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ゴブリンシャーマンの呪術で気を失うがアジェが目覚め始末する

「ギッギャー! ギィ……」

「ギィ! ギィ!」


 ゴブリン達が奇声を発しながら僕達に群がってくる。

 奴等に囲まれてガラドは慌てて短槍を構えて戦闘態勢に入るが、彼女は慌てることなく冷静であった。


「ふっ……もっと緊張感を持った戦いをしたいと思っていたところだ」


 彼女はそう呟きながら拳を握り構える。どうやら今度も素手で戦うつもりらしい。

 そして、ゴブリンの群れの中から一際異彩を放つ個体が彼女に近付いていく。


「オマエタチ……ナカマヲ……コロシタ」


 人語を発しているゴブリンは他の奴等に比べて頭部が大きい。ボロボロだがローブを身に纏っていた。

 手には杖を持ち、その先端には獣の頭蓋骨が飾られており、ゴブリン達の首領だと解る。


 稀に生まれてくるゴブリンの中には知能が高く魔法を操る能力を持つ個体が出てくる事があるのだ。

 今まさに出現した彼が、その個体そのものである。


「ヨクモ……コロシタナ! ユルサン!」

「あれは……ゴブリンシャーマン」


 それを見た女エルフの神経が張り詰める。どうやら僕の知っているゴブリンとは格が違うらしい。


「オマエラ……オトコタチハ……ミナゴロシダ! オンナタチハ……ワレラノ……ナエドコトナレ!」


 ゴブリンシャーマンは僕と女エルフを見てニヤニヤとし、それを聞いた彼女はギリッと歯ぎしりをする。

 僕は意味が解らずキョトンとしてしまう。


「……ふん! 下劣な奴等め、汚らわしい!」

「ナエドコってどういう意味なの……?」

「さあ?」


 ニルスが小声で僕に聞いてくるが、僕も意味が解らず首を傾げる。

 2人は知らなかったが自力で繁殖方法がないゴブリンは人間やエルフの女達の腹を借りて自身の子供を孕ませる。

 ゴブリンの巣に借り腹として捕らわれ孕まさられる女達を苗床と言うのである。


 そうしている間、ゴブリンシャーマンは何やら呪文の様なものを唱え始める。

 すると、杖の先に飾られていた獣の頭蓋骨がカタカタと震え出す。


「な……何あれ?」


 ニルスが驚きながら言うとゴブリンシャーマンはニタリと笑う。


「ククク……オマエタチハ……キゼツスルノダ!」


 そう叫ぶと突然、頭蓋骨の口が開く。その口からドロリとした漆黒の霧が溢れだし僕達に襲い掛かる。

 その霧は僕達の体に纏わり付き体中に染み込もうとしてくる。


「う……これは毒?」


 僕は思わず呟くと、ガラドとニルスは呻きながら言う。


「うぬぅ……目の前が……」

「い……意識が……」


 どうやら、霧で意識を失いつつある。僕も抵抗しようとするが、どうする事も出来ない。

 女エルフも抗おうとしていたが膝を着き、そのまま地面にうつ伏せで倒れてしまう……。


(ああ……意識が……朦朧と)

