殺人鬼の末路
「なんだいつまらないねえ」
「こんな奴にリヴァルの奴は負けたのかい?遊び足りねえ」
「だったら俺と遊ぶか」
この場にいないはずの三人目の声、それは。
「なんだい?分身倒したら本体も出て来んのか」
「いいねえ。遊び足りなかったんだ」
分身が消えたことを感知して駆けつけたハヤトだった。
「てめえらやってくれたな。分身の痛みは俺に繋がってるんだよ」
分身が消えると分身が消える瞬間までに受けたダメージや感覚、記憶をすべて本体に返ってくる仕組みになっているのだ。
よって今ハヤトは二人に斬られた痛みを受けたのだ。
「それはすまないねえ。なんせ丸腰だったもんだから斬っちまった」
「くそったれ...」
「コンルー。準備しとけ」
「あいよ」
何の準備かは知らないが警戒するに越したことはない。
警戒のレベルを上げる。
「兄ちゃん戦場出たことないだろう」
「馬鹿言え。場数は少なくても戦場なら出たことあるぞ」
あのペレサとの戦いは紛れもなく戦場に出たといえる戦いだだろう。
「おかしいねえ。兄ちゃん俺たちを見てから警戒するのがあまりにも遅すぎる。
まるで殺気がないよ」
「なにを言って...」
ウルディオが指を差してくる。それからなにもアクションがないので差された場所を見ると自分の首から下が半分に裂けているではないか。
「うわああああああああああ!!!!!」
しかし次に見たときには体は何もなかったように正常だった。
ハヤトの体からは脂汗がびっしょりだった。
「汗かいてるよ、わかっただろ。これが本物の戦場に出た殺気だよ」
「やべえな...久々に怖いと思ったよ」
今まで死んでもいいゲーム、自分より格下の相手としか戦って来なかったハヤトにしてみればこれだけの濃密な殺気を受けたのは何年も前のこと、そう。あの五歳の崖のぼりぐらいのものだろう。
