引き摺る十年
「というわけだ」
「そ、ご苦労様」
ハヤトは急いでウィリアナに帰り事の顛末を報告した。
「ところであなたの烏どうにかならないの?毎回糞して帰っていくんだけど」
「それはお前が変なことしたからだろ。もしくは生理的にいやとか」
「私が何した~!!?」
トゥーナは頭がおかしくなったのか花壇に頭を打ちつけて取り乱す。
「落ち着け一国の王女」
「はっ...私は今何を」
どうやら素でやっていたようだ。
「そろそろ事情説明してもらうぞ。あいつらはなんだ。レクスって誰だ。シュベールト・ラーマって誰だ」
「そんなに一度に聞かれても答えられないわよ。一個ずつ答えてあげるから。
まずはその犯人ね。彼らは絶対監獄ラスターゲフェニングスから脱獄した死刑囚。主犯格と思われるのがヴォルールという男よ」
まああからさまだったしな。
「彼らは全員、十年前に何万人も殺した殺人集団よ」
「あいつら元から仲間だったのか」
「資料によればそうらしいわ」
厄介だな。連携されたら勝てるかどうか。
「シュベールト・ラーマというのは世界最高のカラクリ鍛冶師のことよ」
「カラクリ鍛冶?」
聞きなれない単語を耳にして烏をみるが知らないようでどうやら地球の言葉ではないらしい。
というか一般的に使われないのでわからないだけかもしれないが。
「カラクリ鍛冶師っていうのは通常の武器とは変わった武器を作る鍛冶師のことよ。その中でもラーマ氏が作った変刀六本は禁具指定されるぐらい強力な刀と言われているわ」
それってあいつらの持ってた刀...みたいな武器のことだよな。
刀かどうかも怪しい形状だった形状の武器を思い出して思考に曇りがでる。
「それで最後の質問だけど」
「そうだレクスってだれなんだ。やつらはそいつを殺すって言ってたぞ」
「レクス...私のお父様の名前よ」
部屋に沈黙が流れる。
「それって...」
「お父様は十年前の世界戦争のあと各地で起こった大量殺人事件について調べまわっていたわ。
そしてあの六人に突き当たった。
お父様はとても強かった、あいつらを蹴散らして帰ってきたわ。
だけどそのとき受けた傷が元で亡くなったわ。
そしてお父様の代わりをするようになったお母様も過労で亡くなられたわ
そのとき私はひとりになった」
そうかこいつが一人を怖がるのって親に置いていかれたっていう子供のトラウマからか。
トゥーナは戦ってるんだな。自分と。
ハヤトは女性恐怖症とか言って自分の過去から逃げてる自分が恥ずかしくなった。
「とりあえず周りの街は壊滅。一応冷戦終結かな
そして次は確実にここでしょうね」
トゥーナは意外にも前向きだった。
「お前はそれでいいのか」
「戦争をしなくてよくなったのはいいことだわ。それ以上は何もないわ」
「そうか。じゃあ俺は消えるぞ」
「うん。また呼ぶから」
ハヤトは音もなく消えた。
「・・・・・・・」
「どうした主」
烏がハヤトが何か考え事をしているのを察して問いかけてくる。
「どうやって変刀に勝とうかってずっと考えてた」
「主は夜刀神に似ている」
「夜刀神に?」
「つねに戦いのことを考えていてなおかつ自分のなかで葛藤もある。
自分は戦う以外の選択肢はないのかと」
「夜刀神も戦いたくないっておもうこともあるのか?」
「知らん。だが戦いのあと消える瞬間、夜刀神は泣いていた」
「生憎だが俺はそんな眩しい思想なんて持ち合わせちゃいない。
ただあのアホな姫様を守る。それだけのために戦うだけだ」
「好きなのか?」
「好きとは違う、主従関係だ。俺とお前は主従だろ?俺のためにお前は知恵を貸してくれる。力を貸してくれる。それと一緒だ」
動揺する様子もなく、淡々と諭すように語っていた。
「やはり人は神とは違うか」
「違うだろうな。俺たちは人間だから神みたいに一つのことをひたすらやって悟りを開くなんてできっこない。だからこそ柔軟に考えられる。そう思わないか?」
「やはり主は面白い」
「そりゃどうも」
「それよりあそこに誰か倒れていないか?」
確かに人の気配はしないが影はある。
ハヤトはいそいで駆け寄る。
「大丈夫か」
かなり年老いた老人だった。
「息はあるな」
ハヤトは自分の小屋に運びこみ手当てをした。
「すまんなぁ」
「いいよ。無理すんなよ爺さんまだ寝てなきゃダメだ」
ハヤトは爺さんを見ると自分が爺さんにしてやれなかったことを他人に自分の爺さんの面影を重ねてやってやりたくなるのだ。
「爺さん名前は?」
「シュベールト・ラーマじゃ」
「えっ...」
 




