いつの時代も男は戦場へ
やはり戦争というものは慣れない。なんど経験しようと非戦争国で生まれ育ったハヤトに戦争という現実は世界のどこかの空虚な現実だった。
しかしここに来てからはどこでも戦争をしている。
それが当たり前の現実として認識されているのだ。
そしてハヤトも戦場へと身を投じようとしていた。
「戦力要請のあったのはここでいいか」
「ああそうだが。戦力ってあんたひとりかい?」
「これでもうちの姫様お墨付きだ」
「失礼した。国王がお待ちである」
うちの姫様の名前出しただけでこれか。
それだけウィリアナが最強の戦力を誇るという噂は絶大な力を持ち、なお
かつ裏づけがあるので特にだ。
そして仮設陣営に入るといかにも国王という格好をした男がど真ん中でどっしりと腰を据えて座っていた。
「初に目にかかる、自分はハヤトと言う。供給戦力として俺がきた」
「ふんっ!こんな小僧を遣わすなど。あの姫は我らを愚弄しているのか」
ハヤトの物言いに気を害したのか側近と思われる男がハヤトに聞こえるようにトゥーナを馬鹿にするような言葉を散らす。
「だいたい、こんな年端もいかぬ小僧に...」
といいかけたとき切っ先は男の喉元に突きつけられていた。
「おい。俺はいいけどあんまりうちの姫さん悪く言うなよ?」
「ああ...わかった。悪かった」
ハヤトは殺意を一層強めて睨み付けてから刀を納めた。
「その辺にしておきなさい」
それを見かねたのか国王自ら仲裁に入る。
「はっ。失礼いたしました」
そこはやはり兵士の騎士道とか言われるものだろうか感情をうまく制御した。
「ハヤトとやら。そなたがあの犯罪者たちを打ち倒した英雄だな?」
確認と疑問を込めた質問だった。
「ああそうだ。あいつらは俺が倒した」
周りからどよっとざわざわとした驚きの声が聞こえるがあまり自分の功績を言いふらすような行為はしたくなかったので少し嫌な思いをした。
「ならば問題なかろう?」
今度はさっきほどの男に対しての質問だ。
「はっ。申し訳ない、あの六人を打ち倒したお方であれば申し分ないどころか余りある。先ほどの失言はどうかお許しを」
手のひらを返したような対応に多少面食らったがそれでも平常心でいられたハヤトの精神力を褒めるべきだろう。
「では戦場へ」
国王が重い腰を上げようとすると。
「貴方はここで。自分ひとりで行ってきますので」
「いくら強いといっても敵は数倍はいるぞ?」
「それぐらいの修羅場は乗り越えてきました」
そしてハヤトは音もなく立ち去った。
「あの方を本当に信用するのですか?」
「そなたはなにも感じなかったか?あの目、かつてのあいつを思い出すよ。戦場を血の海に変えた男を」
戦場に出たハヤトの前には数十万にも及ぶ軍勢が自分を血まみれの肉塊に変えんがために今か今かと開戦の合図を待っている。
そして今開戦を告げるほら貝が鳴らされる。
そして雄たけびとともに敵が押し寄せてくる。
ハヤトもたったひとりで向かっていく。
「影分身の術」
さすがに数十万を一人で相手にすると面倒なので影分身で人を増やして応戦する。
「敵は立った数人...だ」
先頭叫んだ男は胸に刀が突き刺さって絶命。
続いて刀を引き抜いてさらにその男からも剣を奪って目の前の二人に突き刺す。
さらに自分のではないほうを引き抜いて敵に向かってブーメランの要領でぶん投げて敵が密集しているところを凶刃が高速で回転しながら飛んでいく。
どれぐらいの速度で投げたかはわからないが敵に突き刺さることなくむしろ切り裂いて後ろの敵まで貫通していく。
「五人やられた!」
「大人数で攻めろ!」
叫んでいた通り大人数で攻めてきたので得意の宝禄火矢で一掃、そして地面に槍が転がっているのを確認すると拾い上げてまっすぐ投げつけた。
螺旋状の回転を生んだ槍の貫通力は敵をグサグサと突き刺して串刺し状態にしていく。
さらに敵陣のなかに入っていき真横に居たやつの首に刀を突き刺し、もう片方は奪って同じように首に突き刺す。
そして一回転、周囲の敵もまとめて斬り飛ばす。
「火遁・獄炎鳳炎」
太陽と見まがうほどの炎が数十万の軍勢を数千へと激減させる。
ここまで数が減ればあとはハヤトのペースだ。いっきに本陣に攻め込む。
「ここは通さん!」
「絶対に中に入れるな!」
見張りの兵がいたが関係ない。クナイ二本で片がつく。
そしてついに敵国の王の喉元に剣を突き立てるまでたどり着いた。
「あんたが王か」
「あ、ああ...そ、そうだ...」
「悪いが命令なんであんたの命もらうぜ」
「待ってくれ。降伏するから助けてくれ」
「降伏してもどっちみち死ぬと思うけどな」
そのとき烏がハヤトの腕に止まる。
「ん?どうした」
「アー」
足には手紙のようなものがくくりつけてある。
【相手が降伏するようなら縛って連れて帰って。絶対殺さないように】
とのトゥーナからの手紙だった。
「うちの姫様からの命令だ。よかったな、首の皮は繋がったぞ」
「ほ、ほんとか?」
「ただし。あんたの身柄は拘束して連行する」
ハヤトは慣れた手つきのSM縛りで縛ると口寄せした烏に連れて帰らせた。
「じゃっ!そゆことで」
まさしく嵐のような出来事だった。
「ただいま戻りました」
「よくやってくれた。なにか褒美を」
「じゃあうちの姫になにか送ってくれ。自分は次へ行かなくては」
「むぅ...そうか。ならば仕方ない、トゥーナ姫には感謝だけでは足りんなあ。
こんな小さい国でも他国と貿易できるようにしてもらえただけでなくこちらの死者はゼロで戦争を終わらせてくれた」
初老を迎えそうな渋い顔で朗らかに笑いながら賛辞を述べる姿は孫を可愛がる爺様だった。
「それでは自分はこれで」
「いつでも来たまえよ。君にはうちの剣術指南でもやってもらいたいものだ」
ハヤト的にはかなり遠慮したいところだ。なぜならハヤトのは剣術などではなく、単に剣を振り回しているだけのようなものだからだ。
「か、考えておきます」
少し大人っぽく丁重に断った。
「ではの~」
特に気分を害した様子もなく陽気に送り出してくれた。
「あと何個だったかな...口寄せの術」
烏という名前をつけた大烏を召喚する。
「なんだ主」
「いや。お前にはいつも俺のそばにいてほしくてな」
「なんだ?人が恋しくなったか」
今のはジョークか?あいつ鳥なのに人って。
「補佐みたいなのがほしいんだよ」
「わしには戦う力はさほどないぞ。いうなれば幻術の類しか使えんからな」
「わかってる。だからこそだ」
「では主の肩から見守ることにしよう」
そしてハヤトは次の戦場に向けて走り出した。




