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ハーフリングの薬で混乱するゴブリンキング

 ゲルグの剛腕で振る一撃は当たれば彼の小柄な体を吹き飛ばしてしまうだろう……しかし、彼は後方に飛び退いていた。


「ぬぅ!?……何て威力だ」


 ハイオークの攻撃が空を裂き、そのまま地面を叩きつける。凄まじい轟音と共に地面に亀裂が入ると小石が飛び散っていく。

 ガラドは驚きながらも、すぐに体勢を立て直すと反撃に移る為に間合いを詰めようとする。


 だが、それを阻むかのようにアガーンが網を投げつけようと狙いを定めている。

 ニルスはそれに気付き、アガーンの方に向かい邪魔しようと走り出すのであった……。


「そうはさせないよ!」


 彼は走りながら、ポケットから何かを取り出すとそれをゴブリンキングに振りかける。

 すると、小瓶からおピンク色の液体が飛び散っていく。そして瞬く間にアガーンの体に降りかかるのであった。


「アアッ!?……何ヲカケタ!」


 彼は怒りの声を上げながら、ニルスに向き直る。だが、ハーフリングは彼の足元をちょこまかと動き回る。


「くそっ!……ちょこまかしやがって!」


 彼はそう呟くと、ニルスに向かって棍棒を振り下ろすのであった。


「うおっと!?」


 ニルスは驚きながらも、それを何とか避ける。

 アガーンも素早く細かく動き回る様子に当てることが出来ないでいた。


「クソッ!……小賢シイ奴メ!」


 ゴブリンキングは苛立ちながらハーフリングに向かって棍棒を振り回して追いかけるのである。

 しかし、ハーフリングは絶えず動き回り上手く逃げていた。

 その間、ガラドは棒を低く構え対するゲルグは棒を斜めに構えドワーフを見下ろしている。


「ドワーフ風情が将軍である我輩に挑むとは片腹痛いわ! これでも喰らうがよい!!」


 ゲルグはドワーフを見下すように見下ろし雄叫びを上げながら、勢い良く棒を振り下ろす。

 ガラドは冷静にそれを見据えて間合いを見計らうと、ギリギリのところでかわすのであった。

 そして、そのまま彼の懐に飛び込むと突きを放つがゲルグは素早く横に避けてかわす。


「ぬぅ……やるな!」


 2人は再び距離を取り対峙すると互いに睨み合い次の攻撃の機会を待っていたのである……。




 ニルスの方は何とかゴブリンキングから逃げ続けていると段々、アガーンの瞳がグルグルと回り始める。

 そして、視界が反転し目が回り始めてくる。彼はめまいを起こし目を瞑ると片膝をつくのであった。


「ウゥ……オ?……目ガ回ル」


 フラフラした足取りで立ち上がろとするが上手く体が動かせない様子である。

 少しして、めまいが治まると彼の見えている世界に違和感を覚えていた。


「ナ……何ダ、コレハ? ドウシテ、コンナ所ニイルノダ?」


 周りをキョロキョロ見渡しながら、混乱して呟くアガーンにニルスは小躍りしながら喜んでいた。


「よしっ!……大成功だ!!」


 ニルスは小さくガッツポーズをとりながら、頭がこんがらっているゴブリンキングを見てほくそ笑む。


「へへへ……これは相手をパニックにさせる薬なんだよ」


 彼が小声で囁くと膝をついたアガーンはハイオークやドワーフを見ると怒りが湧いてくるのであった。

 ゴブリンキングが見渡し戦っているオークとドワーフが敵に見えたり味方に見えたりしている。


 今、彼はニルスの薬品によって頭が混乱していた。

 視線の先はドワーフとオークの戦いである。


「オ……俺ハ誰ト、タタカッテイルノダ?」


 彼は訳も分からずに、手に持った棍棒を振り上げ網を持ってガラドとゲルグの対決に突っ込んで行く。


「アガーン!……我輩に加勢は無用だ!」


 ゲルグは自分を手助けしようとアガーンが近付いてきていると思って叫ぶが、そうではなかった。

 傍まで来ると突如、手に持つ網をゲルグに向かって投げつけるのである。


「うおっ!?……アガーン、何を!?」


 ゲルグが叫ぶもアガーンが投げた網が全身に絡まる。

 そして、そのまま彼は網に覆われ足にも絡まり地面に倒れ込んでしまうのであった。


「アガーン!……貴様ぁ! 何をする!!」


 ゲルグは怒りを露わにして大声で叫び網から抜け出そうとするが絡まった網は中々外れないようだ。

