ゴブリン達に襲われている古エルフ
『ねぇ……アベル』
「何? アジェ……」
3人で次の町に向かって歩いていると、アジェが唐突に話し掛けてくる。
僕は歩きながら2人に聞こえないよう彼女に答える。
『その……錬金術師の魔力だけでは、まだ足りないの……もっと、魔力を食べさせて欲しいんだけど……』
「え? 今すぐには用意できないよ……」
『むぅ……我慢するけど……早くしてね』
アジェが不貞腐れながら言うと、僕は苦笑しながら頷くのであった。
そんな僕達のやり取りに気が付きガラドが不思議そうな表情で聞いてくる。
「アベルよ……何を独りで話してるんじゃ?」
「あ! 心配しないで下さい……唯の独り言なんで」
「アベルって、やっぱり変な癖があるんだね」
ニルスも僕の独語に違和感を感じたようで慌てて言い訳をする。
『うるさいわねぇ! 別に独り言ぐらい、いいじゃない!』
2人の発言にアジェは怒ったようで文句を言っているが僕の頭の中での事なので彼等には当然聞こえていない。
そんな一幕がありつつも、次の町に向かう街道を歩いて行くのであった。
街道を暫く歩いていると森が茂っている場所に差し掛かる。
「この森を通り抜けて行くしかないですね」
僕は2人に説明しながら森の中に入って行くのであった……。
森の中を暫く歩くと、突然ニルスが立ち止まる。そして彼は前方を指差して言った。
「アベル! あそこに何かいるよ!」
「え? 何がいるの?」
僕が聞くと、ニルスは指差した方向に慎重に歩いて行く。僕とガラドも彼の後について行った。
彼は冒険者時代にシーフをしていた経験からか誰よりも物音や気配に敏感で、こういった事には大抵気付くようだ。
そしてニルスが木の影から何かを覗くと小声で僕等に言う。
「どうやら……あの人、ゴブリンに襲われているみたいだよ……」
僕は彼の後ろから覗き見ると、そこには4匹のゴブリンに囲まれている女性がいた。
その女性の格好は冒険者風の格好で髪は金髪であるが耳が長いのでエルフであろう。
彼女はゴブリンに囲まれているのにも関わらず全く恐怖心を感じさせなかった。
ゴブリン達は緑の肌色をして手に棍棒や錆び付いたショートソード、手製の槍を装備して襲い掛かろうとジリジリと近付いている。
「どうしよう……助けに行った方がいいよね?」
僕は独り言のように呟くと、2人は答える。
「か弱い女性を助けるのが漢たるものよ」
「そうだね! このまま見捨てるのも後味が悪いから助けてあげようよ!」
そして僕とガラドは頷き合うと、ゴブリン達の前に姿を現す。
突然、現れた僕達に驚いたのかゴブリン達は警戒しながら後退りをする。しかし、1体のゴブリンが奇声を発して威嚇してくる!
「ギッギャー!」
その奇声に反応して残りのゴブリン達も一斉にこちらを振り向く。
「お姉さん! 助けるよ!」
ニルスが叫ぶと彼女は不快そうな顔をし、こちらの耳を疑うような言葉で返す。
「邪魔するな! 手出し無用だ!」
「手出し無用って……そんな状況じゃないでしょう!」
彼女は僕達を軽蔑の目で見ながらゴブリン達を前にしても丸腰でいる。
両腰にはダガーの鞘が見えるが抜こうともしないのである。
そして、ゴブリン達に向かって大声で叫ぶのであった。
「ゴブリン程度の下等な種族は……武器を使わなくとも打ちのめしてやる!」
彼女はそう宣言すると、両手を顔の前で構え左足を前に出し右足に重心を掛ける。
そうしている間にゴブリン共はジリジリとエルフに近寄り、飛び掛かるタイミングを計っている。
痺れを切らしたのか1体のゴブリンが奇声を発し棍棒を振り上げながら飛び掛かる。
「ギィギャー!」
「はあぁーっ!」
彼女は掛け声と共に棍棒の一撃を躱す。
躱すと同時に右足を地面に踏ん張り前に出て左拳をゴブリンの顔面に向けて真っ直ぐ突いて吹き飛ばす!
