絶対監獄からの脱獄
ペレサとウィリアナの戦争もといハヤトとペレサの戦いから数日。
あれからペレサはウィリアナ領となり軍隊は解体、そして新たにウィリアナ兵として加わることになった。
大臣や重役に位置する貴族は処刑。これはトゥーナの居ないところで秘密裏に行われた。
おそらく部下たちの気遣いだろう。
そしてひと時の平和が戻ったウィリアナにまた新たな事件が起こった。
「囚人が逃げたぞ!!」
「くそっ!やられた...絶対に外に出すな!殺してもかまわん!」
ここは世界監獄ラスターゲフェングニス。世界中から罪人が送られてくる各国公認の絶対監獄である。
ここに入ったものは大抵死刑囚か、終身刑として身を終わらせることから悪の監獄ということでラスターゲフェングニスと名づけられた。
そしてこの監獄から実に初めてとなる脱走が行われたところであった。
「いたぞ!あいつだ!」
「まずい見つかった」
「慌てるな」
逃げる一団のなかから一人が飛び出すと通り過ぎ様に看守をたった一本のナイフで斬り殺す。
「俺たちは世界に復讐するぅぅぅぅ!!!!!」
男の叫び声が絶対監獄の中に響き渡ったのは事件が起こる三日前のことだった。
「姫様っ!!!」
「何?そんなに慌てて」
とうぜんウィリアナにも脱獄囚の話は届く。
「というわけなのです」
「戒厳令レベル3を出しなさい。兵士も同様よ」
「はっ!それともうひとつシュベールト・ラーマ氏の変刀が盗まれたそうで本人も行方不明とのうわさが」
「ラーマ氏が!?まずいわ、あの武器だけは絶対に使っちゃいけないのに」
事件はさらに奥深くまで進んでいく。
ペレサとの戦いから三日。ハヤトは異世界に来てからというものろくに寝ても食べてもいなかったので一日ほどを屍のようになりながら過ごし、二日目の朝に目の前を通ったウサギを食べてどうにか動けるようになったというサバイバル生活をしていた。
「死ぬ...まじで腹減った...」
さすがにウサギだけではどうにもならない。
さらにはあの激闘、動けるのが不思議なぐらいだ。
今にも胃液を撒き散らしそうな勢いだった。
「食い物...」
そのとき森から体長3Mもある牛のような化け物が木々をめきめきと折りながら走ってくるのが見えた。
牛...肉...飯...。
ハヤトの頭は食べることでいっぱいだった。
『BOOOOOOOO!!!!』
「いただきます」
家畜用の牛を殺すときは眉間に丸い玉のついた棒をぶち当てるそうだがハヤトはそんなものを持ってはいないので素手で思い切り殴った。
『BOOOOOOOO....!!!!!』
体長3Mの巨体が地鳴りをあげながらひっくりかえる。
「よっしゃ」
牛は眉間を貫かれて即死。あえなくハヤトの餌となる。
そしてハヤトはありがたく肉を切って贅沢にも焼肉でいただくことにした。
「タレがないのは残念だがこれはこれで中々」
実はこの牛はギガントヴァッカと呼ばれる生物学上ウシ科の動物であるが実際はブタに近い。
さらに言うとこの牛の肉はとても堅く、またあまり美味でないことから
煙たがられる食材なのだが今のハヤトは極限状態なので味などわからなくなっている。
ちなみに初めて食べた者は
『ドブにつけたナメクジと猫の毛をいっしょにたべたようなひどい食感とピーナッツとウシガエルがいっしょに口に入ったような衝撃が襲った』
と提唱している。
「はぁ~三日ぶりの飯か~うまかった~!」
これでもハヤトにとってはご馳走だったのだろう。
すべて平らげてしまった。
「腹もいっぱいになったしそろそろ拠点みたいなとこほしいよな~」
さすがに身内もいない異世界では宿無しはまずい。
そこで昔作った秘密基地のノウハウでツリーハウスを作ることにした。
懐かしいな。子供のころはこんなの作って遊んでたんだよな。あいつも...いや考えるのはやめよう。
子供を思い出しながら着々と住居づくりは進んでいく。
そして・・・。
「おっしゃできた~!!」
ついに完成。素人仕事にしては完璧な仕上がりといえる仕上がり具合にハヤトは満足そうだ。
「さて。これからあと三日なにしよっかな~」
とそのとき。
ハヤトの体が煙に巻かれる。
「嘘だろ...」
ぼふんっ。
ハヤトはトゥーナに呼び出されてしまった。
「どわ~!!!」
「ひさしぶり忍びさん」
ハヤトはすぐさま逃げるように窓の外へ。
「お前あと三日は呼び出さないように言っただろ!」
「便利ねこの鈴」
最近トゥーナはSっ気が出てきたのか、鈴ひとつで呼び出されるハヤトを面白がっているようだ。
「なんの用だよ」
「また諜報をお願いしたいの」
「ぜってーやらねえ」
チリンチリン。
また鈴がなる。
「ちょっ馬鹿...あぐっ!」
再びトゥーナの前へ。そしてまた逃げる。
「もう一回」
「お前ちょ、いいかげんに...ぬあっ!」
また逃げる。
「それもういっ...」
「いや...もういい...わかったから...やるから...」
「わかればよろしい」
くそ...この女...俺の女性恐怖症が治ったときは覚えてろよ。
静かにどうやり返してやろうか考えていた。
「今回はどこを調べてくるんだ?」
「とりあえず隣国周辺を調べてきて」
「はぁ~!!!?周辺ってどんだけあるんだよ」
「ざっと10はあるかな」
「この女...」
「何かな?大丈夫よ死にはしないわ」
ハヤトが就職したのはとんだブラック企業だった。
「勘弁してください」




