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僕の身に宿る異世界の女神

『どう? あたしのこと、ちゃんと可愛く見えてる?』


 僕の目には10代半ばぐらいに見える可憐な美少女が映っていた。

 今の僕と同じく髪の色は多色で瞳も赤かった。それでいて、彼女の周りには神々しい多元色のオーラが纏わり付いている。


「これが……君なんだ……」

『うん。それがあたしの姿だよ! 思ってたより美少女でしょう?』


 彼女は嬉しそうに言うが、その容姿は僕の想像を遥かに超えていた。


「ああ……確かに、可愛いね」

『えへへー、ありがとう! あたしね、ずっと1人だったから寂しかったんだ……』


 彼女は、はにかみながら嬉しそうに言う。その姿は普通の女の子と何も変わらなかった。

 話し方からも、その辺の10代女子と変わらぬものである。もしかしたら神にも精神年齢なるものがあるのかな?


『今、あたしの心が幼稚だと思ったでしょ! しかたないじゃない、この世界に来て数百年も封印されてたし……元居た世界でも、生まれて少ししか経ってないから……』


 神にとって少ししか経っていないとは、どれくらいの時間だろうか?人間である僕にとって到底思いつかない。


 そう思いながらも彼女は、むくれた表情で僕に抗議してくる。その仕草は普通の女の子と変わりなかった……。


『あっ! もう1つだけ言っておくけど、あたしはこの世界の神じゃないから』

「え? ああ、うん……」


 僕は彼女の言葉の意味を理解できなかったが頷く。


『まあ、そのうち分かるよ……。あなたの事はアベルと呼んでいい?』

「うん、いいよ……。君の名前は?」

『あたしはアジェって言うんだよ』


 彼女は微笑みながら自分の名を教えてくれた。


『じゃあ、アベル。これからよろしくね!』

「うん……よろしく、アジェ」


 彼女は僕に手を差し出してきたので僕も握り返す。しかし、握ろうとした手が彼女の手を擦り抜ける。

 目の前に居るアジェは実体ではなかった。握手できなかった事に僕は気まずさを感じて、頬を指でポリポリと掻いてみせる。


『ごめんよぉー……目の前に居る、あたしは思念体だから触れられないんだよね』

「あはは……そうなんだね」


 こうして彼女(神)と出会って僕の日常は大きく変わる事となるのである……。

 それから、僕はアジェに今後の道筋について相談してみる。


「これから僕はどうしたら良いんだろう?」

『2人で世界の不具合や欠陥を修正する旅に出ない?』


 アジェが提案してきたのは意外な提案だった。僕は驚き戸惑う。


「えっ……そんな事出来るの?」

『大丈夫だよ! あたしとアベルの能力があれば問題ないよ! それにキミの元仲間達が「気色悪い」って言ったでしょ? じゃあ、最高に気色悪い方法で、あいつらにやり返してあげなきゃ!』


