光りは灰燼へと変えて
ドラゴンの群れに向かって電磁の光りが伸びていく。
電気の速度は目で見て反応して避けられるものではない。
なぜなら光りの速度とほぼ同じような速度で奔るからだ。
そして光りはドラゴンたちを灰燼へと変えていった。
「馬鹿なっ!?私のドラゴンたちが」
「これでお前の僕はそいつだけになったな」
「よくもやってくれましたね。だがまだ終わりではありません、ドラゴンはまだいますよ」
ヴォイスはなにやらブツブツと唱え始める。
「なんだ?」
「ハヤト見ろ」
さきほどの電磁砲の一撃ではなくハヤトの花火で死んでいったドラゴンたちから黒い瘴気が流れでてヴォイスの手のひらへと収束していく。
「あいつ、何を...」
「ハヤト。貴方が消さずに死体を残してくれたおかげで新たなドラゴンを作り出すことができますよ」
「まさか合成獣か!?」
あのペレサで作っていた怪物を思い出す。確かにやっていることは同じようなものだ。
「冗談。誰があのような下等種を。私は新たなドラゴン、それもどのドラゴンを上回る生物を創造する」
「生物創造!?」
それは合成獣を作り出すことと同じように禁忌とされる、悪の所業。
行えばそのものはただでは済まない。
「出でよ。死の淵から創造されし暗黒龍、ヴリトラ!!!」
____GOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
ヴォイスが集めた瘴気から龍の頭が飛び出して、続いて頭、腕、翼、尻尾とドラゴンの形を作っていく、その体は闇という闇をあつめたようなドス黒い色をして気味が悪い。
赤く光る双眸がこちらを睨みつけている。
「さあいきなさい」
___GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
猛スピードで飛行、朧の速度では天と地ほども差がある。
朧は経験測でどうにか攻撃の手を逃れるが、二撃、三撃と攻撃を繰り出してくる黒いドラゴンに手も足も出ない。
「いけるか?」
「厳しいな。あっちのスピードは恐ろしい、まるで風自体が飛んでくるようだ」
「あいつ瘴気からできたやつだから質量保存の法則が働いてるのかもな」
「なんだそれは」
朧は人間の学問のことなどもちろん知らない。
ましてや使うかどうかという理科、科学など。
「物体が変化しても質量とかは変わらないってことだ」
「ではあやつ自体は軽いのではないか?それも空気のような」
瘴気とは人に害を与える空気のことを指す。ゆえにヴリトラも空気ではないかと考えたのだ。
「それがわかったからってどうにもなんねえだろ」
(壱夜刀と同じなら...)
「お前、風を操ることはできるか」
朧のあてはもうそれしかなかった。
「一応な」
「ならば勝機は見えた。やつの動きを風で抑え込むのだ」
「いけるのか」
「お前は我が友と同じ匂いがする。だからやれそうな気がするのだ」
「変なドラゴンだ」
朧も最大速度で飛び回る。それに反応するようにヴリトラも飛び回る。
「やれハヤト!!!」
「命令すんな朧!!!風遁・嵐穴」
ヴリトラに向かって竜巻が伸びていく。
ヴリトラは風に体を絡まれてうまく飛ぶことができないでいる。
「一気に攻めるぞ」
「ああ!!」
朧はこの機を逃すまいとヴリトラの側面に回りこむと、ハヤトが花火を打ち込む。
「これで終わりだーーーー!!!!」
「いけませんねぇ...させませんよ」
リヴァイアスの水流が花火の火をかき消してしまった。
千載一遇のチャンスを逃した。これでもうハヤトに勝機は...。
しかしハヤトは不敵に笑っていた。
そう。今この瞬間を待っていたのだ。
ヴリトラの動きが鈍り、かつリヴァイアスが攻撃した直後のこの瞬間を。
「撃て!トゥーナ!!!」
トランシーバーに向かって思い切り叫ぶ。
「放て!!!!」
トゥーナのほうは準備ができていたようですぐさま砲撃がくる。
電磁の光線はヴリトラ、およびリヴァイアスの翼を一瞬にして焼き去る。
「馬鹿なっ!?私のヴリトラが!!あれには高い再生能力があるのですよ!?」
「プラナリアってさ。再生能力がすげえ高えけど、本体がなくなったら二度と再生しないと思うぜ。やったことねえからしらねえけど。それと同じだ、再生する母体がなくなって再生しようがなかったんだろ」
ヴォイスは今までに見せなかった悔しそうな顔を見せる。
「やってくれましたねハヤト。私のカオスの邪魔をするなど、神の意思にそむく所業ですよ」
「神になんぞいくらでも喧嘩売ってやる。それよりお前は何者だ、俺はそれが知りたい」
ハヤトにとっては目の前にいない神よりも目の前の疑問が優先のようだ。
「今は答えることができません。またいずれ会いましょうハヤト」
「二度と会いたくねえが、次あったら今度こそぶっ殺してやる」
ヴォイスは落ちていくリヴァイアスから雲の中へと消えていった。
そしてリヴァイアスはそのまま落ちて落下死してしまった。
「ちっ!」
取り逃がしたことにハヤトは舌打ちする。
「あいついつかぶっ殺してやる。それより朧、助けてくれてありがとな」
「構わん」
「これからどうすんだ?」
「棲家へ帰る」
「なぁ。俺と契約しねえか」
「契約?」
「俺とこれからもいっしょに戦ってほしい」
こいつ...どこまでもあいつと同じことを...。
「いいだろう。貴様が食われるのが先か、わしが貴様を食うのが先か勝負だの」
「どっちみち喰われるんじゃねえか」
朧は自分でもなぜだかわからなかった。ただ友と同じことを言う人間に少し興味があったのかも知れない。
「ではこれからも頼むぞ。ハヤト」
「ああよろしくな、朧」
朧はそのままどこかへ飛んでいってしまった。
「あ~ちょっと待て!!!契約まだしてねーーーー!!!!!」
なにはともあれ事件は何事もなかったかのように終わった。無数のドラゴンの死体を残して。




