第九話
目が覚めた。
目の前には、戒省と想來。
「やっと起きたか」
戒省が僕に話しかけてくるが、僕は意識がなくなる前の彼の行動を思い出してなんとも言えないような気持ちになる。
「なに、そんなに起こるな…お前らは俺たちには入らせねえよ」
「何故だ?さっきお前が僕の意識を失わせた原因は入れさせるのが目的じゃなかったのか?」
「いや、そんなことはもうどうでもいい…
問題は、お前の意識が無くなった後の話だ」
そうだ、僕は意識が無くなってから――
どうなったのか、告げられていない。わからない。
凛さんはどうなってしまったのか。そしてDWは?
いきなり出てくる疑問が多すぎて、僕は少し混乱してしまう。
「まず話すが、お前の主、凛は今意識を失ってる」
「何かされたのか!?」
「いや、何もされてない。暴走が止まっただけだ」
「止まった?何もしなくても止まったのか?」
「ああ、あいつはこの短期間で制御するだけの力を持った。
流石、格斗の妹ってところだな。
そうそう、あいつも生きてたんだ、実は」
「死んでなかったのか?
それじゃあなぜ凛さんは呪いを…」
「あいつが自分で呪いを解くことを命じたらしい。
呪いを掛けたものは外すことも可能だからな」
つまり、凛さんは兄自らの意思で呪いを解かれたということか。
「じゃあ凛さんを許したってことでいいのか?」
「そうは言っていたが…本心はわからん。
もし心配ならば警戒しておくのがいいぞ。
まあ俺たちにとってはしてほしくないけどな」
「できればしないで頂戴ね」
想來まで会話に首を突っ込んでくる。
だが、敵なのに攻撃してこない辺り――
この2人は意外と、好戦的では無いらしい。
相手が攻めてきていないだけかもしれないが…
と、そう考えていた矢先、その場に誰かが『出現』した。
いきなり現れたのである。
「想來戒省、てめぇらが?」
突然出てきた男が、想來と戒省を指さしながら疑問を投げかける。
「さあ、どうだろうな?
この世にトンデモなく自分だってバレたくない事がバレそうになっても、わざわざ名乗り出る奴なんて居るか?」
「つまり、お前らが想來戒省ってわけだ」
「それはどうでしょうねえ。肯定した時点であなたのすることなんてわかってるわ」
「おお、好戦的だ…俺の求めてる刺激に相応しいなぁ。
最近、戦闘に興奮を感じなくなってきたんだ。
なあ、知ってるだろお前らも『快感を感じる為に戦ってる異常なヤツ』って。
それさ……俺の事なんだ」
「何だと!?」
「戒省、逃げるわよ!こいつは敵にしちゃいけない!」
「おっと、逃げられちゃ困る…折角極限にまで気配を消して、足音1つたてずに苦労してここまで来たんだ…相手してくれよ」
「残念ながらそれは無理だ…
俺たちはここで死ぬ気はない。
お前の名前を当ててやる…戦闘に快感を求める変人、『デスヴァー』だ!」
「ご名答…良くわかったねえ」
「お前は今の魔法界でもトップクラスの人材として知られている…
俺たちが知らないわけがない!」
「なら尚更やってみたくなるね。
君たちだって俺と戦うのが楽しみだろ?」
「私は…負けるやつとはやりたくない!」
「キッパリ言うねえ想來、理由は何故だ」
「私は戒省とまだ…キスしかしてないの!それなのにその先に行けないなんて…
それにその時だってほぼ投げやりだったのよ!
だから気持ちだってしっかり伝えられてない…
そんな状況の中で、負けたくないもの」
「おお、素晴らしいまでに人間っぽい理由だ…
まさかあの想來がそんなことを思うなんてね。
で、どうなんだい戒省君。彼女からの熱いラブコールは、無視するつもりなのかな?」
「それはお前とのやりとりが済んだ後だ」
「俺と戦うってことかい?」
「誰がそんなこと言った。お前と真正面から戦うやつなんて――」
「じゃあもう終わらせちゃっていいよねえ?」
デスヴァーが急に、戒省に接近している。
僕はただ、見ているしかなかった。
デスヴァーのその、圧倒的な存在感に魅了され…
「おっと、そこに可愛い坊やと…寝ている女が居るなあ」
「あいつらは今関係ない。問題は」
「ちょっと黙れよ?」
戒省の腹に勢いをつけてパンチをする。
「グッ…クハッ…」
「今の、よく耐えれたねえ。
でもこれで数分は動けないでしょ」
デスヴァーが僕達のところに近づいてくる。
「何か要件がありますか?」
「うーん、不思議だ…
君は魔力が全く無いねえ、なんでかな?
本当に持っていないのか、ワザと隠しているのか…
それとも、そこに寝ている彼女の人造人間だったりして」
そのふざけたような予想が的中していたので、僕は思わず目を見開いてしまった。
「おっと、本当にそうなんだ。
でも君、ダメだよダメダメ。リアクションが大きすぎる。それじゃどうやったってバレちゃうよ。
それで俺が見たいのは…そっちの彼女だ。
人造人間を作れるほどの人材…楽しみだね。
早く借してくれるかい?」
「ダメよ黒田!そいつに凛を渡しちゃダメ!」
「部外者は黙ってろよ」
背後に振り返る。想來もその殺気に思わず、目を背けてしまう。
「さあ、早く見せるんだ」
「僕から見せるつもりはありません」
「それはつまり…どういうことだい?」
「見せる気はないということです」
想來に言われたことを、守ってみるしか無い。
「ハッハッハ…ここに来てそう言えるのか、君は。
凄いねぇ凄い…君も相当凄い人だよ。
君という存在を見つけられたことだけで此処に来た価値があった…」
「それなら、早く帰ってくれ…」
やっと立ち上がるほどの力を取り戻した戒省が言った。
「まあ、彼を見ることが出来たからしょうがない。
今回は潔く退散と行こうかね…俺もここで、君たちを倒すつもりないし」
「それなら」
「ん…黒田、ここは」
「凛さん!」
「おっと…彼女が目覚めたのかい?」
「いや、そうだ、私は――」
その途端、凛さんの体がまた炎のようなものを纏い、立ち上がる。
「覚醒、したんだ…!!」
「凛、目覚めたのか!」
「なんでこんな最悪のタイミングで目覚めるのよ…!」
「最悪のタイミング?何故だ」
目覚めるのは早い方がいい、と僕は思う。
「だって――」
「……フフ…フフフ…ハハハハハハハハ!!
最っ高じゃないかぁああ!!
急いで帰らなくてよかったああああああ!!
寝ていた彼女が…覚醒持ち!最っ高に面白い!!
フフ…フッフフ…これは戦ってかなきゃ失礼だよねェ!」
デスヴァーが、これまでとは比べ物にならないぐらい興奮している。
「あなた…誰?」
「そんなことはいいからさぁ!早く…君と戦いたいんだ!!」