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水銀型生命体となった錬金術師

「あっ!!」


 ニルスは慌てて錬金釜に近付こうとするが、ガラドに制止される。


「危ない! お前も水銀の中に落ちてしまうぞ!」

「でも……師匠のレシピが……」


 彼は師匠のレシピの事を心配している。だが、ガラドは冷静に言う。


「あの錬金術師の事だ……自殺したという訳ではなかろう」


 僕も頷きながらガラドに同意する。そして、錬金釜の中を覗き込むと水銀が自我を持ったようにうねりだす。


 練金釜の中から水銀が溢れ出て、うねうねと動き回る。

 そして、それは生き物のように一箇所に集まり人の形を成していったのであった。


「なっ! 何だあれは?」

「人の形をした……水銀?」


 ガラドとニルスは驚きのあまり腰を抜かし尻餅をつく。僕もその光景を見て驚愕するしかなかったのである。

 水銀が人型になっていく……だが、目の前で起きている事は事実である。


『アベル……あれの中には……錬金術師の核があるみたい……』

「核? どういう事なんだ?」


 アジェは水銀が人型になる過程を見て錬金術師の核があると説明する。僕は彼女の言葉に耳を傾けた。


『うん……あれは、あの錬金術師が人間の肉体を捨て水銀に肉体を再構築したみたい』

「肉体を再構築? そんな事が可能なのか?」

『アベル、錬金術は物質を別の物へと作り替える術よ……不可能ではないわ』

「そうなのか……」


 僕は錬金術師だった人型を眺めていると、それはルバロ・セレゴの姿形をしていた。

 銀白色に輝く彼の顔の造りは人間だった頃と比べると人造的で無表情であった。

 そして、僕達に顔を向け語り掛けてくる。


「……ああっ、素晴らしい。喋り辛さも、指先の震えも、死の恐怖も、もうどこにもない。私は今、水銀の肉体を手に入れたぞ」


 水銀の体を得た錬金術師は歓喜に満ち溢れていた。ルバロの声は金属質で冷徹な響きがある。

 彼は両手を広げて僕達に尊大的で恍惚な表情をし言うのであった。


「私は錬金術師、ルバロ・セレゴだ。そして、不老不死へと登り詰めた者である。新たな私の誕生に、お前達の犠牲でもって祝福しようではないか」


 ルバロはそう言うと錬金釜から這い出る。そして、水銀で出来た肉体を流動させながら僕達に近付いてくる。


「さあ、お前達の肉体を我の贄にしてやろう。光栄に思え!」


 彼は僕達に向かって手を伸ばすと、ガラドは戦槌を構え臨戦態勢にはいる。

 ニルスも荷袋に手を入れ何か役に立ちそうな物がないか探しているようだ。


 僕も魔力感知の能力で何か弱点が無いか探そうとする。

 そうこうしている間にルバロはガラドに向かって水銀で出来た手でヌルリと掴もうとしてくる。


「そうはさせんぞ!」


 ガラドはその攻撃を躱すと、襲い掛かるルバロの腕に戦槌の一撃を加える。

 その攻撃でルバロの腕はバシャッと音を立て腕がもがれて床に落ち水銀の溜まりを作る。

 だが、彼の体を構成する水銀が失った腕を即座に再生させ元通りになってしまう。


「何じゃ? これではダメージを与えられんぞ?」


 ガラドが驚いていると、ルバロは大笑いしながら言う。


「ぐははは! 無駄だ! 水銀の肉体に攻撃しても無駄であるぞ」


 彼はそう言うと、ガラドに向かって指を伸ばす。指先が針のように鋭くなって長く伸びドワーフの右腕にブスッと突き刺さり貫通する。


「うぐっ!」


 ガラドは痛みで戦槌を落とし苦悶の声を上げる。

 ダラリと腕を下ろし痛みに顔を歪め、傷口を抑えると腕を伝って血が滴り落ちた。

 ルバロはそんなガラドを見て嘲笑い言うのであった。


「ぐははは! 何とも脆く無力であるな。水銀の体を得た私には何物もダメージを与えられる事は出来ぬわ!」

「むっ! どうすれば良いのじゃ?」


 ガラドは傷口を押さえながらルバロを見据えるが、打つ手が見つからないでいた。

 ニルスも切羽詰まって荷袋を漁る。そして、彼は無我夢中で鞄の中からフラスコを取り出したのである。


「酸で溶けてしまえ!」


 彼はそう言うと、ルバロの銀色のボディに向かってフラスコを投げつけた。

 すると、それは水銀の肉体に当たり弾けて砕け散る。


 当たった瞬間、ルバロの銀色の肌が沸騰したように泡立ち始める。