「それが恐怖だ。まあ恐怖を知った人間はしばらくまともに動けなくなるからさっさとやらせてもらうよ」
そう言い放ったときにはウルディオは鎌の攻撃範囲にハヤトを捕えていた。
「死鎌・デスサイズ」
鎌の柄の端を持って長さを広げて広範囲にぶん回す。
ハヤトは刀で受け止める、刀と鎌が擦れて火花が散る。
「いいのかい?そんな防ぎ方で」
また刀折れるということをいっているのだろう。
「二度目はねえよっ!!」
鎌を振り回してきた方向と同じ方向にハヤトは回転。
鎌の回避法、それは攻撃が一方通行でさらに刃がついた部分が通常の剣と違い少なく、弱点部位が多いことだ。
そして今ハヤトはウルディオに向かって避けた。この意味は間合いをつめた上で攻撃方法を無くした攻防一体の戦法なのだ。
さらに鎌は片刃しかついていない持ち手を考慮した形状となっている。虚をつかれたウルディオに逃れる手段はない。
普通の武器であればだが。
この鎌はあくまで変刀。何かしら能力を持った鎌なのだ。その能力は。
_____ギィィィィィィア
突如として鎌から大口が開いてハヤトを噛み付こうと襲い掛かる。
「なっ!?」
驚いたハヤトは攻撃を中止、回避に全力を注ぐ。
しかし逃げた先には鎌の追撃が。
「...っ!!!」
鎌の刃先がハヤトの腕を掠める。
___ギィィィィィア。
「ああ。うまいかそいつの血は」
「なんだよそれ?...」
「こいつは生きた鎌。血をすすって大きくなる。そして最終的には大きな刀に変わんのさ」
__ギィィィィィア
鎌が一回り大きくなる。
「わかる。お前の血がかなり好みだったらしいな」
それを聞いただけで背筋が凍りそうだった。
「もっと啜らせてくれよ」
「ご免被る!!!」
一歩で距離をつめるともっとも弱いであろう柄の部分に向かって刃をつきたてる。
___ギィィィィィア。
柄のほうからも牙が飛び出し刃を噛んで止めてしまった。
「放せこらっ!水遁・湯沸し」
熱湯を浴びせてひるんで緩くなったところを引き抜く。
____ギィィィィィア!!!。
さすがに怒ったようだ。体をうねらせて怒りを表現しているつもりなのだろうか。
「仕方ないねえ」
ウルディオは自らの腕を切って鎌に血を与えた。
「なにを...」
「まあ見てなよ」
______ギィィィィィアアアアアアア!!!!!
鎌はどんどん膨れ上がってさらに反り返りが無くなって刀というより大剣に近い形状になる。
「大刀・断斬」
___ゴガァァァァァァァ!!!!!
「さてどこから斬ろうか...ねっ?」
___ドスッ。
ウルディオの体には刃が突き刺さる。
「あんた隙だらけだ」
それはハヤトが刀を高速で投げつけたからだった。
「あとはあんただけだ」
準備しろといわれてから一歩たりとも動かない男。コンルーはなにやら壷のようなものを前に座り込んで何かを呟いている。
「呪刀・蟲の能力は毒」
「蟲毒だろ。知ってるよそんなありきたりな能力、これで十分だ」
懐から宝禄火矢を取り出してきて壷に向かって投げつける。
「お前はひとつ勘違いをしている。毒だけの能力だがそれは決して攻撃できないイコールではない。
毒の生成完了。蟲・毒牙」
壷はいきなり刀に変形して刃の周りに毒を纏う。
そして飛んできた宝禄火矢の導火線を斬って爆発を防ぐ。
「こんな玩具じゃ遊び足りねえよ」
「いや、もう終わってるよ」
よく見ると宝禄火矢からはワイヤーのような糸が伸びている。
そしてそれを勢いよく引っ張ると宝禄火矢が爆発ではなく破裂し、中から無数の細かい刃物が飛び出してコンルーに突き刺さる。
「こんな...もので...うぐっ...」
「そいつは神経毒。約一時間すべての神経の感覚を無くす。視神経、聴神経もだ。まあ聞こえてないか」
ハヤトは躊躇なく首を斬り飛ばした。
「あとは一人か」
「そう。俺だけだ」
返しの無い独り言に後ろから声がする。
「探し物は自分で来たか」
「分身とやらがあんまり早く消えるから聞きそびれてしまってね
君のところまで聞きに来たというわけだ」
「いかにも聖人面しやがって」
「ふん。もとより俺は聖人などではないのでな。目的を達成するまではどんな手段でも使おう」
二丁の銃を構える。そして連射。
ハヤトは器用にも刀ですべて斬って打ち落とす。
「うがあああああ!!!影分身の術」
再び分身。そして分身から刀をもらって二刀で応戦する。
「貴様はなぜ俺たちの邪魔をする!!なにも知らない他人は口を出すな」
「そういうわけにはいかねえんだよ。あんたらが狙ってるのは俺の雇い主なんだこの世界でたった一人の身内なんだよ」
「ならば貴様も家族が居ない苦しみはわかるだろう。それを十年前レクスは俺たちに強要した!!決して許しがたい、否、断じて許せん」
「それは許さなくてもいい。だがなやりかたが違ったとは思わないか?
もっと違うやり方があったんじゃないかとは思わないのか」
「ない!家族の死の上を平然と歩くやつらも同罪だ。皆殺してやる」
「じゃあそれをやった後はどうするつもりだ?今度はお前らが死体の上を歩くつもりか?それじゃあそいつらと何も変わらないぜ」
「だまれえええええ!!!!!」
ヴォルールは激昂すると銃を繋げてマシンガンライフルのような形状へと変化させる。
「この世界の科学力は行き過ぎてるな」
「この刀は斬撃を打ちだす刀。ゆえに弾は斬」
マシンガンライフルの無数の斬撃が迫り来る。なお斬撃は無数なので弾切れは絶対にしない。
「こいつが無敵の刀だ!!!!諦めろ。絶望しろ。泣き叫べ」
「いいか!無敵なんて存在しねえんだよ。
無敵ってのは敵がいないぐらい強いやつをそういうんだよ、でもよく見てみろその銃の先を。
俺という敵が居る時点で無敵じゃなくただの強い銃に変わった
そして今強い銃ですらなくなる」
「なにを馬鹿なことを...ぐはっ!!!」
「悪いな。さっきの分身はまだ生きてるんだよ」
ヴォルールの体には夥しいクナイが突き刺さっている。
「馬鹿な...この俺が...こんなところで...」
「あんたは絶対生き方を間違えた。だからこそここに這い蹲ってる」
「くそ...ガキ...」
それがヴォルール生涯最後の言葉となった。
「じゃあな脱獄の殺人鬼」
 




