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古代魔法王国の亡霊 魔女ベルゼリア

「兄さん……今までと表情が違う、どうしたの?」

「その事だが……レイラ、ちょっといいか?」

「えっ?……」

「ええ、シャノン……貴女にも神の力を分け与えましょう」

「何?……どういう事?」


 女魔術師は訝しい表情でレイラを見詰める。

 彼女は女魔術師の前に来ると手を握り、食い入るように見詰め喋り出す。


「神の啓示により貴女にも神の力を与えろと、お告げがありました……」

「ちょっと……レイラ! いきなり何をするの!?」


 シャノンはレイラの異様な雰囲気に恐怖を感じ、慌てて手を離そうとする。だが、彼女は手を離そうとしなかった。


「さぁ……神の祝福を受けなさい!」

「いやぁああ!!……離してぇええ!!」


 嫌がる彼女を尻目に女神官がそう言うと握っている手と手が白く光輝く。

 その途端、シャノンは何か体の中に異物が入り込み蹂躙されるような感覚に襲われるのである。

 更に頭の中で別人の女の声で語りかけてくる。


『……お前は、これから妾の手足となるのだ』

「な、何なの…… 私が……私でなくなっていく……」


 何かが入っていく感覚に面食らうが、徐々に脳内の声が自分と同化していくのを感じていく。

 そして、それが完全に入りきると彼女の自我が完全になくなり、別人の様に変わってしまう。


 その顔はシャノンそのものだが、より一層邪悪な笑みを浮かべ、本人になかった妖艶な雰囲気を醸し出していた。

 目付きも一際鋭くなり、目も妖しく輝いている様に見える。


「やっと……やっと蘇れた……」


 そんな彼女の意味不明な呟きを聞き兄や仲間の男達は皆、彼女の変化に驚きを見せる。


「レイラ……お前、何をしたんだ?」

「神のお告げでシャノンにも力を与えるように言われたのです……」

「……しかし、これは一体?」


 レムルスは妹の変貌に戸惑い、仲間達も彼女の変わりように呆然としていた。

 そんな彼等を余所に彼女は見下すように笑うのであった。


「うふふふ……妾は魔女ベルゼリア……」

「な……なんだ!?」

「……シャノンじゃないのか!?」

「お前の妹が魔女と名乗っているぞ……」


 突然、豹変した彼女に彼等は動揺し後ずさる。

 だが、ベルゼリアと名乗る彼女は彼等を嘲笑いながら高圧的な言葉を言い放つ。


「妾は……神から冥界より呼び戻され、お前達を手助けする為に復活したのだ」

「な、何!?」

「俺達を手助けするだと……」

「目的は何だ?」


 ベルゼリアは彼等の驚きを余所に、自分の目的を話し始める。

 それは古代魔法王国への復讐と神の代行者としての使命であった。


 彼女が言うには古代魔法王国末期に王国の腐敗と自身の理想や支配欲の為に謀反を起こしたという。

 だが、魔法王国の魔導師達も死力を尽くして彼女を排除し亡き者にしたが、彼等の被害も相当なもので王国崩壊の引き金となったのである。


「もう現世には魔法王国は存在せぬ……だが、妾を復活させた礼として神の敵を抹殺するため協力するまでよ」


 彼女の宣言を聞き、レムルス達は呆然としていた。だが彼女はそんな彼等を無視し、更に言葉を続けていく。


「妾は、この女の体を借りている……それ故、この娘の自我には暫く眠って貰おう」

「お前の事はわかった……何故、俺達が神の先兵として選ばれた?」


 レムルスは妹の身を心配しつつも自分が勇者として選ばれた理由を尋ねる。


「それは……お前達が、神の敵と深い関わりがあるからだ……」

「神の敵とは?」

「魔王アベル……」


 その言葉を聞いた途端、レムルス達は驚きのあまり絶句してしまう。

 まさか神の敵がアベルと聞いて驚くだけでなく、魔王としての名前が出た事に動揺していた。


「ま……魔王だと?」

「まさか!?……」

「……冗談だろ?」

「驚くのも無理は無い……だが、この者が短期間の間に魔王になったのも事実であるぞ!」


 ベルゼリアはシャノンの顔で邪悪な笑みを浮かべ彼等を見下す。

 その笑い方は、まるで魔女の方が魔王だと言わんばかりの笑いであった。


「俺達だけで魔王の元に行けというのか?……」

