第四話
それからの一週間はまさに怒涛だった。レベル1と何回対戦したかすら覚えていないし、思い出そうとしても頭痛で無理だった。朝から晩までずっとあのビルの中だったのだ。疲労はとてつもなかった。だが、自分でも強くなったとわかるほど成長することができた。魔法も使える種類が増えたし、威力も前より上げることが出来た。だがしかし、これで凛さんの兄に勝てるとは思えない。それほどたくさんの努力を彼はしてきたのか、それとも才能なのか。僕には知る由もないがそれは凛さんも同様だろう。
「明日出発するから体を休めておきなさい、絶対にね…そんなボロボロで隣の国へ行くなんて危険だから」
といってもまだ朝だ。一日中寝ていろということだろうか。まあそれはそれで嬉しい。自分はまだ完全に疲れを取れていないからだ。
「隣の国へ行くのが危険…その隣の国、アンデスというところはそんなに治安が悪いところなのでしょうか?」
「相当悪いわ。犯罪が多発しているみたい…警察もそこまで働いていないわけじゃないそうだけど」
正直不安だが、まあ目的の者がいるのならば仕方のないことだ。だが自分の身はしっかり守らなければならない。どれぐらい危険なのか僕は未知数だが、余計な事で心配はしていられないだろう。
「それでは僕は寝ます…おやすみなさい」
「何いってるの、私も寝るに決まってるでしょ…一週間あなたに魔法を使い続けさせていたのよ。疲れているわ」
どうやら僕が魔法を使うと彼女の魔力を使ってことになるらしい。考えてみれば不思議なことではない。そもそも僕の存在自体が彼女の魔法で作られているようなものだからだ。彼女の魔力を変換して僕が戦闘に使っているという考え方が一番正しくわかりやすいのかもしれない。
それにしても年頃の女と寝るというのは中々刺激が強いことなのだろうか、自分はあまりそういう感情は浮かばない。彼女が僕を生み出したのだから、親のような存在にすら思えてくる。だが見かけはあくまで恋人同士のような感じだと思う。凛さんは現在16歳、僕の体も16歳に設定されているからだ。もっとも僕は前世では26歳に亡くなっている。原因は思い出せないのだが…
「着替えるからあっち向いていて」
凛さんにとって僕は子供的な存在ではなかったらしい。まあ当然のことだろうか。別に見てもどうにも思わないからいいのだが。
「もう寝ますから…目をつぶりますよ、僕は」
「こっそり見てるかもしれないからあっち向いていて」
凛さんに睨みつけられた。酷いなこの人、全然僕を信用していない。まあいいだろう、いい加減早く寝たいのだ。向こうを向けば済む話。反論したい気持ちもあるが面倒なことになりそうなので押しつぶし反対側を向く。
「それじゃ、おやすみなさい」
そこで僕の意識は途切れた。
目を覚ましたら夜の7時ごろだった。彼女はまだ寝ていた、よっぽど疲れていたのだろうか。僕はもう大丈夫だった。今すぐにでも出発できるように、準備をしておく。
「ん、今何時かな?…7時か、もうそろそろ出るわよ黒田」
彼女が目を覚ましたようだった。もうほとんど準備も済ませておいたので僕は大丈夫だった。
「それじゃ行きましょう、アンデスへ」
僕は彼女に支度をさせ、家を出た。
「なぜ船で行こうとしたのですか?飛行機でも良かったと思うのですが」
僕は出発した船の中で彼女に問う。彼女は呪われているので、国から補助金が出ているはずだ、金銭的な問題とは思えない。僕はどちらでもいいのだが、気になったので聞いてみたのだ。
「飛行機は苦手なの…落ちるんじゃないかって」
彼女は意外と怖がりだったらしい。恐らくジェットコースターも乗れないタイプだ。気持ちはわからなくはないが、彼女がそんな心配をするとは少し意外だった。
「意外みたいな顔するんじゃないわよ。私の親は墜落事故で2人とも死んでしまったんだから、怖がっても仕方ないでしょ?」
そういえば彼女には親がいなかった。そんな真実を聞かされるとは…申し訳ない気持ちになった。
船といっても個室で、特に不便なところはない。問題なのは、着いた後だ。着いた後にどうなるかが全く予想できない。単なる旅行ではないのでワクワクする気持ちなど全然無いのだ。それに国に滞在してから凛さんの兄を探すということは、それぐらい長くアンデスにいなければならないということだ。上手く生活することができるのか、それとも…心配な事ばかり頭に浮かんでしまう。
