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風呂から上がって酒場に行く

「アベル、お前のその髪色と瞳は生まれつきなのか?」


 僕は髪の毛を摘み本当の事を言うべきか悩みながら言う。


「いえ……違います」

「そうか……じゃあ何故、そうなったんじゃ?」


 彼の質問に僕は少し躊躇したが、思い切って本当の事を話す事にした。


「実は……僕は数日前まで男だったんです……」

「何じゃと!?」

「……!?」


 僕がそう告白すると2人は驚きのあまり言葉を失ってしまったようだ。更に僕の全身をしげしげと見詰めてくる。


 その様子に急に恥ずかしくなり顔が赤くなった。しかし、ニルスが先に冷静さを取り戻すと聞いてくる。


「アベルは男だったの? いや……それにしては本物の女性と変わりないけど……?」

「じ……実は男だったんだ。だけど、ある事がきっかけで女体化してしまって……」


 僕はそう言って自分の胸に触れると2人共も僕の胸に視線を落とす。その行動に僕は少し照れてしまう。

 彼等の視線から目を逸らすと湯船に肩まで浸かる。するとガラドが僕に聞いてきた。


「それで、どうしてそうなったんじゃ?」

「……実はですね……」


 自分の身の上に起こった出来事を包み隠さずに話したのであった。

 瘴気の森での出来事……森の洞窟にある厳重に封印された箱を開けた事……それにより髪色と性別が変わってしまった事を……。

 しかし、自分の体に女神が憑依している事実は、まだ彼等には伏せておいた。


「ふむ、なるほどな……それで髪色が変わり女体化したのか」

「はい……」


 ガラドは僕の話を真剣に聞いてくれたようだ。そしてニルスはと言うと……。


「アベルは凄いよ! おいらが女になってしまったら隠れてコソコソと生活するしかなくなるよ」

「そうかな……? でも、性別が変わった事より変な色の髪を隠す方が大変だよ……」


 ドワーフは湯船の中で自分の髭をいじりながら聞いている。すると突然、彼は笑いながら言う。


「気にするな! 中身が男なら、どんな姿でいようが儂等の相棒はお主だけだぞ!」

「ガ……ガラドさん……」


 僕は彼のその言葉に目頭が熱くなる。そして、ニルスも笑顔で言うのであった。


「そうだよ! アベルがどんな姿になろうが僕達は仲間だよ!」

「2人共……ありがとう……」


 僕は嬉しさのあまり目から涙が自然と零れてくる。するとガラドは僕の肩を叩いて言う。


「よしっ! もう上がろうか」

「あっ! 僕はもう少し浸かってから上がるよ」


 ニルスはそう言い僕はガラドと一緒に湯船から出ると脱衣場に向かって歩いて行った。

 2人の優しさに触れながら僕は嬉し涙を流し続けた……。そして、誰も居ない脱衣場で1人呟く。


「ありがとう……2人共……」

『いい人達で良かったね……』


 そんなアジェの優しい声に癒されながら、僕は着替えるのであった……。

 3人で公衆浴場の外に出ると既に外はもう夜になっていた。


「あ~……今から夕食作らないと考えるとダルイなぁ~」


 ニルスがぼやくと、ガラドも苦笑しながら言う。


「まあ、今日は酒場で食べるとするか」

「そうしましょう!」


 ドワーフの提案に僕とニルスは頷く。そして3人で酒場に向かうのであった。

 僕達は酒場に到着すると、ガラドはさっさと席に座り注文を始め店員に言う。


「注文は何に?」

「火酒はあるか?」

「あるよ! 少し待ってくれ」


 店員は注文を受けると厨房に戻って行く。彼がアルコールの強い酒を頼んだ事に僕は呆れる。


 しかし、ドワーフなら強い酒も人間と比べ物にならない程強い。

 そんな思いも知らずにガラドは僕達の方を振り向くと言ってくる。


「お主等も飲むか?」

「おいらは火酒は飲めないよー」

「僕はお酒は飲めないんですよ……弱いので」


 僕が苦笑しながら言うと、ガラドは納得するように頷いた。


「ふむ、そうか……じゃあ儂だけ飲むかの」


 そして持って来た火酒の入ったグラスを一気に飲み干すのであった。

 そんな彼の飲みっぷりに僕は唖然とし目が点になってしまう。

 しかし、それ以上にニルスも呆気に取られていたようで思わず呟くのであった。


「ガラドは凄いね~」

「ガハハハ! ドワーフだから当然じゃ!」