 そこから赤褐色の禍々しい色をした煙が噴き出す。彼等がその煙を吸い込んだ瞬間仰け反ってしまう。


「うぎゃぁあああ……っ!? め……目が、喉が焼ける!!」

「……ガハッ、何だこの煙は……息が……っ!」


 ニルスが投げつけたフラスコには硝酸が入っておりルバロを構成している水銀と反応して二酸化窒素を発生させたのである。

 もちろん、彼は自分が投げつけた酸が水銀と反応して毒性のある煙が発生した事は知る由もない。


 ガラドは肺を焼かれるような激痛に膝をつき、ニルスはあまりの苦しさに悶絶した。

 ルバロも錬金術師であるが、その知識は持ち合わせていなかった。当の本人はドロドロに溶け落ちる体を見下ろし狂ったように笑う。


「無駄だ、無駄だ、無駄ぁ! 多少肉体が損なわれようと、私のコアは揺るがん。さあ、苦しみながら死んでいけ!」


 死の煙の中で、ルバロがトドメと言わんばかりに2人に指先を向け伸ばして全身に突き立てようとしている。


「もう、こ……これでも食らえぇっ!!」


 意識が遠のく中、ニルスが荷袋から掴み出し、ヤケクソで投げつけたのは着火用の硫黄の粉末だった。

 黄色い粉が、酸でドロドロに荒れたルバロの肉体に吸い込まれるように付着する。

 その時、奇跡が起きた。


 硝酸との反応で熱を持っていた水銀が、硫黄に触れた瞬間、猛烈な勢いで変質を始めたのだ。

 銀色の輝きは一瞬で消失し、不気味な朱色へと形を変えていく。


「……なっ、固まる……!? 私の体が思うように動かん……!?」

「ガラドさん、今だ!……そのハンマーでボディを砕くんだ!」


 僕はそう叫ぶと、ガラドは最後の力を振り絞って錬金術師へと駆け出しウォーハンマーを振り下ろす。


「ぬん……っ!!うおりゃああああ!!」


 ドワーフの怪力が唸りを上げ、戦槌が朱色に染まったルバロの胸部を真っ向から粉砕した。

 ガギィィィィン!!

 硬く脆い結晶と化した肉体は、もはや衝撃を受け流すことはできない。


 陶器のように砕け散った破片の奥から彼の錬金術で作りし魔力のこもった銀の核が露出する。

 ニルスが放った硫黄がルバロの水銀と反応し硫化水銀に変化してしまい朱色の結晶となってしまった。


 硫黄を投げつけたのは偶々であるが、錬金術師であるルバロには数々の実験によって水銀と硫黄が反応するのは分かっていた。

 しかし後の祭りであった……。


「よくも我が体に硫黄を……やめろ! 私の人生を、私の真理を消し去るなぁぁ!」


 彼が血相を変えて絶叫しているのも意に介さず僕は心臓部分にあるコアに手を伸ばす。


「ルバロさん……貴方の真理は、僕が消し去ってあげます……」

『うわぁ~! この錬金術師の魔力、中々の物ね……頂きまぁーす!」


 僕はそう呟きアジェは舌なめずりしながら魔力を吸収していく。

 ルバロのコアにある網の目状の魔力を一本づつ切断し魔力の供給を断つのである。

 すると銀色のコアの輝きは急速に失われていった。


「ぐわああああ……っ!! やめろ! やめ……」


 もう、彼の体は半分以上にひび割れが起き、脆い部分がボロボロと崩れ落ちていた。


「私の体が……私の知識が……消え去ってしまう……うがぁああああああ!!」


 断末魔の叫びと共に錬金術師ルバロ・セレゴは完全に朱色の破片となったのである。

 彼は最期まで抵抗しようと無駄に足掻き、アジェに魔力を全て吸収され消滅した。


「ルバロさん……貴方の魔力は僕達が有効利用させて頂きますよ……」


 僕はそう呟きガラドとニルスの所に向かう。2人は床にへたり込んで肩で息をしていた。

 そして僕の顔を見るなり安堵の表情を浮かべる。


「これで……終わったのぉ」

「いやぁー、アベルって凄い技の持ち主なんだね!」


 ニルスは目を輝かせながら僕に近寄り称賛の言葉を贈ってくれる。

 僕は照れて少し頬を赤らめてしまうが、ガラドが僕の肩を叩いて労いの言葉を掛けてくれる。


「アベルよ……お主は強いのだな」

「いえ、まだまだですよ……」


 謙遜しながら答えるとガラドは首を横に振る。そして、ニルスも笑顔で言うのであった。


「そんな事ないよ! だって、水銀化した錬金術師をやっつけたじゃん!」

「うむ、確かにそうじゃな」


 ガラドがそう言うと僕と2人は笑い合ったのであった……。

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