第五話
それから僕らはそれぞれ必要なものを買い求め、街を歩いていた。
「それにしても…やはり犯罪が多発していることだけあります。あまり容姿が良くない人が多いですね」
本音だった。古びたシャツに敗れたズボン、そしてこちらを睨みつけて店の前に座っている絶対に関わりたくないものもいる。
「まあ仕方がないわ。元々あまり良いところではない覚悟で来たんだし…そもそも、私たちの目的はここに住むことじゃない、といっても結果的に住んでしまうんだけどね」
彼女はそう思っているらしい。だがここにどれぐらい住めばいいかわからないので、少し不安だ。特に夜は絶対外に出たくない。
「まあとりあえず、買い物もしましたし泊まるところを探しましょう。ホテルとか」
「そうね。といってもホテル街はあまり行きたくないけれど」
どういうことなのだろうか自分ではあまり理解することができなかったが、深く問い詰めないことにしておいた。そのほうが都合が良さそうだからだ。
「ここの辺りがホテル街って聞いたんだけど…やっぱりね」
見たら、明らかに怪しい店の客引きが沢山いた。
「ねえねえそこのお兄さん、1回5000円なんだけどさぁ」
「え、1回って何の一回ですか?マッサージか何かですか」
「だからぁ――」
「何詳しく説明させようとしてんのよバカ!ほらさっさと行くわよ!」
何故か怒っている凛さんが怖かったので話すのは止めておいた。
「カップルかい?どうだ、デートの休みにでも使ってよ」
サングラスをかけた男の人が話しかけてくる。今の凛さんに話しかけたら危険だぞ。
「残念ながらデートではないので遠慮しておきます」
「じゃあ彼氏じゃないってコト?今夜あたり俺でもどう?」
「そっちの方が更に遠慮しておきます」
「連れないなー、結構可愛いのに。モテるんじゃない?そっちの君は…うーん、君は男というより、オカマのような感じがするぜ」
「オカマ…?」
「ああ。見かけはそうでもないが、オーラが何かな」
「そうですか。私にはそうは見えませんが」
「俺さ、こう見えても結構感がいいんだよね…まさか、本当にオカマだったりしちゃったりする?」
「僕はこの通り男ですが、普通に女好きですし」
「本当は男も――」
「ふざけるものいい加減にしてください!私たちはこれで行くので」
凛さんが僕の手を掴み、ズンズンと歩き出す。
「なんだよ急に怒りやがって…」
「からかいすぎよ。彼がオカマだなんて嘘ついて」
「バレたか…まあ、少しそんな気もしたんだがな」
「本当あんたってわけがわからない感性してるわよね…当たるのは本当にたまにだし」
「仕方がないだ―――」
「1泊だ。泊めてくれ」
「あ?すまん、今取り込み中だった。1泊?追加サービスは」
「いらん。そのまま寝たいだけだ」
「へえ…変わった客だ、どこから来た?」
「残念ながら俺たちはただ旅をしているだけさ…"あるもの"を探してな」
「ほう…それ以上は教えてくれないってか」
「組織名ぐらいは教えてやってもいいぜ…
『DW』だ、覚えておけ」
「センキューセンキュー、案内するぜ。ちなみにその後ろの女の子も一緒?」
「もちろんだ」
「ごめんなさいね、こういう街らしいから」
凛さんが僕に、宿泊することが決まったホテルで謝罪をしてきた。僕が求めたわけでもないのに、それに凛さんが悪いわけでもないのに謝って来るとはこちらも少し戸惑ってしまう。
それにしても本当にわけのわからない街だった。あまり印象の良くないところの人たちにとって、僕らはどんな風に見えたのだろうか僕には検討もつかないが、視線が鋭かったのは確かだった。なにより、街のそこら辺にゴミが平気で落ちているのだ。何個も、何個も。そこの人々はそれを当然と思っているのか、拾うどころがむしろ捨てている始末だ。もうどうしようもできないし、注意したらしたで大変なことになりそうな雰囲気だった。そんな中を歩いてきたのだから疲れているに決まっている。だがそれを乗り越えたら今度はホテル街。一気に人が増え、何故か少し焦ってしまったぐらいである。
「本当にわけのわからない人ばかりでしたね。少し不安になってしまいますよ」
「私も同じよ。やっぱり他の国っていうのは疲れるわね」
凛さんも同じように思ったようだった。
「それじゃ僕は寝るんで…明日はしっかり、移住するところに着くんですよね?」
「ええ。向こうも明日で準備が終わると言っていたから…まあ、大丈夫よ」
その言葉に安心して、僕は目を閉じた。