グシャッと音がしたと同時にゴブリンの顔面が陥没して、そのまま地面に転がるのである。
それと同時にもう1匹の棍棒を持つゴブリンが彼女に襲い掛かるも、見事な回し蹴りを首目掛けて放つ。
「グギャーッ!」
グキッと首の骨が折れる音がしゴブリンは首があらぬ方向に曲がり白目を剥いて絶命した。
「ギッ! ギャー!」
残ったゴブリンが奇声を発しながらも無謀に彼女に飛び掛かる。しかし、彼女は慌てることなく冷静に対処して捌いて行く。
錆び付いたショートソードを構えて飛び掛かってきたゴブリンの持ち手の腕を右手で払う。
すると、剣は空を切り地面に打ち付け隙が出来た。
無防備なった腹部に前蹴りを喰らわしゴブリンは後方の大木に激突する。
「ギャッ!」
ドゴッと音がし木の幹が軽く凹むとそのままズルリと血を流しながら地面に落下して動かなくなる。
どうやら今の一撃で絶命したようである。
最後に残った槍を持ったゴブリンは恐怖の余りに、槍を投げ捨てて反対方向を向いて逃走しようとする。
「ギギャー! ギィ……ギャッ!?」
「てやぁ!」
しかし彼女は逃げるゴブリンに後ろから跳躍し飛び蹴りを背中に喰らわす。ボキッと背骨が折れる音がした。
そして倒れたゴブリンは最初の内は痙攣していたが、やがてピクリとも動かなくなる。
「ふぅ……こんなものか……」
戦闘を終えたエルフの女性は、何事も無かったかのように呟くのであった……。
「あの~大丈夫ですか?」
(4匹のゴブリンをあっという間に倒した……このエルフ、強い)
僕は恐る恐る声を掛けると彼女はこちらに気が付き振り向く。
その容姿は金髪で耳が長くて美しい顔をしているが目元はきつめである。
しかもよく見ると瞳が金色であった。エルフだから、こんな瞳のエルフもいるのかも……?
「……大丈夫。ゴブリン相手なら素手で十分だ」
「グギャッ……」
彼女は素っ気なく言うと、まだ息のあるゴブリンの頸椎に足を踏みつけトドメを刺した。
「お……お強いですね」
「いや、大したことは無い……」
彼女の気迫に押されビクビクしながら言うと彼女も不愛想に言うのである。
エルフは鋭い目付きで僕達を一瞥して言う。
「それより、お前等は何者だ?」
「あっ……僕達は旅人です」
僕は慌てて身分を紹介する。ガラドは彼女の顔を見てハッとする。
「金髪の髪と金色の瞳……聞いた事があるぞ。お主は古エルフだな?」
「古エルフ?」
ガラドの言葉の意味が解らなず同じフレーズを言う。すると彼女は少し驚いた表情をして彼に言うのであった。
「ほう……古エルフの事を少しは知っているのか」
「うむ……神話の時代に光の勢力と闇の勢力に別れて戦った大戦があったという。元々、古エルフだけだったのだが光の勢力に付いたのが今のエルフ、闇の勢力に付いたのがダークエルフ、どちらにも付かなかったのが古エルフとして現在に至るというわけじゃ……」
「へえ~そうなんですね」
「そんな大昔の話なんて理解できないよ!」
ガラドの話を聞いた僕は思わず感心するがニルスは不機嫌そうに言う。
「確か……古エルフは世界樹の元でコミニティを築いて暮らしている筈じゃないのか?」
ドワーフが疑問を投げかけるかのように言うと、彼女は鋭い目付きで睨んで言う。
「武者修行をしている……だから、集落を離れて武術を極める為に一人旅を続けている」
「え? 武術を極める?」
彼女の言葉に驚き思わず聞き返してしまう。しかし彼女は素っ気なく言うのであった。
「ああ、精霊武術『エルヴンストライク』を極める旅に出ている……何か問題でも?」
「え……エルヴンストライク?」
僕とニルスは聞き慣れない言葉に首を傾げる。
「……太古の昔にエルフが編み出した武術だ」
「エルフって……精霊魔法を使うんじゃないの?」
僕が想像しているエルフ像を言うと彼女は説明する。
「エルヴンストライクは精霊を身に宿して主に徒手空拳で戦う技だ……無論、ゴブリン相手には精霊の力は使っていないがな」
「へ~そうなんだ、凄いね」
ニルスは感心して言う。しかしガラドが神妙な表情で彼女に質問するのであった。
「ところで、お主は一人で旅を続けるつもりかの?」
彼女がその問いに言いかけようとしたところ、茂みの中からガサゴソと音がする。
すると雑木林から、十数匹のゴブリン達が武器を手にして現れる。
倒された仲間の悲鳴を聞きつけたのか、森の奥から新たな群れが現れたのであった……。