「そうだ……この人数で魔王の元に行けというのは死んでこいと言ってるようなものだぞ!」

「俺達も力を貰ったが、この人数では厳しいんじゃないか?」


 それぞれ不満を魔女にぶつけるが、彼女は余裕の表情で彼等を見据えていた。

 その答えにはレイラが代わりに答える。


「……心配は要りません。私が聖女、貴方が勇者として神から選ばれた啓示を教団に説明すれば王国も動かすことが出来るでしょう……」

「本当に俺達が神に選ばれし者だと証明されれば国は動くのか?」


 レムルスは不安を口にすると彼等も同意する様に頷く。

 いかに超人的な力を貰ったとはいえ、王や臣下が勇者と認めるのか?

 それ以前に教団の大神官を認めさせ神の天啓を信じさせれるのか?


「大丈夫です……大神官を説得出来れば王も信用せずにはいられない筈です。さあ、神殿に赴きましょう」


 自信満々に答える彼女を見てレムルス達の疑念は吹き飛び感銘を受けていた。

 自分達が神の敵を倒す為に選ばれた勇者だと証明できれば教団も王国も認めざるを得ない筈である。

 そして、彼等は神殿へと赴き大神官に謁見し自分達の事を説明するのであった……。




「レイラ殿、この者達は?」

「はい……この者達は神に選ばれし勇者と従者達です」

「何?……この者達が勇者?……聖女に選ばれた者は何処か?」

「実は……私が聖女として神の声を聞いたのです!」

「……それは真か?」


 大神官は怪訝な表情でレイラとレムルス達を交互に見つめる。

 そして、1人ずつ顔をジッと見据えながら勇者としての資質を観察するのである。


 だが、彼等は神に選ばれた勇者という割には偉業や困難を成し遂げようとする意志が見えてこない。

 大神官はレイラの言う事を信じていいのか疑問に思い、彼女の真意を問い正す事にした。


「レイラ殿……貴女が神の声を聞いた事は信じましょう」

「では……」

「ですが、この者達が本当に勇者なのかどうか……神の声が聞こえぬ私にはわかりかねます」

「どうすれば?」


 大神官はその問いに答えず神殿の奥にある祭壇近くの石に突き刺さった剣に目をやる。

 硬い石の上面に1本の剣が突き刺さっている。それは勇者が扱える伝説の剣……聖剣であった。


「この石に突き刺さった剣を歴代の勇者が引き抜いたと伝えられています」

「あの剣を引き抜けばいいのか?」

「はい……この剣を引き抜けば神に選ばれた勇者だと認めましょう」

「わかった、やってみよう……」


 レムルスはそう言うと聖剣が突き刺さる石に近付き剣を引き抜こうとする。

 だが、石に深く突き刺さっている為、簡単に引き抜ける代物ではない。


 彼は手に力を込め聖剣を握り締める。誰もが引き抜くのは容易でないと見ていた。

 しかしながら、レムルスが力を込めた瞬間……石に刺さっていた聖剣は思いのほか、簡単に抜け落ちたのである。


「おおっ!……剣が抜けた!」

「当然です……神に選ばれし勇者なのですから」

「本当だ……レムルスは本当に勇者なんだ!」

「流石、俺達のリーダーだぜ!」


 大神官の宣言で彼等は歓喜する。そして、大神官はレムルスを勇者として認めざる得ないのであった。

 その後、レムルス達は教団から正式に勇者として認められ王と謁見する事になる。


 そして、神の啓示によりレムルスが勇者でレイラが聖女、ウェイドとアーロンは従者という事を大神官は説明する。

 神殿の石に刺さっていた聖剣『ディヴァイン・フォース』を証拠として見せ、王も認めないわけにはいかなかった。


「……お前達の事はよくわかった……だが、その女魔術師はどうゆう素性の者だ?」


 王や臣下達はシャノンを疑わしい表情で見詰める。

 彼女は魔術師のローブを着てはいるが、杖を持っておらず不敵な笑みを常に浮かべていた。


「彼女は私の妹でして魔術師として同行してます……」

「なに?……そなたの妹なのか?」


 王はレムルスの言葉に更に不審な表情を浮かべる。

 彼女の姿には勇者と聖女に付き添う人格や信用を備えた仲間には見えず、逆に邪悪さと禍々しさしか漂っていないのであった……。

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