第八話
今回は戒省視点です。
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「よし、行こうか」
俺は黒田を抱え、このビルから離れようとする。
いや、ビルと言っても今は1階しかない。
それに天井もないから、そもそも建物として成立しているのが不思議な程だった。
もっとも、成立していなければ自分も危険だったが。
「待て」
入り口には、歳の老いた爺さんとそれに付き添う幼女。
「…DWか?」
「ああ。その通りだ」
「今回やったことは全部お前らがしたことか?」
「今更聞くことか、佐賀部凛――彼女は覚醒を使うことができる。
今はまだ制御出来ていないが、制御出来たならもの凄い力になる」
「だから格斗を殺したのか」
「あんな魔力に溺れたクズ、生きる必要など無い」
年老いた爺さんは格斗をクズだという。
だが果たして魔法師としてクズと言ったのだろうか?
俺はあいつほどの魔力を持っている奴を他に知らなかった。
覚醒などしていなくても、あいつは十分に戦えた。
だけどやはり力は人を変えてしまうのだろう。
自分の力ではなく、他人の力でそうなったのだから更にタチが悪かった。
そう、凛だ。
彼女が覚醒を持っていることに気づいているのは格斗だけだったと言う。
本人さえも、知らなかった。
更にそれを知らせようとせず、封印しようとした。
確かに人間としては出来ていなかったかもしれない。
もしかしたら、いやもしかしなくても性格が悪かったかもしれない。
だが魔法を使う者としては、どうだったのだろうか。
彼の腕など、誰もが知ってるはずだった。
だから、この爺さんは言っていることがおかしい。
「格斗は魔力がすごかったんだぞ?お前の言っている動機と矛盾している。
魔力が凄いのであれば、性格がどんなに悪くてもいいんじゃないか?
俺はあいつほど魔法の才能がある奴を見たことがない。
あいつを亡くした罪は大きいぜ?」
「魔力が強いだけでは、この世は作っていけないということだ。
格斗は他人から痛みつけられたことがない。
負けを知らないんだ、だからあんな性格になってしまった」
「あいつが負けを知らない?
あいつはとっくに負けてたじゃねえか、自分の妹に。
そしてあいつもそれを自覚していた、だから呪いを掛けたんだろう?」
「だからと言ってあんな考え方では生かしておくことは出来なかった。
そもそもタブーとされてきた呪いを掛ける時点で、あいつはダメだ」
負けを知らないの件については都合良くスルーのようだ。
「それに格斗の妹、凛には覚醒がある。
彼女は長年呪いを掛けられてきただけあって、精神力も高い。
だから凛の呪いを解いたのだ」
「結局、自分の都合次第って事かよ」
本当に呆れる。
「要するに、格斗が嫌いだからだろう?
お前が、あいつに嫉妬しているからだ」
「残念ながら違うな。
俺はあいつのことなど羨ましくない、結局魔力を持っている人間は全員ああなってしまうのだ。自分の力に溺れて、おかしくなってしまう」
「それならお前はなぜ魔力を高めようとする。
今回の凛の事だってそうだ。まさかお前、自分より魔力の強い奴を合理的にこの世から消えさせて…自分が一番上になろうと?」
「いちいち感が良い小僧だ、まだ18の癖に。
お前には教えてやる。その通りだ。
格斗と同じ理由で、殺せそうな奴はまだまだ居るしな。
上がいなくなったら、俺が必然的に上になるだろう?」
「…クズなのはお前だ」
ここまで不快な話も珍しい。
「だが俺はもう歳でな…どうやら俺の夢は叶えられそうに無い。
だから俺の代わりになるやつが欲しい。
想來戒省…お前らにはDWに入って、活動を続けて欲しい」
黙って我慢していた想來が、ついに口を開く。
「ふざけないで!
あなたみたいなジジイのグループ誰が入ってやるもんですか!
それにあなたの隣の、そこの女の子があなたの代わりじゃないの?」
「残念ながら、これは俺のパートナーだ」
「パートナー…人造人間!?」
こいつが生み出すことができるのか!?
