毎日の始め方。
はじめまして。くり子です。今回初めて小説をかきます。至らない点が多いと思いますが目を通してくださる方がいらしてくれたら嬉しいです。
予定としては一話一話短く、エッセイの様に読みやすい文章にできたらと思っています。今回はプロローグの様なものなので更に短めです。
宜しくお願いします。
「しょうゆ。」
これが夫が最初に口にする言葉だ。リビングの食卓に座り、広げた新聞を見つめながら。小さい頃から朝食は目玉焼きだった。母親の好物なのだ。「好物だった」といった方が正しいのかもしれない。別に私はそこまで好きではないけれど、なんとなく起きてすぐに目玉焼き以外の物を口にすると違和感があるのだ。夫は文句を言ったことが無い。そして、必ずしょうゆをかける。
「自分で取れば良いじゃない。」
私は自分が既に汚してしまった真っ白なお皿を洗っていた。新聞は未だに夫の顔を隠す様に広がったままで、彼は一言も発しない。どうやら自ら手を伸ばすつもりは無い様だ。私はため息を着くと泡の付いた手をさっと水に潜らせてから蛇口を閉めた。「きゅっ」という軽快な音がした。
「はい。」
うんざりした声と共にしょうゆを取る。夫の目前にある長方形のテーブルに佇んでいるしょうゆを。そして皿の脇に置いた。その時、少し屈む際にかつて恋人であった相手の顔を覗いてみた。中年ですっかりふくよかになった顔を。
夫が仕事に出掛けた。私は鼻歌を歌いながら洗濯物を干す。夫が「夫」となる前、私を「美代子」と本名ではなく「みよ」と省略して呼んでいた。あの頃は結婚するのが待ち遠しかった。みよを卒業する事が。そして今、私は結婚していてみよを卒業している。でも、今ではみよでなければ憧れの「おまえ」でも「母さん」でもない。そんな事を思いながら、私は鼻歌を歌った。