 彼女は悪戯っ子の様な笑みを浮かべて言い放つ。どうやら、かなり自信があるらしい。

 アジェ自身、自分の事を神だと言ってるのだから本当にやり抜けても不思議ではない。


「……分かったよ、君の言う通りにしてみる」

『だけど、数百年も封じられていたから力はすっかり弱くなっちゃってる。だから、もっともっと魔力を食べて強くなっていかないと』


 彼女はそう言うと僕の身体の中に溶け込んでいくようにスルリと消えていった。

 そして、僕は自身に魔力に対する強烈な飢餓感を実感する。

 それは生理的な食欲というより精神的に狂おしいほどの飢えのように感じられた。


「これが……魔力を渇望する空腹感!?」

『そうだね。じゃあ、あたしの存在を維持するために、アベルの魔力を少し食べさせてねー』

「あ……ああ、いいよ」


 僕は戸惑いながらも了承する。そして、彼女は僕の身体から魔力を吸収していく。


「うっ……ううっ!」

『大丈夫? もう止めた方がいいかな?』


 アジェが心配気に尋ねてくる。しかし、僕は歯を食いしばりながら首を横に振ると更に魔力を吸わさせる。

 魔力を吸われる感覚というのは、まるで魂を吸われているような感覚だった。


『アベル、ありがとう! お陰で力が少し戻ってきたよ!』


 彼女は嬉しそうにお礼を言ってくる。僕は彼女の役に立てた事が嬉しく思えた。


「それは良かった……」


 僕は笑顔で答えるが、魔力を吸われたせいで少しめまいが起きふらついてくる。

 すると、彼女の感情から心配する様子と恥ずかしさでモジモジする仕草が伝わってくる。


『大丈夫? お腹が空いたら、また魔力を食べさせてくれる?』

「僕が気絶しない程度ならね……」

『やったー! これから宜しくね!』


 2人して笑い合う。こうして僕とアジェの旅が始まるのであった。




 雨が降る夜を廃屋で過ごし夜が明けると、僕は廃屋を出て街を出ることにした。


「この街には君にとって満足する魔力はないね。早く別の街に行こう」

『そうだねー』


 僕は体の中のアジェに向かって呟きながら道を歩き続ける。暫く街道を歩いて行く。

 街から出ると街道は段々と人気がなくなっていく。そして、木々が生い茂る森を通る事になった。

 アジェが何かの気配を探るように察知する。彼女は僕には分からないほどの微量な魔力を感知したのだ。


『この先に魔力を感じる……魔術師かも』

「えっ? こんな森の中で?」


 僕は驚きの声を上げる。こんな森に人が住んでいるとは考え難い。

 暫く歩くと言い合いをしている声が聞こえてくる。


「お前が持っている魔法金属や細工品を置いていけ!」

「そうだ、そうだ! 早く置いていけ!!」

「素直に渡せば命だけは助けてやるぞ!」


 どうやら数人の男達が誰かを脅しているみたいだ。僕は辺りを見回して、声のする方へ向かう。

 1人の髭の長い小柄な男の周りには3人ぐらいのガラの悪そうな男達が居る。小柄な男をよく見るとドワーフだった。


 ガラの悪い男達の少し離れた所に商人風の男と黒いローブを着た男も居た。

 ローブを着た者は見た目から魔術師だろう。


『ねぇ、あの人……』

「ああ……何か絡まれているみたいだね」


 僕はアジェにそう答える。確かに小柄な男の後ろには荷物山積みされた荷車があった。

 彼等はドワーフが持っている魔法金属や細工品を奪おうとしているのが見てとれた。


「何故、儂の作った商品を奪おうとする!?」


 彼も恐れる事無く抗議する。しかし、男達はニヤニヤと笑いながら剣で脅かしながら近づいてくる。


「お前が作るミスリル製の製品を俺と取引しないから痛い目に遭うんだぞ!」

「誰がお前みたいな悪徳商人と商売するか!」

「負け惜しみ言うな……俺等は命を無駄にするなと言ってるんだよ」

「そうそう。お前1人で俺達に勝てると思っているのか?」


 商人とならず者達は口々に言うと彼に近づいていく。その後ろで魔術師が魔法を唱える準備をしているようだ。


『助けてあげないの?』


 アジェが僕に話しかけてくる。僕は頷きながら答える。


「ああ……助けるよ」


 そう言うと男達の前に姿を現し堂々とした態度で話しかける。


「おい! その人に手を出すな!」


 男達は一瞬驚きの目で僕を見詰めている。

 髪の色が多元色なので始めは驚いていたが少しして笑いながら答える。


「おいおい、誰かと思ったら女じゃねぇかよ」

「俺達の邪魔すると痛い目にあうぜぇー」


 僕はゴロツキ共を無視して男に話しかける。


「大丈夫ですか?」


 ドワーフの男は驚いた表情をしながらも頷くと、すぐに僕に向かって叫ぶ。


「ここは危ないから、お嬢ちゃんは早く立ち去るんだ!」


 しかし、僕は首を横に振るとゴロツキ共を睨み付ける。そして、ゆっくりと歩きながら近づく。


「おい、女……死にたいのか?」

「邪魔する奴は女であろうと痛めつけてしまえ!」


 商人風の男が男達に指示する。すると、ゴロツキ共は僕に向かって剣を突き出す。


「や……やっちまうぞ!」

「おう! 痛い目に遭わせてやる!」

「変な髪色だが、まあまあ綺麗な顔だな……後で、こいつは奴隷商に売っぱらってやる! 覚悟しろ!」


 商人が僕の顔を見ながらニヤニヤして言ってくる。僕はその様子に呆れながら言う。


「はぁ……お前等、本当にゲスな奴等だな……」

「ああ、そうさ! 俺達はクズだからな!」

「へへへ! そうだ、ろくでなしだぜ!」


 全ての男達がゲラゲラ笑いながら言う。僕は溜息をつくと、ゆっくり近づいていく。

 ゴロツキ共の視線が僕に集中している間、ドワーフは自分の荷車から何かを必死に探している。


「あっ! テメェ、何をしている! おい、あいつに魔法を掛けろ!」


 商人がドワーフの行動に気づき、慌てて魔術師に命令する。

 彼の指令で魔術師は魔法を唱えようと杖をドワーフに向けるのであった……。

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