 網に絡まった彼にゴブリンキングは棍棒を振り上げ打ち下ろそう狙いを定める。


「エエイ!……死ネェ!!」


 だが、アガーンが棍棒を振り下ろす前にガラドが駆けて来た。彼は振り下ろされる棍棒に自身の棒で打ち払う。


「クソッ! オ前モ敵カ!?」

「仲間同士で争うなどと何をしておる……」


 ガラドはそう言うと、混乱しているアガーンを相手に棒を向け構えるのである……。




 特別席で見ていたグレギギは突然、狂って仲間に襲い掛かったアガーンを見て驚きの声を上げる。


「な……何だと!? 一体、何故仲間同士で争うのだ!?」

「どうやら、ハーフリングが撒いた薬品に何か仕掛けがあるようだな……。それで正気を失ったようだぞ」


 魔王はそう言うとニヤリと笑い楽しそうにする。その笑みを見てグレギギはムッとするのであった。


「仲間同士で争うなどと愚か者めが!……この対決、止めさせましょう!」

「いや、ゲルグを襲ったアガーンの攻撃をドワーフが受け止めた……奴にとっても望ましい展開でないみたいだな」


 グレギギは魔王の言葉を聞いて、改めて闘技場を見つめる。

 そこには混乱しているゴブリンキングと網に絡まったゲルグを背にして構えているガラドの姿であった。


「なるほど……あのドワーフも相手が同士討ちで自滅するより、きちんと決着をつけたいという事ですな……」

「そうだ……だから止めさせる必要はないぞ」


 魔王の諭す言葉にグレギギは納得するしかなかった。そして、勝負の行方を見守るのである。

 この時、ハーフリングはドワーフの元に駆け寄ってきて言う。


「ガラド!……ゴブリンキングは薬で混乱させたよ! 今のうちにやっちゃいなよ!」

「この試合は儂の誇りもかかっておるのじゃ……余計な真似はするでない」

「わかったよ……おいらはアイツと戦うよ」


 しょんぼりするニルスを余所にガラドはオークが網から抜け出す様子を冷静に見つめ、待つのであった。

 暫くして抜け出したゲルグは、その間にも攻撃を仕掛けてこなかったドワーフを見詰める。


「貴様……何を考えておるのだ?」

「儂は卑怯な手で勝利を得るより、ちゃんと戦って決着をつけたいのじゃ」


 ガラドの言葉を聞くとゲルグは気持ちが昂り体を震わせて叫ぶ。


「お前も武人か……ならば、正々堂々と勝負しようではないか!」

「うむ……武人ではないが儂としては潔くお主と戦いたいのじゃ……再開するぞ!!」


 ガラドはそう言うと、棒を構え面と向かうのであった。そして、ゲルグも構え上段に構えるのである。


「うおおおおおっ!!」

「かかってこい!!」


 ゲルグは雄叫びを上げながら、棒を振り回しガラドに向かって行く。

 ガラドの方も煽るように叫び棒をたてに構え備えている。

 そして、両者が間合いを詰めるとゲルグは渾身の力で棒を振り下ろすのであった……。




 ドワーフとオークが再び構え対決している時、ニルスはゴブリンキングの周りを走って相手を挑発する。


「おーい……こっちだよ、ノロマ!」

「ナ、何ダト……コノ、チビガ!」


 悪口を言われ怒りに震えながら、ニルスを捕まえようと追い回すが中々捕まえられない。

 彼はちょこまかと動き回りながら挑発し続けていた。


 逃げるハーフリングに棍棒を振り下ろすが的が小さいので攻撃が当たらないのである。

 彼にとって、こんなに小さい相手と戦った経験がなかった。


「コノッ!……コノッ! コノッ! クソッ! ゼンゼン当タランゾ!」


 ゴブリンキングが苛立ちながら、棍棒を振り下ろすがニルスはその間にもちょこまかと逃げ回る。

 そして、彼の股下を潜るとアガーンの背後まで逃げてしまうのであった。


「へへーん……こっちだよ! へぼゴブリン!」


 ニルスに挑発されて頭に血が上るゴブリンキングは怒りで我を忘れている様子である。

 彼はアガーンを煽るように再び、彼の前に現れると挑発しだす。


「そらっ!……こっちだよ!」

「コノッ!……小癪ナ奴メ!」


 そして、そのまま観客席の傍まで向かって走り出す。それを見て観客達の顔をにやけさせるのである。


「面白れぇぞ!……ハーフリング!」

「もっと、煽れや!!」


 観客達の声援にニルスは悪い気がしない様子で調子に乗って挑発するのであった……。

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