第七話
「ギャアアアアアアアア!!」
変わり果てた凛さんの姿に、僕は何も言うことが出来なかった。
それは想來戒省も同じで、呆然と立ち尽くしている。
違うのは、凛さんだけ。
叫び声を上げながら、赤い炎のような物を全身に纏っている。
そして、その赤い炎が叫び声に反応したかのように燃える。
「凛さんは…おい!凛さんは一体、どうしてこんな事に」
「わからねぇ、だがあいつは覚醒持ちだ」
「覚醒!?覚醒って、あの1000万人に1人の」
「ああ、それがお前の主…凛だったって事だ!」
未だに凛さんは、赤く燃えている。周囲を攻撃せず、冷静を保っているようにも見えた。
「だけど凛さんはそんな…覚醒の姿なんて見たことが無い!」
「見られるわけないわ…
凛は本当は、覚醒を抑えられる為だけに呪いを掛けられたのよ」
「覚醒を抑える為…!?じゃあ、人を殺す呪いっていうのは」
「ただの嫌がらせだ。
あいつの兄はあいつが覚醒持ちだったのが許せなかったらしい、自分より優れているということがな。
そしてあいつは覚醒に気づいていなかった。覚醒持ちの子供の大半は、寝てる時に発動するため自覚しているやつなんてほとんど居ない。
だから、呪いを掛けても気づかれないことに成功した、という事だ」
「じゃあ凛さんが今まで苦しんできたのは…
その単なる嫌がらせの為だったって事なのか!!」
「呪いを掛けられているのに普段と変わらない姿を見て、相当怒ったのでしょうね。
人に呪いを掛けるなんて、そもそも人が狂ってるとしか思えないわ」
「じゃあなんでお前らは、ずっと凛さんの兄――格斗の仲間だったんだ!」
「その方が面白いからだ」
戒省が笑みを浮かべながら話す。
「俺達は人間味溢れる話が大好きなんだ。
今回は彼の妹に対する嫉妬がすごく魅力的だった、それだけだ」
「…流石だな、お前らも頭イカれてるぜ」
僕にはとてもじゃないが理解しがたい事だった。
「だがしかし、こうやって仲良く喋ってる場合でもない」
「仲良くはないけどな」
「…まあいい。今のあいつの状態は、危険だろう」
「確かに、今の凛さんを無理に挑発でもしたら僕たちは生きて帰れないだろうな」
「ああ。それに一度掛けた呪いは、もう二度と掛ける事はできない。だから、本当はあいつを殺したい」
「殺す?できるのか、僕達に」
「無理に決まっているでしょう。相手は覚醒状態。私達じゃ絶対手に負えないわ」
「じゃあ一体どうすれば…それに凛さんを殺すって、よく考えてみれば僕も死ぬってことだよな」
「ああ…悪いが、そこら辺は俺達の気の使えるところじゃない」
「僕のことは別にいいんだが、凛さんが死ぬっていうのが…」
やはり、簡単に許せることではないのだ。
「お前の気持ちもわかる」
戒省は僕の気持ちを本当にわかってくれているのだろうか。
「だけどこうなってしまった以上は仕方ないわ、私達だって危険になる」
「俺達たちだって自分の命ぐらいは惜しいさ、お前だってそうなんだろう?それはみんな同じさ。だからこそ俺達は仲良くする必要がある」
「お前は凛さんを殺すといったよな?結局、僕は死ぬんだろう?ならなぜ、僕に協力を求める。」
「お前が死なないからさ。
この世界で今のあいつを止める事ができるのは、恐らくいない。
だから、殺すこともできない。
お前はそいつの造った人造人間だ。絶対に死ぬことはない」
「人造人間はいくら血が出たって、どこかが悪くなったって主が死なない限りは絶対死なないわ。
言うなれば不死身よ。最も、主が死んでしまえば読んで字の如く、元も子もなくなって死んでしまうけれど」
「つまりお前らは…僕が欲しいのか」
「そういうことだ。凛の暴走は、恐らくもうそろそろ警察が来て連れて行かれる。そして、完全に収まるまで警察で管理される。こんなに激しく自動的に暴走してるってのは、自分を制御しきれてないからだ」
「そして自分を制御出来ていない人を普通の人と接触させるわけにはいかないということか」
「そういうことだ。
本当はあんなに危なっかしい奴、今すぐにでも殺したいんだけどな。
それと警察がここに来る理由はもう1つある。爆発だ」
戒省が上を見上げる。
「凛の覚醒のことで忘れていたが、そもそもビルが爆発してる。それに1階だけ綺麗に残した状態でな。これは普通じゃありえない、恐らく手なれたベテランだ」
「知っているのか?」
「ああ、恐らく年老いた男と幼女のグループ…『DW』さ」
「DW…」
名前は知っていた。
世界中の、覚醒持ち、魔法の才能がある者を開花させるためのグループだという。
『才能がある者を発掘してこれからの世界を作っていって欲しいから』という一見すると良い動機のようなこのグループだが、やっていることは犯罪だ。今回だって爆発をした。そういうことを平気でするグループだとは、前から知っていたが。そしてその考えを持つ祖父の孫が、その考えに洗脳された幼女だ。
だが犯罪を犯してまで他人の為に行動するとは思えず、また捕まっていないことからもしかしたら国や警察が関係しているグループと言われている。そんな世界的に有名な犯罪者だった。
「それでお前はどうする、凛のペット」
「黒田だ。その変な名前は口にするな。
僕は、お前らみたいな犯罪者達のグループに入る気はない。
凛さんと一緒に警察に連れて行ってもらう」
「残念だけど、私達がそんなに簡単に獲物を逃すと思う?」
想來が構える。
「応戦しないと連れて行かれるんだよな?
それだったら、やるしかないよな」
僕も当然、やる構えだ。だが。
「お前が俺たちに、叶うわけないだろう?」
背後から戒省に襲われた。
その猛烈な衝撃に、僕は――