ガラドの工房で
僕とガラドが暫く歩いてドワーフの工房へと辿り着く。そこは森の外れにある小さな山小屋のような場所であった。
小屋の近くには川が流れており傍には水車がある。溶かした金属を鋳型に入れた後に冷却する水を採取するためであろう。
工房の中には金属を加工する為の大きな金床があり石造りの鍛冶炉がある。特別製らしく炉の周りには古代語が刻印されている。
小屋の中に入ると様々な武具や飾り物が所狭しと並べられていた。
「凄いな……武器、防具だけじゃなくて装飾品も……」
目を丸くして驚いているとガラドは自慢げに言う。
「そうだろう! どれも儂が丹精込めて作った逸品だからな!」
彼は自分の作品を褒められて喜んでいるようであった。
確かに、彼の作った装備品はどれも素晴らしく目を見張るものがある。
「ミスリルで作った武具もあるって言っていたけど……どれですか?」
目を輝かせながら彼に尋ねると、彼は奥にある棚から武具を持ってきて僕に手渡す。それは白銀に輝く美しい鎧であった。
「これも儂の自信作だ! ミスリルは鋼鉄より硬くて軽い、そして魔法に対する耐性もあるんだ!」
「確かに……凄いですね」
僕はその剣を見て感嘆する。そして、ミスリルの鎧をしなやかな指で表面をなぞる。
なぞった指からは鎧の魔法金属としての魔力が情報として僕に流れ込んできた。
無機物に宿る魔力なので純粋に澄んだ自然の魔力を感じる。
「なるほど……これは良い物ですね。魔力を感じる……でも、少し重いかな」
「ふむ……アベルは女性だから、ミスリルの鎧でも重すぎるか?」
ガラドが顎に手を当てて考え込んでいると、彼が僕に鎧を譲ろうとしているのに気が付き首を横に振る。
「いえ……結構です。僕には鎧は必要ありません。近接戦闘は得意でないので」
「そうか? あっ、そうだ! 以前、魔術師用の防具として作った試作品……ミスリルを繊維状に伸ばして編み込んだローブだがどうだ?」
彼は思い出したかのように、奥の部屋から黒いローブを持ってくると僕に手渡してきた。
そのローブは一見、普通の魔術師のローブに見えるが、手触りで繊維状にミスリルが編み込まれており魔力を帯びているのが判る。
「これは……凄い!」
僕は目を輝かせて興奮気味に言う。そして、ローブに袖を通してみると軽くて動きやすく、それでいて防御力も高そうであった。
試着して喜んでいるとガラドが嬉しそうに頷く。
「うむ……それは良かった! ミスリルを繊維状にして編み込むのは骨が折れたの……大事に使ってくれるか?」
「ありがとうございます! 大切に着させて頂きます!」
満面の笑みで感謝して頭を下げる。そして、ガラドからミスリルが編み込んだローブを譲ってもらうことになったのである。
着込んでみると自分の体にフィットし、ミスリルの魔力がみなぎっているのを肌で感じる。
それから彼の工房の奥には未完成の鎧や剣が埃を被っていた。
失敗作という訳ではなく途中で断念して放棄したのか中途半端なままである。
「未完成品か……触ってもいいですか?」
「いいが……未完成品だぞ……」
ガルドは顎に手を当てて考える仕草をする。僕は埃を被っている武具類を見て触ってみる。
これもミスリル製らしく未完成であっても魔力の流れが感じられる。
『ねえ、これ……魔力の結び目を、もっと強く結んだら完成するんじゃない?』
アジェが頭の中で話しかけてきた。僕は彼女に頷きながら答える。
「あの……ガラドさん」
「ん? どうした?」
「僕の能力で魔力を強固に結んだら納得がいく完成品に近付くんじゃないですか?」
「そんな事が出来るのか!? そうか! あの魔術師の火球を吸収したり魔法障壁を素手で壊したりしたのも、そのせいか!?」
彼は驚いた表情で言う。そして、目をまじまじと見詰めながら僕を見る。
「アベル! 君と一緒に旅をさせてくれんか! 儂が何年も沈滞していた情熱が再起するかもしれんぞ!」
「えっ? 一緒に付いてきてくれるんですか?」
