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シャックス 名家落ちこぼれの少年は未踏大陸踏破を目指す  作者: 第三者臨海
第1章 クロニカ編
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第4話 暗雲



 少年と別れたシャックスは、その場に倒れるがすぐに起き上がる。


 数分後意識を取り戻したシャックスは、頭の中に疑問府をたくさん浮かべた。


 たまに意識が途絶える事があるが、その後自分が移動しているためだ。


 理由が分からない点を、戸惑い、不気味に思う。


 こんな症状が出るのは、毎朝森に入っている時だけだった。


 普段寝ている時や、屋敷の中で頭を打った時は、普通に眠っていたり、気絶したままだった。


 シャックスは、一度医者に診てもらった方が良いかもしれないと思った。


 そんな事を考えながら屋敷へ歩いていると、途中で服の中に何かが入っている事に気が付いた。


 それは水晶のかけらだった。


 向こうが見えるほど透き通ってはおらず、黒っぽい色をしているため、鏡のように使えるものだ。


 それは、何かの拍子で割れたものを、後から整えた物だった。

 成形した後があった。


 シャックスはこのような物を手に入れた覚えがないため、首を傾げる。


 しかし、形が綺麗だった事や、どことなく手放しがたく思えたため、そのまま所持する事に決めた。


 それに加えて、前世で見た事のある魔道具に似ていたため、それもあった。


 自分の生活地域から出てきたらしい存在ーー鬼族という角の生えた種族と交流した際、彼らから家宝だと言われて見せてもらった事がある。




 屋敷に戻ると、シャックスの父ワンドと母レーナが言い争っていた。

 白い髪に赤い目をしたワンドは、憤りと怒りの視線を向ける。

 黒い髪に青い目をしたレーナは、悲しみと不安そうな視線を向けているのが対照的だ。


 シャックスはこっそり様子を窺う。

 ワンドは子供達に何かの試験を課そうとしていた。

 しかし、レーナはまだ時期が早すぎると主張している。


「もう十分に待った、私の子供達に試練を課しても良いだろう。誕生日から一か月後だ、それ以上は伸ばせん。本来の予定なら誕生日前にやるはずだったのだぞ。分かり切った事のために、無駄な時間を費やさせるな!」

「そこをどうか。せめて、あと一年待ってくださいませんか。お願いします!」

「その間に俺を説得できるとでも? 時間の無駄だ」


 レーナはひたすら頭を下げているが、ワンドの気持ちは変わらないようだった。


 シャックスは、どうするべきか迷った。


 声をかけて、二人の仲をこじらせたくないからだ。


 両親の仲が悪いのは分かっていたが、だからといって進んで悪化させたいわけではなかった。


 ワンドは最低な父親であったが、母であるレーナにはある程度優しいため、レーナを悲しませたくなかったのだ。


 シャックスが悩んでいる内に、話が終わった。

 ワンドがその場を去っていく。

 レーナも悲しそうにしながら、どこかへ歩いていった。




 その後、シャックスはニーナとフォウを部屋に呼んで、今朝あった事を話した。

 すると、二人は何の事なのかをしっかりと知っていた。


 フォウが最初に話す。


「試練って言うのは、当主の座をかけた争いの事だろうな」


 ニーナが補足するように続けた。


「とっても厳しいのよ。本来は、誕生日の日にやるみたい。前にこの家の歴史をまとめた本で調べた事があるわ」


 二人は、試練についてシャックスに話す。

 試練は、この家の子供達が7歳になった誕生日に行うもので、当主にふさわしいかどうかを見るためのものだ。

 ふさわしくないと判断されたら、養子を迎えると言う。




 しかし、今のこの家には双子ばかり。

 だから、双子同士を競わせて、より優秀だった方を当主にするという判断らしい。

 試練が行われるなら、ニーナとアンナの出番だろうとフォウが言う。

 女性より男性を当主にしたがる事が多いが、ワンドは性別についてこだわりがないようだった。


 ワンドはこの屋敷にたまに客人を招待する事があるが、その顔の中にもちらほら女性がいた。


 女性を男性と同等に扱う事は珍しい事だが、ワンドはそういった事に対し何とも思っていなかった。


 むしろ、女性を女性だという理由で蔑む者達を軽蔑している節がある。




 数時間後。


 レーナは自分の部屋で悩んでいた。


 ここのところ、彼女は子供達にかまってやれなかった。


 それは、試練が近づいていたせいだった。


 レーナの部屋は書物で溢れかえっている。


 家の書庫にあった本を数十冊運び込んだせいだ。


 普段は綺麗に整頓されているが、今はそんな様子は見る影もなかった。


 レーナは今までにクロニカ家で行われた試練を調べている最中だった。


「どうにかして、ニーナやフォウ、シャックスを守る方法を考えないと。それにアンナたちにも、これ以上練で家族と対立させたくはないわ」


 レーナは真っ青な顔になりながら、書物を睨みつけるように呼んでいく。


 その様子は疲労こんぱいで、今にも倒れそうだった。


 ふらついた彼女は、積んであった本に手をぶつけてしまう。


 そのせいで本の一冊が床を転がった。


 レーナはその本を拾おうとして手を止める。


 彼女は、とある書物のページに目を止めた。


 それは、書庫から運び込んだ書物ではなかった。


 最初の子供達が生まれた時に書いたレーナの日記だった。


 アンナとニーナを抱いているレーナの絵が書かれていた。


 その絵には温もりがあった。


 それを描いたのはワンドだ。

  

 レーナは涙をこぼす。


 小さな水の雫が日記に落ちた。


「どうしてこんな事になってしまったのかしら。昔はあんなに幸せだったのに」


 悲哀に満ちたレーナの言葉を聞くものは誰もいなかった。


 レーナは、幼い頃から蝶よ花よと育てられた貴族令嬢だ。


 両親も彼女を溺愛し、レーナはそんな両親を大切にしていた。


 そのため、家のためになら好きでもない男と結婚する事も厭わなかった。


 しかし、出来る事なら名のある家の当主と結婚し、両親の助けになりたかった。


 レーナの実家は、ほとんど名前の広まっていない地方の家だったからだ。


 社交界に出る度に、誰と結婚するのか考えない日はなかった。


 そんなレーナが出会ったのはワンドだ。


 レーナはワンドと結婚する事になるとは思わなず、話しかけられる事などないと思っていた。


 しかし、ワンドはレーナに話しかけ、他の令嬢たちと過ごすよりも、レーナを優先して多くの時間を共に過ごした。


 時折、冷たい顔を見せる時もあるが、ワンドはレーナには常に丁寧な態度だったため、うまくやっていけると思っていたのだ。


 今では、ワンドと話す時間はなく、禄に顔を合わせる事もない現状だった。



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