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第1話

 小さな頃から見えないものが見えていたらしい。

 赤ちゃんの頃から明後日の方向をぼんやりと眺めては、誰かに向かって微笑んでいた。言葉の覚え始めには、「ちゃ」と言葉にすらなっていない無邪気な挨拶が空を切っていた。

 これらは、全て母の談であり私にその頃の記憶はまるでない。だが、はっきりと言えることがある。

 私はその当時から死んだものの姿、即ち霊が見えていたのだ。

 そして、人には空を切っただけに見えていただろう挨拶は、そこにいた霊に向けられたものであることは間違いない。

 今も昔も、私には霊が見える。

 その力は年を重ねても衰えることはなかった。

「みどり」

 声のする方へ目を向けると、爽やかな笑顔がこちらを窺っていた。

「ん?」

 どうしてだろう。

 夏場の定番である怪談話には、おどろおどろしい幽霊が出てくるのに、私の見えている世界にそんな恐ろしげな霊はいない。

 堂々と存在している姿は、生きている人と何ら変わったところはない。

 落武者みたいな霊を私は一度だって見たことがない。いっそそんな解りやすい姿をしてくれて、恨めしそうにこちらを見てくれていたなら私にだって判断できていたに違いない。

 古い我が家の縁側、自分の定位置はここだとばかりに、私の隣に腰かけている彼も見た目はまるで生きているみたいだ。透けてさえいない。

 幽霊をあんなに怖ろしいものだと植えつけたのは一体誰なのだろうか。

「ぼんやりとして何を考えてるの?」

「ん。どうして蒼大そうたはそんなに私と変わらないように見えるのに、幽霊なんだろうって思ってたんだよ」

 蒼大は、年の頃は今年高校生になったばかりの私と同じくらいに見える。初めて会った10年前のあの日からその姿は変わっていない。

 ずっと蒼大を人だと思っていた私がさすがにおかしいと気付いたのは、小学生の高学年の頃だろうか。蒼大が霊なのだろうと気付いてから、そのことを確かめるまでに2年の月日を費やしてしまった。

 認めたくなかったのだ。

 だって私は誰よりも蒼大が大好きだったから。

 けれど私は、霊と恋愛などしてはならないと、物理的に無理なのだと、この想いはただ胸を抉る辛さしか与えてはくれないのだと知っていた。

 それでも私は蒼大が好きなのだ。

 もう私は、蒼大が霊であることも自分自身の秘めている想いのことも認めてしまった。その方が楽だからだ。自分を偽り、目の前の事実に目を閉じることは苦しいことだった。

「うん。俺が初めてみどりに会ったときはまだこんなに小さかったのに、そろそろ追い越されてしまうね」

 丁度膝の高さまで手をかざす、さすがにそこまで小さくはなかっただろうと、クスクスと笑いあった。

 何も知らないあのころは、純粋にこのお兄さんと将来結婚するんだと信じて疑わなかった。

「蒼大は何歳なの……何歳だったの?」

「俺はね、17の時に事故で死んだんだ」

「もう1つしか変わらないのね」

 お兄さんはもうお兄さんではない。同年代の異性へと変わってしまった。そしてさらに月日が過ぎて私が大人になれば、彼は年下の可愛い男の子になってしまうのだ。

 違う時を重ねている私たちに未来などない。

 それでも、今だけどんな無茶でも若気の至りで片づけられてしまうのなら、私はそれに乗ってしまおうと思うのだ。

「蒼大。好きよ、あなたが大好きよ」

 きっと出てくるだろう、二人の違いを言い訳にした言葉は今は聞きたくはない。そんなことは解りきっているのだから。そこまで私は子供ではない。大人でもないけれど。

「俺も好きだよ。ずっと好きだよ」

 霊に心はあるのだろうか。

 きっとあるのだろうと思う。私たちのような人としての時を生きてはいないけれど、彼らが住んでいる時を生きているのだ。決して刻まない時を。けれど、ちゃんと生きている。だって私には見えるんだから。今にも泣きだしそうに笑っている蒼大を。

 二人に未来がないことは、お互い痛いほど知っていた。それでも、それを口にしないのは、私と同じ気持ちを蒼大が持っているからなのだと感じた。

 私と蒼大の掌が重なる。悲しいことにまるで触れている感触はない。少しでも力加減を間違えば、蒼大の体をすり抜けて行ってしまう。

 それでも良かった。私の目がそれを見ているから。感じることは出来なくても、私は蒼大に触れているのだから。

お久しぶりor初めまして。

漸く新連載に着手する気になりました。夏ということで、霊を題材にしたお話になってはいますが、これで涼をとることは残念ながらできません。

あまり頻繁な更新は出来ませんが、のんびりと頑張っていきたいと思います。

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