「グヘヘヘ……コレデ……オンナタチハ……ワレラノモノダ!」


 僕は目の前が遠くなっていくのを感じると同時にゴブリンシャーマンの醜い嘲笑が耳に入ってくる。

 そして、昏睡してその場に崩れ落ちた。


 だが、意識を失ったアベルが突如、不自然な動きで立ち上がる。

 カッと見開かれた彼女の瞳は先程までのものでなく、冷徹な光を宿していた。


 そして彼女はそのままシャーマンに向かって歩き出し、その首を鷲掴みにするのであった。

 自身の呪術に慢心していた彼は、突然起きて向かって来たアベルに戸惑いを隠せなかった。


「キサマ……ナゼ……ノロイヲ……アビテモ……ヘイキナンダ……?」

「……」


 彼は思ったままを口にするが、アベルは何も答えない。そして、そのままゴブリンシャーマンから魔力を吸い取っていく。


「グエェェェ……!キッ……キサマ……!」

「我が魔力の糧となれ……」


 アベルは冷徹な表情で言うと、ゴブリンシャーマンの体は干乾びてミイラのようになっていく。

 そして、彼女が手を離すとそのまま崩れ落ち弱々しく呻く。


「ム……ムネン……」


 そう呟くと、そのまま動かなくなるのであった……。

 この様子を一部始終見ていた配下のゴブリン達はボスが死んだと見ると、恐慌状態になる。


「ギッ! ギャー!」

「ギェー! ギエエー!!」


 ゴブリン達は奇声を上げながら逃げ出そうとするとアベルは不気味に囁く。


『逃がさないよ……お前達は魔力のないゴミだけど、邪魔だから消してあげる』


 彼女の非情な瞳で見つめられたゴブリン達は、まるで金縛りにあったかのように動けなくなる。


「ギッ……ギャー!?」

「グエェ! グエェ!?」


 そして、アベルの背後から多元色の触手が現れ、うねると勢いよくゴブリン達に絡み付いていく。


『不味くて口直しにもならない……塵にも劣る、くずが……』


 触手が、うねうねと纏わり付き触れた部分からゴブリンの体がサラサラと風化したかのように砂となって崩れ去る。

 その現象は他の絡み付かれたゴブリン達も同じであった。


『本当……味も何もない、ただのゴミね』

「グゲエェ!!」

「アギィィイ!!」


 ゴブリン達は全て砂状にされてしまい、血の一滴も、肉の一片も残っておらず多元色の触手も見えなくなる。

 その場にはアベルだけが残されているのであった……。


「……うっ!」


 意識を取り戻した僕は気が付くと周囲を見渡す。どうやら立ったまま意識を取り戻していたらしい。

 辺りはゴブリンシャーマンはおろかゴブリン達も居ないのである。


 周りには失神して倒れているガラド、ニルス、女エルフの姿があった。

 僕は3人を起こそうと近付くが、皆意識を失っているのか声を掛けても反応が無い。


「……僕の意識が無くなっている間、アジェがゴブリン達をどうにかしたの?」

『うん、そうだよ。ゴブリンシャーマンはともかく、普通のゴブリンは不味かったけど消し去ったよ』

「そう……君がゴブリンを……」


 僕は改めてアジェの恐ろしさを知る。彼女の力はゴブリン達を簡単に全滅させてしまったのだ。

 その事実に改めて彼女が神の如く存在であるという事を思い知るのである。


『でも、アベル……あたしはまだまだ魔力が足りないよ』

「え? どれぐらい魔力を吸収すればいいの?」

『わかんない……でも、もっと……膨大な魔力が必要……その女エルフからも、それなりの魔力を感じるけど吸っていい?』

「だ……駄目だよ! 彼女はゴブリン達から襲われていたんだ。勝手にそんな事したら許さないよ!」

『う~ん……まあ、わかったよ。じゃあ、森を出たらアベルが探してね』

「うん……わかったよ」


 彼女は魔力欲しさに言うが僕が許さないと言うと勝手な事を言って指図してくる。


『じゃあ、あたしは寝るよ……おやすみ~』


 そう一方的に言うと彼女の声が急に途切れる。そして、僕は彼女の鼻につく振舞いに戸惑うのであった……。




「……はっ!?」


 僕が見守っている間、ガラドが意識を取り戻す。そして周囲を見渡して状況を把握しようとする。


「なぁ……アベル、儂は一時、気を失っていたのか……?」

「あ……ガラドさん、気が付いたんですね」

「ああ……しかし、ゴブリン達は?」

「いなくなりましたよ」

「……え? いない?」


 僕は簡潔に答えると彼はキョトンとする。次にニルスが目を覚ます。


「う~ん……あれ?」

「ニルスも目が覚めたんだね」

「うん……って! あ……あれ? ゴブリン達は?」

「もう、いないよ」

「……え? あ、そうなんだ……」


 ニルスは僕の言葉に一瞬驚くが、直ぐに納得して言う。

 そして、女エルフも目を覚ますと僕達を見て警戒する。しかし、彼女は周りの状況を確認すると驚きの声を上げる。


「あ……あれ、無事? ゴブリンは?」

「いなくなりましたよ」

「え? 一体、何が起きた……?」


 彼女は僕の言葉を聞き、キョトンとする。周辺をキョロキョロと見渡している。

 ゴブリンの死体どころか血痕すらないのである。


「……貴様、何をしたんだ?」

「え? 僕は何もしてませんよ」

「いや……しかし……」


 彼女が僕を疑う様に言うが本当に何もしていない。ただ、アジェがゴブリン達を始末しただけである。

 ただ、本当の事を話すとややこしくなるのでアジェについては黙っていた。

 そんなやり取りをしていると、女エルフは僕達に近付いて来る。


「すまない……私の勘違いだった様だ。失礼な態度を取ってすまなかったな」


 そして彼女はそう言って、頭を深々と下げるのであった……。

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