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封印された箱の中に居たモノ

「おい、アベル! 何がおかしい!?」


 レムルスが憤怒の表情で睨み付ける。しかし、僕は気にせず笑い続けた。


「あはは……凄い。何て魅力的な封印なんだ……」


 僕は箱に施されている封印の魔力を見て感激した。その美しい術式は見る者を魅了する。


「おい! アベル、お前……何を言っている!?」


 レムルスが僕の狂気じみた様子に混乱している。しかし、僕にはその声は届かない。

 そして、僕が次に放った言動は彼等を驚愕させるものだった。


「ああ、そうか……。これは3次元で繋がっていないんだ……面と面が魔力の糸で1本ずつ縫い合わされているんだ……」


(この編み込み……狂ってる。まるで、何か途方もない巨大な力を閉じ込めるために1つの世界を無理矢理押し込んだみたいだ。……ああ、早く触れたい。これを解いたら、どうなるんだろう?)


 僕は封印の複雑な術式に魅入られ、その魔力の強大さに酔いしれていた。


「な……何なんだ、こいつ?」

「気持ち悪い奴……」

「そうですね……」


 ウェイドが呆れ返り、シャノンが薄気味悪そうに自分を見て呟き、レイラも同感だと頷く。

 僕はそんな彼等の声も聞こえなくなり封印を解く事に没頭して作業する。


「素晴らしい……凄い、凄いよ……やりがいがあるよ」


 興奮した声で呟き、封印に手を伸ばす。すると触れた指先から魔力の糸が少しずつ解けていき術が段々と減衰していく。

 そして、僕の魔力が箱の封印と共鳴し僕自身を包み込む。


(ああ……気持ちいい)


