殺人鬼進軍
ハヤトは来るべき脱獄囚たちとの戦いに備えて国中に罠を張り巡らせた。
国の外周には呼び鈴つきのワイヤートラップを。
中には地雷型宝禄火矢をあちこちに敷き詰めていつ来てもいいように万全の体制をとる。
「あの女いいかげんにしやがれ...」
万全の体制だがしかしハヤトは万全ではなかった。ここまでの仕掛けをするのに丸一日、一睡も休憩もしていない。
いかに忍びといえどもハヤトの基本スペックは普通の高校生の延長線でしかないのだ。
「主よ」
「おお烏か」
烏が偵察から帰ってきた。
「どうだった?」
「まだ影はないな。それよりあいつらがこんな単純な罠にかかるのか?」
まあ仮にも人を殺しに来る集団がこんな単純な罠に気づかずに真正面からくるだろうか。
「・・・・どどどどど、どうしようかな~」
そこまでは考えていなかったようだ。
変な汗が体からあふれ出ている。
「大丈夫か主よ」
「大丈夫じゃない、精神攻撃にあった。十八番潰すとか...まじないわ~...」
地面に円を描いていじけてしまった。
「今度の夜刀神は大丈夫だろうか...」
聞こえるか聞こえないかぐらいの声で烏は謎のつぶやきを漏らした。
一方...脱獄囚グループサイド。
「ヴォルール!行こうぜ!」
「ああすまない。少し昔を思い出していた」
「ケッ!昔なんていらねえ思い出のゴミ捨て場じゃねえか」
ここにいる共通点はレクスによって家族を奪われたということだ。
「いや、今からは重要だ。自分を奮い立たせる戒めとしては十分すぎるよ」
「ふん。先にいくぜ」
それぞれメンバーが出て行く。
「おいっ!ちょっと待てよ俺の縄解いていけこのやろー!!」
「あっ悪ぃ。忘れてた」
ラトロはいまだに柱に縛り付けられていた。
「解いてほしいか?」
「てめっざっけんな!」
他のメンバーから笑い声があがる。
こうしてみると元大量殺人集団とは思えないが。
元はどうあれ殺してしまえば数に関係なく人殺しだ。
それはこの六人にも例外なく当てはまる。
「あいつを殺したら次お前だからな!」
「勝手に言ってろよ。俺たちは目的を達成したらほとぼりが覚めるまで隠れる。
そのとき皆さよならって約束だ。
殺したいなら地の果てでも追っかけてくる覚悟が必要だぜ?」
ラトロは言葉に詰まる。
そしてゆっくり口を開いた。
「だったら殺してやるよ。地の果てでも地獄でも」
「いうじゃねえかガキのくせに」
ウルディオは戦争で息子を亡くした。だからラトロを息子と重ねることで悲しみや辛さを紛らわせているのだろう。
「なんにしてもまずあの男に勝たないとな。ラトロ」
「うっせぇなヴォルール!俺だってそれくらいできる!」
「じゃあ任せたぞ」
「あいつ。細切れにしてやる」
ラトロは斬られた腹部を押さえながら恨みのこもった目つきで刀を見る。
「殺す。殺す。殺す!」
「あいつって俺たちの中じゃ一番殺人歴長いよな」
「あやつは両親を奪われてから他のものから奪うことしか知らぬ」
ピイェはなにか事情を知ってそうだった。が、ウルディオはそれ以上聞くのをやめた。
聞いても別れればただの記憶になるからだ。
「無駄話が過ぎた、いくぞ。いつ監獄の連中が来るかわからないからな」
「一番遅かったのどこのどいつだと思ってるんだよヴォルール」
「すまない。それも今日で終わりだ」
六人の殺人鬼はウィリアナに向けて歩き出した。
「きたっ...」
ハヤトは罠が通じなかったことを読んで街を覆うように球状の結界を張って感知していた。
そして今ハヤトの不可視の結界に殺人鬼どもが引っかかった。
「どこだ」
「こいっ烏!」
烏はハヤトの肩に飛び乗る。
そしてハヤトは自身で感知したポイントへと走り急ぐ。
「作戦はわかってるな?」
「誰がレクスを殺っても文句はなし。全員の目的が達成されたことにするから探し出せだっけか?」
「上等」
「腕が鳴る」
「俺の鎌が血を欲している」
「あいつ殺す!」
「ではいくぞ。さ...なんだわざわざ邪魔をしにきたのか」
『散』と指示をだそうとしたとき、ヴォルールの口が止まった。
そして視線の先には烏を肩に乗せたハヤトがいた。
「兄さん方物騒な話してんじゃねえか。俺も混ぜちゃくれねえか」
「ハヤトいた~!!!!!」
ラトロは願っていた標的の出現に我慢が効かなくなったのかいきなりハヤトに斬り掛る。
さすがの反射神経のハヤトは刀で受け止める。
「会いたかったよ。お前にやられた傷がうずくんだよお前を斬らないと収まらない」
「生憎だな。医者の息子だが医師免許ないんで最終手段の安楽死で手を打とうや」
ハヤトは刀にぐっと力を込めていっきに振り払う。
ラトロはよほど身軽なのかクルクルと空転しながら着地する。
「いいねえ。もっと斬りあおうよ。さあ」
「六人全員でかかってきな」
ラトロの挑発に対してハヤトも最大限の挑発で返す。
「お前なめてるのか俺たちを」
「っざけんじゃねえぞ!てめえなんて俺一人で十分だ!」
「はっきり言って私たちは君と戦う理由がない。よってその挑発には乗らない」
ヴォルールたちの目的はあくまでレクス、ひいてはレクスの娘であるトゥーナであってハヤトを目的にいれているのはラトロだけだ。
無理に戦う必要はない。
「戦う理由?あるぜこの国には俺特製の罠が大量に敷いてある。至る所にだ。
そんなのも知らずに乗り込んだらどうなると思う?」
ヴォルールは数瞬思考する。
ブラフかそれとも本当に罠を張っているのか。しかし守るはずの国をわざわざ破壊するだろうか。
答えはNOだ。
「君のはブラフだ。われわれと戦い勝利を得てわれわれを沈めようとしている。
違うか...」
______ズドォオオオオオオオオオオオン
いきなり地鳴りかと思うくらいの爆発が街のほうから。
「あ~あ。誰かが起爆させた」
「貴様...!」
「こいよ。ああなりたくなかったらな」
六対一戦いの火蓋が切って落とされた瞬間だった。




