第6話 当主の試練
ジョウン先導の元、シャックス達は走る。
ややあってシャックス達が、たどり着いたのは表通り近くの路地。
その路地に馬車が止まっている。
レーナは、他にも信用できる協力者を見つけていたのだ。
レーナはその人物をマルコと呼ぶ。
新たに合流した男性マルコがレーナに頭を下げて、馬車に乗るように言う。
「早く中へ、すぐに出発します!」
「ありがとう。このお礼は必ず!」
レーナは言葉少なにお礼を言って、シャックス達を先に乗り込ませる。
レーナが乗り込んだのは最後だ。
すぐに出発した馬車は、内部に人がいる事など考えもしない速度で、表通りを爆走した。
馬車の内部は物理的にも精神的にも暗かったが、ニーナとフォウが会話で明るくする。
「急な事でびっくりしちゃったけど、これであの嫌な家とおさらばできるのね」
ニーナはこれで平民として生きられるのだと、前向きな発言をして家族を励ました。
「新しい家に着いたら何をすればいいんだ? 平民のマナーを学ばなくちゃな。手づかみで食事とかするのが普通なのかな」
フォウも、同じようにならった。
そんな二人の顔を見て、レーナは少しだけ微笑んだ。
「二人とも優しい子に育ったのね、嬉しいわ。無理に明るくさせちゃってごめんね。こんな頼りないお母さんで」
「そんな事ないわ。お母さんはよくやってるもの」
「そんな事ない。母さんはしっかりしてるよ」
レーナとフォウの言葉が重なる。
シャックスもレーナを励ますために大きく頷いた。
レーナは悲しそうな顔で首を横に振る。
「お母さんはしっかりなんてしていないわ。今こうしていても、もっと良い方法があったんじゃないかって、出来る事が他にもあったんじゃないかって思うもの」
レーナは馬車の窓を見つめる。
その向こうには夜の暗闇が広がっていた。
夜は深まっていく。
もうそろそろ日付が変わる頃合いだった。
そのまま馬車は、町を出て、街道を走っていく。
そして、人気のない森の中にさしかかった。
その森はゴースト系のモンスターが出る事で有名な森だった。
比較的弱いモンスターが多く、一般市民でも命を落とす事が少ないため、気軽に歩く事ができる。
しかしさすがに夜中に人影はない。
そんな森には黒い木がたくさん生えていた。
雑草や植物も黒い色の物が多い。
そのため人々からは漆黒の森と呼ばれている。
この森の特徴は、屍を放置しておくと、アンデット系のモンスターになってしまうという点だ。
命を落とした動物や人間が、モンスター化して他の動物や人間を襲うのだ。
モンスターよりそちらの脅威が高いため、定期的に衛兵や冒険者などが巡回していた。
シャックス達はそんな森の中を馬車で通るが、森の中間地点で襲撃を受ける。
馬が嘶いて馬車が急停止。
窓から外を見ると、進行方向に何台もの馬車が止まっていた。
それらは、通せんぼするように停車していた。
その馬車から降りてくるのは、ワンドとアンナとサーズ。
そして、ワンド達の味方である、何人かの使用人だった。
使用人達が炎の魔法で、こちらの馬車に火をつける。
こちらの馬車はすぐに燃え盛ったため、内部にいたシャックス達は外に出るしかなかった。
シャックスは、繋がれている馬を解放し、頭を打って気絶している御者マルコを見る。
ジョウンにマルコの怪我を見てほしいと、ジェスチャーで伝える。
怪我は大した事がないと分かったので、待っていれば目覚めるはずだった。
シャックスは、視線をワンド達の方へ向ける。
レーナがワンドに話しかける。
「悲しいけど、ニーナじゃアンナには勝てないわ。だから当主の座は譲る。それで良いでしょう? こんな所までわざわざ追いかけてくるなんて」
「当主になるのなら、誰の目にはっきりと分かる、明らかな勝利が必要なのだ。狩りは行わなければならない」
「それが子供達の死に繋がるとしても?」
ワンドは無言で首を縦にふった。
シャックスは悟る。
ワンドは何があっても試練を行い、敗者となった者を殺すつもりなのだと。
「アンナ、サーズ。やれ」
ワンドの一言で、アンナとサーズが襲い掛かってくる。
アンナはニーナと対面して戦う。
アンナはニーナへ叫ぶ。
「自分とよく似た顔の劣化品がのうのうと生きてるのって、虫唾が走るのよね。さっさと死んでくれない!?」
二人とも火を操って戦ったが、ニーナは家族を傷付けられないといって降参した。
「こんなの間違っているわ」
両手を上げて何もしない姿勢をとったニーナに向けて、アンナは侮蔑の視線を向ける。
「戦いもしないの?」
「だって、私達家族でしょう? そりゃあ、嫌いなところもあるけど。命の奪い合いなんて出来ない。どうして殺し合わなくちゃいけないのよ」
「私はできるわ。時間の無駄ね。負け犬の言葉なんて聞く価値があると思ってるの?」
嘲笑するアンナは躊躇う事なく炎の魔法を放った。
サーズはフォウと対面して戦う。
サーズはフォウへ叫ぶ。
「逃げる事しかできない無能なんかに俺が負けるかよ。どうせ俺が勝つんだから、とっととやられちまえ!」
サーズは水の水球でフォウを閉じ込めようとした。
しかし、フォウは足元に発生した水を見て、すばやくその場から飛びのく。
「へぇ、さすが逃げ続けてきただけはあるな」
「お前が毎回嫌がらせしてきたり、ちょっかいかけてくるもんで学習したんだよ」
フォウは回避をし続けるが、それでも最後にはサーズに捕まってしまう。
水球に閉じ込められたフォウは気絶した。
それらを見ていたシャックスは、拳を握りしめた。
シャックスはレーナに視線を向ける。
見守っていたレーナは、きつく拳を握りしめている。
その拳は震えていた。




