だ」とか聞かれてまさか「地球だ」などとは答えられない。
答えた瞬間、危険人物としてこの大名行列が襲ってくるだろう。
ハヤトとしては勝てないこともないが、あまり無益に戦うのもどうかと思ったのでちょうどよかった。
「じゃあ最初の質問だ。トゥーナ姫とはどうやって知り合ったんだい?君一人が送られてきたということは随分信頼されている証拠だと思うんだけど」
「どうもこうも拾われたんだよ。しかも結構強引に雇われてな」
「それは災難だったね。あの姫様は昔から面白いものには目がなくて、誰だっけえ~と...ラーマとかいう爺さんに武器を頼んだり」
あのブリューナクがそうかと思い出す。ブリューナクとはハヤトがトゥーナと出会って、わずか数分の間に破壊してしまったトゥーナお気に入りの槍である。
知られることはなかったが、あの槍には粒子化して大きさを自由に変えることができる能力がついており、伸槍ブリューナクと名前をつけた当初、ラーマ氏が気に入らなかったのか神槍ブリューナクと名前を変えたのが今にいたる。
もっとも、今は無き槍であるが。
「あれ爺さんの作品だったのか」
「ん?会ったことがあるのかい」
「ああ、死に目に立ち会った」
そう。ラーマ氏はハヤトの目の前で病によって妻の墓の隣で死んだのだ。
意味不解で意味有り気な言葉を残して。
「そうか...残念だ。一度作ってもらおうかとも思ったのだが」
「止めとけ。一本一本恐ろしい刀やら銃やらが出てくるから」
あの絶対監獄の脱走した囚人たちの使っていた武器を思い出すと、今でも勝てたのが不思議なくらいだ。
「そこまでいうなら。まあ本人もいないから後継者になるだろうしね」
あの爺さんに後継者がいたのかどうかは疑問であるが、ああいう武器が世に出回るのだけは勘弁願いたい。
「次の質問いいかな」
「いいぜ」
「君から見たトゥーナ姫はどんな感じだ?いつも近くにいる君だ。何か感じるものがあるだろう」
こうして質問ばかりしてくるのはそういうことかと、ハヤトは今ここでトゥーナが自分を寄越した意味がわかった。
「どうもこうもねえよ。給料はねえし、休みはねえし、おまけに残業つきの最悪ライフだ。あいつはとんでもねえブラックな社長様だよ」
国王に対して社長というのも、言葉の当てる場所にしてはどうかと思ったが、他に言葉も見つからなかったのでこうしておく。
「君大変だねぇ。うちこない?きっとそっちよりはいい待遇できると思うけど」
「それは遠慮する」
即答だった。
トゥーナを影から支える。ハヤトはそう誓ったのだいまさらその決意を変えるつもりはない。
「フラれたか。ウィリアナの人はどうして僕を拒むのだろうか」
どこかとっつき辛いのに相手に壁を作らせてしまうこの男の性格のせいだとすぐにわかったが、口には出さないでおくことにする。
「僕はかれこれ200回以上も断られていてね」
諦めろよ、だから嫌われるんだろ。
心の中で即座にツッコんでしまった。
だがトゥーナが嫌悪する理由は明確だった。そもそもトゥーナにいくら求婚しようと、トゥーナは自分で決めるという自分ルールのために、その運命の人以外には見向きもしないだろう。
「多分いくらやっても無駄だと思うぜ」
ハヤトは哀れに思ったので、思ったことと事実をありのまま伝えることにした。
「というと?」
「トゥーナは自分の決めた人としか結婚しないって決めてるから、あんたがいくら想ってようがあいつのお眼鏡に適うようなやつじゃないと」
「馬鹿なっ!?僕のどこがダメだというんだ」
あっこいつ残念なイケメン君だ。真性の馬鹿だ。
そのセリフを聞いた途端に理性で悟った。こいつは関わるとろくなことがない。
そして逃げるために馬車から降りようかと思った矢先に、馬車が急に止まる。
急ブレーキをかけられた車のように、中の人や物は前へつんのめる。
「何事だ!」
フォ-ゲイザーが馬車の綱引きに向かって怒鳴る。
「スピアディアーの群れです。それも十や二十ではありません」
大軍の目の前には怒りに満ちた目をした獣の大群が立ちふさがっていた。
              
 