「大丈夫よ、安心しなさい黒田。あなたの魔法の威力があれば襲われても簡単に対処することができるわ」
彼女にはバレてしまっているらしい。顔に出ていたのかどうかはわからないが、なんだか恥ずかしくなってしまった。そうしている内に、大きい島が見えてきた。どうやらこの大きい島がアンデスらしい。
「この島の中にいるのでしょうか…凛さんの兄が」
「絶対に居るわよ…私の呪いの力が、強くなっているもの」
呪いはかけた者の近くにいるほど強力になるようだ。彼女の呪いほど強力になってほしくないものはない。
「ぼ、僕を殺さないでくださいよ!?僕はまあ一応人間ですけど、あなたが生み出したんですからね!?」
「殺さないわよ…私だってそこまで制御できないわけじゃない。もって3日ね。その間に誰かを…向こうの警察に言うしかなさそうね」
呪いは国際的な問題になっている。警察に言えばそれなりの対処をしてくれるはずだ。
『目的地アンデスに到着します。お荷物等の準備を行ってください』
スピーカーからアナウンスが流れる。ついにやってきてしまったか…という思いはあるが、口に出すと間違いなく睨まれるので遠慮しておく。
「住む家はまだ準備が出来ていないようだから、とりあえず今日泊まるところを探さないとね」
とりあえずはそこからだ。まだ昼だが、荷物を置いた方が安心するし一晩中外に居ては何をされるかわからない。
「はい、そうですね…それじゃ、行きましょう。そういえば凛さんのお兄さんって、なんて名前なんですか?」
「…格斗よ。あまり兄さんの名前なんて言いたくないけどね」
「ありゃ、どうやら凛がこっちに来ちまったみたいだ…」
格斗は同居中の男と女に話す。呪いをかけたものも、自分の魔力の減り方から近いづいているのがわかる。
「凛…?ああ、あなたの妹?そりゃそれで面白いんじゃないの?」
女の方――『想來』は格斗に向かって話す。
「確かに、あいつって戦闘弱いけど、それ以外なら逸材らしいからな…是非会ってみたいもんだな」
男の方――『戒省』も想来に同意する。
「まあ待ってみろ…あいつらはどうせ俺らのところに来る。不動産屋のコネでな、あいつらの住むところを俺らのマンションと同じにさせたのさ」
格斗は笑みを浮かべる。自分の呪った妹と再会するのが余程楽しみなようだった。
「感動の再開ってわけか…それにしても、なんでお前は妹なんか呪ったんだ?普通は呪えないだろうに…才能の無駄遣いというか、俺には気持ちがよくわからんな」
「それはあいつが、特別な力を持っていたからだ…あいつは夜中、寝ているときによく『暴走』していたのだ。あいつの体が、自分自身の魔力に耐えられずにな」
「それほど強い魔力だったの?それじゃ、戦闘が出来ないっていうのは」
「普段のあいつなら、それほどの魔力もないし戦闘も出来ない。確かに優れてはいるが、俺と比べれば全然ダメだ。だけどあいつはその代わりに、『暴走』すれば圧倒的な力と戦闘力を持つことが出来た」
「それと呪いが、どう関係してるっていうんだ?妹になぜ呪いをかけた」
「俺はあいつの『暴走』が許せなかったんだ。一時的であれ、あいつが俺より優れているって事だろう?そんな事、俺は認められなかったんだ」
「『暴走』って…まさか、1000万人に1人と呼ばれる、覚醒の力を持ってるって事?」
「その通りだ!1000万人に1人…確かに俺もそれほどの魔力を持ってはいるが、覚醒だけはできなかった。だけどあいつは出来た!それが…許せないんだ!俺より才能のないあいつが出来たということが!だから『暴走』を封じこめる呪いを作ったのさ。幸い、あいつは寝ているときにだけ『暴走』をしていたから、自覚がなかった。だからあいつは呪いに気づくことがなく生活をすることができた。だけどそれじゃ、俺は納得がいかなかったんだ…あいつは呪われているのに、自分では気づいていない。『暴走』を持っていた頃の気持ちと何も変わっていない!それじゃズルい、ズルすぎる…だから、あいつに呪いをかけて、俺はアンデスに来た」
「なるほど…嫉妬に溢れたお話、どうもありがとう。最高に魅力的だぜ、お前とお前の妹」
「『暴走』を封じ込められているなら、妹さんには勝ち目はないかもしれないけど…相手に勝ち目の無い戦いをするっていうのも、面白いわね」
2人とも、異常なようだった。
「それじゃあ、あいつの到着予定は明日だ。それまでに俺たちもあいつを出迎えるパーティーの準備をしよう」