 箱の魔力を全身に感じながら封印が弱まっていくのを実感した。もうすぐ術が解けるのが待ち遠しい。


「ああ……最高だ。……君が姿を現すまで、あと少し」


 僕は恍惚とした表情で呟くと封印が解ける瞬間を待つ。そして、最後の魔力の糸が切れた時……。

 箱は眩い光を放ちながらゆっくりと内側から崩壊していったのである。


「な……何だ!?」


 レムルスが驚愕して叫ぶ中、箱から極彩色の瘴気のようなものが自分に迸っていく。


「ううっ……うわぁあああ!!」

「何よ、これ!?」


 僕は叫び声を上げシャノンも叫ぶ。それは恐怖と不快感を伴うものだった。

 レムルス、ウェイド、レイラは瞬時に危険を察し、僕から距離を取る。

 そして、瘴気が晴れた時……僕は恍惚とした表情で倒れていたのである。


「何が起こった? アベル、大丈夫か!?」


 レムルスは叫びながら仲間達とアベルを交互に見る。他の仲間達も突然の出来事に戸惑い動揺している。


「……見て!」


 シャノンが指差す方向を見てみると、そこには倒れているアベルの髪色が黒色から多元色に変わっていた。


「アベルの髪が……」


 レイラが呟く。その髪色は多色であり、虹のような輝きを放っている。


「まさか……箱の中身に触れた為なのか?」

「そんな……ありえないわ!」


 魔剣士が考えを纏めるように呟く。妹も信じられないと頭を振る。しかし、現実は彼女の言葉を否定していた。


「……でも、現に髪の色が変わっているぜ」


 ウェイドも自分の見たものを信じるしかないと悟ったようだ。


「アベル……お前、どうなったんだ?」


 レムルスは倒れているアベルに問い掛ける。しかし、彼は何も答えずに夢心地の表情で気絶していた。


「と……とにかく、この事は依頼主に失敗したと報告しよう」

「そうですね。箱の中身も判明しなかったことだし……」

「……そうだな」


 皆で頷き合うとウェイドがアベルを背負い街へ帰還する事にしたのである。

 宿に戻ってから自身の肉体が女体化していくのを体感し瞳も赤くなる。


 声が高くなると同時に背丈が少し低くなり今までの服がブカブカになった。

 女性化した体つきを、じっと見詰める仲間達から更に気味悪がれるのであった……。




 ――そして、今に至る。

 アベルはレムルス達に捨てられた後……雨が降りしきる中、夜の街を彷徨っていた。


 そして、暗い路地裏に入ると誰も住んでいないボロボロの廃屋が目に入る。

 僕は雨宿りするために中に入ると誰も居ないのを確認し床に座り込み俯く。


「ううっ……皆から捨てられたんだ……」


 虚ろな笑みを浮かべながら呟く。しかし、その瞳は何も映っていなかった。

 廃屋の中には雨の音が響き渡っていたが、それすら耳に入らなかった。

 そんな僕の耳にこの場に居るはずのない女性の声が入ってくる。


『ねえねえ、いつまで浮かない顔をしてるの? もっとシャキッとしなさいよ!」


 慌てて周りを見渡すが何処にも女性らしき人影は見えない。

 若い女性の声だった。しかも、自分より年下の少女の口調で語りかけてくる。


「だ……誰なんだ、君は?」

『あたし? あたしは……あなたの中に居る存在だよ』


 その言葉を聞いて思わず目を見開く。しかし、その言葉は嘘ではないらしく少女は続けて語る。


『覚えてる? あなたが封印を解いた箱を?』

「ああ……あの箱の封印を解いた時、僕の中に入り込んできたのか」


『そう。あたしはその箱に大昔から封じられていたの。封印を解かれて、あなたの肉体に入り込んじゃったわけ』

「じゃあ……君の正体は……?」


 僕はゴクリと唾を飲み込み恐る恐る尋ねる。


『あたしは……いわゆる神的存在……神とも言う』


 少女は自信ありげに答えるが僕は思わず笑い出してしまう。


「ははは……冗談だろ?」

『むー、信じてないなー! なら、証拠を見せてあげる。力を戻してあげるから、あたしの構造を感じてみて』


 彼女はそう言うと同時に僕の右手が勝手に上がり自分の胸に触れる。

 触れた途端、僕の中に潜む彼女の気配を魔力解除を使って解析しようとする。

 だが、解析しようとすると脳が焼き切れる様な圧倒的な情報が襲い掛かり脳に激しい頭痛が引き起こされる。


「う……うぁああ!! 何だこれは!?」


 僕は思わず叫ぶ。脳が溶けそうな勢いで僕の頭には痛みと膨大な情報の奔流が流れ込んでくる。

 ちょっと垣間見ただけでも世界の初めから終わりが記述されたような無限に連なる構造のように認識できた。


『えへへ……ごめんねー。あたしの構造を解析させようとしたけど、このまま続けたら廃人になるから止めちゃった』


 少女は愉快そうに笑う。どうやら彼女の話は冗談ではなかったらしい。

 神聖な雰囲気は感じられないが、とてつもない力を内に秘めているのは間違いない。


『ねぇ、これで分かった? 』


 僕に優しく語りかけてくる。しかし、この少女は何故、箱の中に封印されていたのだろうか……?


「君は……この世界を創った神?」

『違うよー。あたしは別な世界から連れてこられたんだよ』


 彼女は否定する。それと同時に悲しみのこもった声で話す。


『ずっと昔に突然、この世界に召喚されたと思ったら彼等にとって非常に危険な存在として、あの箱に封じ込められてしまったんだよ』

「それは……どうして?」

『あたしは、この世界の魔力を食べて成長する存在だからだね。彼等にとって、魔法の源であるエーテルを際限なく吸い取ってしまうの……』


 エーテルとは世界を構成するエネルギー源であり魔術の発動や神聖魔法を促す信仰力の源泉になる魔力の根源的なエネルギーである。

 彼女が……エーテルを吸いつくしたら世界の魔力は、やがて無くなってしてしまう……?


 僕の中に居る少女は魔力を吸いつくし枯渇させてしまい、魔法自体を崩壊させてしまう破壊神じゃないのか?

 そう考えると、やはり彼女は危険な存在なのではと思ってしまう。


『違うよ! あたしがエーテルを吸いつくしたら魔法が無くなってしまうと思ったでしょう?……あはは、バカだねぇ。あたしが、この世界で留まれる分を食べるけだから安心して』


 心を読み取ったのか、彼女は明るく否定してきた。僕は意外な答えに驚く。


「そうか……安心したよ。僕の魔力解除が発動しなくなったのも君のせいだっんだね……」

『あー……ごめんねー。あれは、あたしが余りにも空腹だったし……あなたの中に入り込んだせいで性別も変わっちゃった、てへっ』


 彼女は無邪気にも誤魔化しながら謝ってくる。そして、僕の前に彼女の姿がイメージできるように投影させてくるのであった……。

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