「どうやら俺は時が経つごとに魔力が高くなるらしい。
こいつは正真正銘、俺のパートナーだ。
彼女は俺が生きている間、お前らがDWに入ってくれるなら力を尽くしてくれるだろう」
「だから俺たちはお前のグループに入る訳がないだろう?」
「今ここで入らなかったら、申し訳ないがお前らも生かしてはおけない」
「どうしてだ?俺たちの魔力もかなりあるはずだが」
「言っただろう?俺の目的はそれじゃねぇ…
お前らの魔力は俺より上だ。だから殺す」
「俺は人造人間なんて作れないぞ?お前の方が上だと思うが」
「『作る』方じゃなくて、『戦う』方なんだよ。
確かに俺は、『作る』方の魔力は元々高いさ。だからパートナーまで作ることが出来た。
だが俺は『戦う』方は全く才能がない。自分で虚しくなるぐらいにな。
だからパートナーに戦ってもらうのさ。
凛だって、そいつを生み出したのはその理由なんだろう。
彼女は覚醒しないと『戦う』方の魔法は全くダメだったらしいからな」
そいつとは、黒田のことだろう。
「だったら尚更俺たちを入れようってのがバカバカしいな…
まさか勝てると思ってるのか?その女で」
「こいつをあまり見くびらないほうがいいぞ。私の『作る』魔力を使ってこいつを戦わせるのだ、お前らなど一瞬で消えてなくなるだろう。
それに想來戒省、てめぇらは2人でいるから強いんだ。
1人1人じゃ恐らく全く戦えないだろう。
まるで力の無い雑魚と雑魚が集まってできたみたいだな」
「お前…それ正気で言ってんのか?
クズに興味はねぇんだよ、さっさと何処かに消えてなくなることだな」
「度胸が無い、所詮雑魚か」
「…オイ、あまり俺を――」
「ナメねぇほうがいいぞ」
突然背後から誰かが来て、DWの顔面を殴る。
「爆発程度でこの俺が死ぬと思ったかぁ?え?言ってみ」
そして右手で胸ぐらを掴み、左手で魔力を貯める。
「…生きてやがったか、格斗」
「生きてやがったかじゃねえよ。
お前らが爆弾を仕掛けてた事なんざ元からわかってたんだけどなぁ?
せっかく可愛い可愛い妹が来てくれるからって思ってさぁ、色んなところに防犯カメラ仕掛けてたの気づいてなかったの?」
「わかってはいたが」
「じゃあなぜ逆にバレないと思った?
お前ら凛が暴走し始めたから俺が死んだんだと思ったんだろ?
ざーんねん、大ハズレ。
『呪いを掛けたのもはいつでも呪いを解くことができる』っていう常識、知らなかったのかなぁ?
――それじゃ潮時だ、じゃあな」
格斗が貯めていた左手を、DWの顔面に押さえつけるように殴る。
そしてDWも抵抗せず、いやすることが出来なかったのだろう、その場には跡形も無くなってしまっていた。
「…生きてたんだな、格斗」
「爆発する前に窓から逃げ出して助かったぜ。
あいつらは1階しか見てなかったようだし、俺はあいつらから見えない窓から逃げたからな」
「なんで私たちに爆弾の事を教えてくれなかったの?」
「教えても意味が無いと思ったからだ。あいつらの狙いは俺だとわかっていたからな…それに、爆弾を使う気は本当はなかったんだろう、俺が都合良く2階にいなければな」
「2階にいたからこそ使ったってことか…
そういえば、凛は」
「さっき暴走が止まった」
「制御できるようになったのか?まさか自分で?」
「俺はどうやらあいつの才能を見くびってたらしい。
今は落ちついて寝てるよ。
もうあいつの力に嫉妬なんてしない、放っておくことにする。世の中にはどうしようも無いモノってのがあると分かったからな…
あとその人造人間、それは凛のだから返してやってくれ」
「しょうがないわね…格斗が言うなら」
黒田を手に入れることができなかったのは少し心惜しいが、格斗が生きている事実の嬉しさの方が心に残った。
「それじゃ、俺はもう行くよ」
格斗はそういって、歩いて何処かへ行ってしまった。
「俺達はこれからどうする?」
「とりあえず、凛が起きるのを待ちましょう。攫われたりしたら大変だからね」
想來が他の人の心配をするとは、意外だった。