僕は彼の提案に驚きながら尋ねる。彼はすがるように大きく頷く。
「うむ! 職人という者は物作りが人生のライフワークだ! それに君に着いていけば新たなインスピレーションが湧いてくるやもしれん!」
ガラドは目を輝かせて答える。その時、アジェが頭の中で呟く。
『ふーん……ドワーフのおじさんが一緒に来てくれるなら、あたし達にとっては仲間が増えて都合がいいかもね』
「ああ……そうだね」
僕はアジェの考えに同意すると彼に言う。
「ガラドさん、僕と一緒に旅をしてくれますか?」
「おお! 勿論だとも!」
こうしてドワーフの鍛冶職人であるガラドが仲間になったのである。
彼はそうと決まると旅支度を始め自身の鎧や盾、武器を荷車に詰め込む。
そのどれもが白銀色の武具なのでミスリル製なのだろう。盾は大きく彼の身長ほどの大きさがあるが見た目よりずっと軽そうだ。
鎧もガラドの体格に合わせた作りになっていて、武器の方は短槍であり取り回しの良さに特化している。
近接戦闘で刀剣に近い感覚で攻撃が可能だが長槍に比べると間合いが短くなり攻撃威力が劣るのである。
「そういえば……ゴロツキ達をあっという間に撃破しましたけど武器の扱いも上手いんですね?」
「そうだとも、これでも昔は鍛冶職人の傍ら冒険者も兼ねていたぞ!」
ガラドは僕の言葉に誇らしげに胸を張って答える。そして、右手に持った短槍を触ると懐かしそうな表情で言う。
「このミスリル製の短槍……これはな儂が若い頃に地下遺跡の最奥に飾られていた代物だ。懐かしいのぅ……もう何十年も前になるか……」
ドワーフの寿命は200年から250年と言われている。ガラドの見た目は人間で言えば40代に相当するのだ。
彼は愛用の短槍を愛おしそうに撫でながら感慨に耽けていたのであった。
荷造りを終えて、僕達はドワーフの工房を後にすると森を抜けて街道へと出る。
そして、街道を歩きながらガラドは僕に尋ねてくる。
「ところでアベルは何を目的に旅に出てるのか?」
「……僕は復讐するために旅をしているんです」
「ふむ……それは、由々しき問題だな。しかし、何故報復したいと思っておる?」
厳しい顔をして僕に問いかけてきたので、自分の目的を正直に話す。
「最近、僕は元仲間達から無能扱いされ挙句の果てに、この見た目を気持ち悪いと言われ追放されました……だから、見返す為に彼等の誇りをズタズタにし心を折らないと気が済みません」
その言葉を聞いてガラドは一瞬絶句したが、すぐにニヤリと笑うと僕の肩をバンバンと叩く。
「がはは! 面白いな、アベル! 復讐相手を殺すのではなく解らせるという事だな!」
彼は愉快そうに笑う。そして、笑い終えると真剣な眼差しで僕を見る。
「ならば、儂も出来る限り協力させて貰おう! 冒険者時代に得た経験と知識が役に立つ筈だからな!」
「ありがとう……ガラドさん。貴方という仲間が居て心強いが、もっと仲間が必要です……だから、同行する仲間を探しましょう」
「うむ! では……まずは、この先にあるソシニアの町に行ってみよう!」
ガラドはそう言うと荷車を引き街道を先に歩いて行く。僕も荷車の後に付いて行きながら今後の事を考える。
(さて……どうやって仲間を集めようか?)
『ねぇ、アベル……あの魔術師の魔力では、ちっともお腹いっぱいにならないんだけど……早く次の獲物を探してよ?』
頭の中でアジェが話しかけてくる。僕は頷きながら彼女に言う。
「ああ、そうだね……君が満足できる魔力を探しに行かないと……」
僕が独り言のように呟くとガラドが怪訝に思いながらも声を掛けてきた。
「おい、アベル! 何を1人でブツブツと言っているのだ!?」
不審な目で見られ慌てて手振り素振りで誤魔化しながらガラドに言う。
「あ……えっと……僕、独り言を言う癖があるんです!」
「なんだ……そういう事か」
ガラドは納得すると頷いている。僕は彼の後を追いながら仲間探しやアジェの食欲で頭が一杯になるのであった……。




