壊刀・影虎
「爺さんが...シュベールト・ラーマ...?」
「いかにも。そういうお前さんは誰じゃ?恩人の名前も知らんとは恥ぞ
名を教えてはくれんか?」
「ハヤトだって、そんなことはどうでもいい」
「どうでもいいとは関心せんな。自分の名前をどうでもいいとは」
「そんなこと言ってる場合じゃないんだよ爺さん。あんたの変刀持ったやつに会ったんだよ。ありゃあ一体なんだよ」
「まったく...最近のガキは早口でいかんのう。聞こえんかったもう一回」
「あんたの変刀持ったやつに会ったんだよ!!!」
「なんとわしの変態に会ったのかっ?どんなんじゃった?」
「変態じゃなくて変刀だ!あんたの作った武器!」
「あ~そんなん作ったかの」
ハヤトは思いっきりずっこける。
この爺さん疲れる。
「撃刀・弾に聞き覚えは?」
「わしが作った刀の名前じゃ」
「ほらやっぱり作ってるんじゃねえか!」
「いま思い出した」
どこまでも疲れる爺さんだ。
「刀の名前。あれ全部漢字だろ?爺さん漢字なんてどこで覚えたんだよ
この世界に漢字はないはずだぜ」
この異世界において漢字などというものは存在しない。
ハヤトはなにも問題ない言わんばかりに漢字でトゥーナに報告書を送っていたがそんなことは忘れているのだろう。
「教えてもらったのじゃよ。古い友人...五百年も前にの」
「ご、五百っ!?」
五年前と聞き違えたかと思ったが訂正する様子もないので本気で五百年も前なのだろう。
「わしは人型化した竜と人の間の亜人。竜人と呼ばれる者じゃ竜の血が入っている分寿命ははるかに長いぞ」
「へ、へぇ~...」
あまりに突飛な話にさすがのハヤトも驚きを隠せない。
「その教えてくれたやつって誰なんだよ」
「この歳になると忘れっぽくていかんなぁ」
「おいっ!」
老人だからボケが始まっていた。
「こっちからも質問するがいいかの?」
「えっ?ああ...」
「お前さんはこれからわしの変刀を持ったやつと戦うのかの?」
「もちろんだ」
「若さゆえの気概というやつかの...わしの変刀は普通の武器とは違う。お前さんのそいつじゃ勝てんぞ」
そういって忍刀を指差す。
まあ確かになんの変哲もなく長さもない刀では勝率は万にひとつ。それを六回、実に六万分の六すべて当てろといわれているようなものだ
「まあわしも無策ではない。ほれ」
そういって小包を差し出してくる。
どこか細長い形状をしている。
「これは?」
「わしが打った刀。変刀の七本目にして最後の一本。
壊刀・影虎じゃ」
見たところ普通の刀でハヤトの忍刀と何も変わらない。
「これ何が違うんだ?」
「壊刀・影虎。その能力は...」
どんな能力が飛び出すのかと生唾を呑む。
「使ってからのお楽しみじゃ」
「爺さん。そりゃないぜ」
ハヤトは今日一日だけで恐ろしく疲れた。
その頃...脱走囚の一団は。
「離せっ!俺はあいつを殺しに行くっ!」
「暴れんなよ。傷口広がるぞ」
ラトロはハヤトに受けた傷を治療したあとすぐにハヤトを殺しに行くと暴れだしたので柱にくくりつけられて身動きがとれずジタバタする光景が見える。
「ラトロ。俺たちの目的を忘れるな」
「わかってるよ。でもレクスってほんとに生きてるの?」
「確証はないが仮に生きていなくても計画に狂いはない。街を壊して冥土のやつに目にものを見せてやる。
俺からすべてを奪った男を殺す。もしくは魂まで苦しめる」
憎悪のこもった目で虚空を見つめる。
「俺もだよ。あいつは許せない」
「俺もだ」
次から次へとわれこそはと同意する面々。
「いいか、殲滅は明日行う。ウィリアナより世界に痛みを」
六人の殺人鬼はウィリアナへ標準を定めて着々と準備を進めた。
「というわけで爺さんは俺のとこで元気だ」
「そう。よかった。あの人に野垂れ死なれたらあの武器を作った罪を償ってもらえないもの」
顔は笑顔、声は怒っていた。やはり今回の事件はトゥーナとしては不本意なのだろう。
その原因を作ったラーマを許せない気持ちがあるのだろう。
「あっそうだ。近々あいつらが動き出すかも知れないから警備よろしく」
「警備?まさかウィリアナ領地すべて見回れと?」
「そんな大変な仕事あなた以外に誰がやるの?使える駒以外に」
二回目はあきらかに下僕と勘違いしているセリフだったがもう聞き逃すことにした。
なぜならブラック企顔負けの待遇しか受けてないからだ。
「二回目余計だ」
「あら。ごめん遊ばせ」
「お嬢様気取るな。普段そんなしゃべり方絶対しないお姫様のくせに
あとごめんを遊ばせないで」
「こういうキャラは嫌いか~...」
何か変な言葉が聞こえたがいちいち構っていたら体力と精神力がもたない。
「じゃあそういうわけでよろしく。私は寝るから」
「あっ!?てめえだけ寝る気か!?ていうか今からかよ!?」
「頑張って~...」
ハヤトは心底このブラック企業の社長を刺し殺してやりたくなった。
 