 ガラドは豪快に笑いながら言うと、更に注文をする。そして火酒を3杯程飲むと酔ったのか上機嫌になった。


「おう! そうだ……アベルはどうする?」

「……じゃあ、僕は果実酒をお願いします」


 僕は強くない酒を注文すると、ニルスも便乗する。


「おいらはエールで!」

「火酒をもう一杯!」

「あいよ! じゃあ、少し待ってな」


 店員は注文を受けると厨房に戻っていく。そして暫くすると僕等のテーブルにエールと果実酒、火酒が運ばれてくる。


「おまち!」

「よしっ! 飲むぞ!」


 2人はグラスを持つと一気に飲み干す。僕はそんな2人を見て呆れを通り越して感心していた。


(本当に凄いなぁ……ドワーフが酒豪とは聞いていたけど、これほどとは……)


 そんな事を考えつつ、僕も自分の果実酒をチビチビと飲むのであった。


「ガハハ! アベルも飲め!」

「そうだよ、アベル! 今日は遠慮しないで」

「あ……うん……」


 2人のペースに付いていけない僕は、少し戸惑いながらも果実酒を飲み干す。

 すると体が熱くなり頭がクラクラしてきた。そして徐々に意識が朦朧となり眠たくなってくる……。

 そんな僕を見て口の周りを泡だらけにしたニルスが心配そうな声で言ってくる。


「アベル……大丈夫? 顔が真っ赤だよ……」

「う~ん? あ~大丈夫だよ~……僕は……酒に強いから~……」


 僕は顔を真っ赤にし笑顔で答えるが呂律が上手く回らない。そして僕はテーブルに突っ伏して意識を失うのであった……。




「うぅ~ん……頭が」


 僕は意識を取り戻すと頭痛がして呻くように言う。

 そんな僕の様子を見てニルスが心配そうに言ってくる。


「アベル! 大丈夫? 水でも飲むかい?」

「うん、ありがとう……」


 ニルスに差し出された水を一気に飲みほす。冷たい水が喉を通ると少し頭がスッキリしてきた。

 周りを見渡すとニルスの工房に居たのである。どうやら酒場で酔いが回り気を失ったらしい。


「アベル、もう大丈夫?」

「うん……何とか……」


 彼にそう答えると僕は立ち上がる。まだ頭がズキズキと痛むが歩けない程ではなかった。

 そんな僕を見てニルスは安心したように言う。


「良かった……おいらとガラドの2人でアベルを担いで、ここまで運んだんだよ」

「そうなんだ……運んで貰って御免ね……」


 僕が謝ると彼は首を横に振り笑顔で言う。


「気にしなくていいよ! 助け合うのが当然さ!」

「う~ん、そうだね……」


 ニルスが元気よく答え、反対に僕は少し照れ臭くなって頭を掻くと苦笑するのであった。


「アベル……本当に大丈夫? 顔色が悪いよ」

「二日酔いで……頭が痛むせいかな……明日になったら治るんじゃない」

「そうだ!……二日酔いに効く薬を作ってくるね!」


 ニルスはそう言うと、工房の奥に行き何やら調合し始める。

 得意げに調合する彼を黙って見詰めている。そして、彼は薬の入った瓶を持って戻ってきた。


「はい! これを飲んでみて!」

「これは……?」


 僕が聞くとニルスはニコニコしながら湯気が立つカップを持ってくる。どうやら二日酔いに効く薬草と毒消しの草を煎じた物らしい。

 それは見た目がドロリとした不快な緑色で、いかにも苦そうな匂いがするのであった。


「う~ん……これは飲んで大丈夫なの……?」


 色と匂いに危険性を感じ、飲むのを躊躇っているとニルスは笑顔で言うのであった。


「大丈夫!……あ、鼻をつまんで飲んだ方がいいよ!」

「ええ~……」


 彼に言われるがまま仕方なく鼻をつまみ、そして一気に飲み干す。

 すると凄まじい苦みに目を剥き、思わず咳き込んでしまう。


「うえっ!……うっぷ……苦い……おえぇ……っ!!」

「良薬口に苦しって言うでしょ! 言い忘れたけど生臭い苦みが暫く口の中に残るから 」


 ニルスはそう言ってドヤ顔する。僕はそんな彼に涙目で苦笑しつつ言う。


「確かに二日酔いに効きそうだね……でも、口の中が馬鹿になってるぅ~……」


 口内に残り続ける苦みに僕は辟易としてしまう。しかし、ニルスは気を良くしたのか笑顔で言うのであった。


「この薬があれば、またお酒が飲めるね!」

「いや……次は遠慮しとくよ……」


 そんな彼の気遣いに苦笑しながら答えるが徐々に二日酔いの気分の悪さが抜けていくのであった……。

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