第三話
「ここがあなたを鍛えるための場所よ」
連れて来られた場所は思った以上に薄汚いビルのような場所だった。ここで本当に体を、そして魔法を鍛えられることが出来るのかは不安だが、とりあえず中に入るしかない。彼女の後に続いて、ビルの中に入る。ビルの中はひどい湿気と明かりがついていないせいか暗いという印象で、間違っても好印象ではない。
「ここはトレーニングセンター…部屋がレベルごとに割り振られて、レベル1が最弱、そしてレベル10が最強となっているの。部屋にはロボットの対戦相手が待っていて、あなたの対戦の相手をしてくれるわ。ちなみに1回1000円」
高いのか安いのかわからない値段設定はどうでもいいとして、問題はレベル設定だ。もし最強がレベル10ならば、そこを最初から行くのは無謀すぎる。だからといってレベル1が弱すぎるとすれば、そこも無駄になってしまう。とても自分だけでは決めかねないので、仕方がなく聞いてみた。
「僕はとりあえずどれぐらいのレベルがいいですか?まさか最初からレベル10とか言わないですよね、そこまでこのコンピューターの力弱くありませんよね」
「うーん…あなたならとりあえずレベル2からね。最初からレベル10なんてさせるわけないじゃない。あなたじゃ危険すぎるわ」
少々馬鹿にされたような気もしたが、あまり逆らっていても物事は進まないので仕方が無く1000円を払い、レベル2のチケットを貰う。
「これで弱すぎたら凛さんのせいですからね、覚悟しておいてください」
「そんな事を言ってられるのも今のうちだから今のうちに言っておきなさい、後悔がないようにね」
完全に馬鹿にされているがまあいいだろう。この前言ったように僕の戦闘能力はかなり高い。そういう風に作られた。理由は、彼女はあまり戦闘が得意ではないからだ。彼女は確かに兄のように魔法の才能が高く、さまざまな事に魔法を使うことが出来る。しかし戦闘においては日々生活する魔法とは別。便利さではなく、威力を求めるからだ。彼女の魔法には威力が足りなかった。理由は元々戦闘の才能が無かったからだ。彼女も最初は1人で兄を探しに行こうとしていたのだが、無理だと決意して僕を作ったらしい。そのため僕は生活に使うための魔法はあまり得意ではないし彼女みたいに何かを作ったりすることはできないが、戦闘に使う魔法はすごく威力がある。考えれば当然のことだった。彼女は僕をそのために作ったのだから、それに特化していなければ意味が無い。
「じゃあ入りますよ…凛さんはここで見ててくださいね、僕の実力を」
『バトルスタート』
人型のロボットから人工合成音声のようなアナウンスが流れ、戦闘が開始される。
「肉体強化!」
まずは自分の肉体を強化させる。こうでもしないと魔法を受けたら簡単にダメージを食らってしまうからだ。さらに防御力だけでなく、攻撃力もアップすることができる。欠点と言えば、同時に魔法を使うことが出来るのは2つまで。つまり、肉体強化をしたら魔法は1つの種類だけしか使えないということだ。だが肉体強化はあいさつのようなものなので、実質戦闘で同時に使うことのできる魔法は一種類だと言える。
『ニクタイキョウカ。サラニ、ソードツイカ』
ロボットの手にソードが握られる。だがソードを具現化できる魔法を使えるとなれば、相当の実力者レベルだ。舐めてはならない。
「ファイア追加!」
自分は火で対抗することにした。向こうがソードを斬って来る瞬間に、火の弾を発射する。だが見切られていたようで、避けられてしまった。その隙に向こうから足に蹴りを入れられてしまう。
「痛ってえ…力が半端じゃないしなにより性能がすごすぎる…」
少しばかり舐めていた数分前の自分が恥ずかしく思えてくるほどに、目の前のロボットは高性能だった。
そうなのだとしたら、こっちは…
「数で勝負だ!」
一気に5個の火を出す。普通人間は火、水、光線などの『放出魔法』系統は3秒間に同時に3回しか発射することが出来ないのだが、肉体強化のおかげで5個まで出すことが出来た。
だがしかし、全て避けられそうになっていた。並外れた反射神経ですでに攻撃が見切れられてしまっているようだった。だったのだとしたら、不意を付くしかない。急いで走りだし、相手が魔法を避けるのを待つ。
「この調子で行けば…って、当たった!?」
どうやら運良くあたったようだった。ちょうど当たった直後だったので、相手の背後には隙がある。そこを蹴ることが出来れば…と思い、足を伸ばす。
「当たれええぇ!!」
同時にガン!という音が室内に響き渡り、ロボットは倒れた。そして、
『バトルシュウリョウ』
ロボットは立ちあがって、元いた椅子へ座った。
「終わった…のか、俺はやったのか、倒したのか!」
なんともいえないような嬉しさが込み上げて来る。凛さんが元々こういう設定にしたのかどうかはよく知らないがとにかくうれしかった。やはり勝負をやってるなら、勝者になった方が嬉しい。やるからには勝ちたいという気持ちが良くわかった。
「ナイスよ、黒田。この調子でレベルを上げていくから」
そうだ、まだこいつはレベル2なのだ。これからどんどん強くなっていって、それで…
「あとさっき言ったのは嘘よ。実はレベル10が最弱で、レベル1が最強なの。あなたは一気に2番目に強い敵を倒したってことになるわね。もちろん、ここの基準でっていう話だけど、ね」
嘘だったのかよ…とガッカリしてしまう気持ちもあるが、道のりが短くなったということはそれだけ最大源に力を引き出せるという事だから、特に気にはしなかった。
「この調子で1週間後にはこの国を出るわ、そして行きましょう…隣の国、アルデスへ」