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シャックス 名家落ちこぼれの少年は未踏大陸踏破を目指す  作者: 第三者臨海
その後編

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第27話 新生活と暗雲



 数か月後。


 大陸踏破の褒美として、屋敷を与えられたシャックスは、師匠であるセブンと連絡をとっていた。

 それはセブンも屋敷に住まないかという誘いだ。


 屋敷は広い。

 設備は整っており、不便はない。

 屋敷の管理は国が手配してくれた使用人が行っているため、そちらの面で頭を悩ませる必要がなかった。


 しかしシャックスは、満足ではなかったのだ。


 広い家は慣れないし、寂しいと少し思っていた。


 シャックスは度々、クロニカ家にいた時の事を思い出す。

 クロニカ家の方が広かったが、人がいた事と、レーナやニーナ、フォウがいたから寂しくなかったのだと考える。


 それに加えて、敵対していたが、ワンドやアンナ、サーズなどもいたため、寂しなど感じる時間はなかった。


 そんなシャックスには、欲がないため、買い物などで何かを購入する事もない。

 時間を持て余す日々だった。


 屋敷は豪華だが、その設備も満足に使っていなかった。


 屋敷の部屋数は百以上あるにも関わらず、私室と寝室、浴室、書斎、客間くらいしか行き来していない現状だ。


 ぼうっとしたままではいけないと考えたシャックスは、屋敷の庭や、屋敷の裏手に運動場代わりの広場を作った。

 それからその場所はよく使うようになった。


 例外として、家の中では客間がいつもよく使われていて、未踏大陸を踏破した者達に興味を示す新聞記者達や、武器や魔道具を売りつける者達などが来ていた。


 その顔ぶれの中には、未踏大陸に向かう前に知り合った魔道具の店長ローゲもいた。

 また変な女性にたぶらかされて損害を出していたため、シャックスはいくつかの魔道具を購入したのだった。


 当人は女運がないのかもしれないと、嘆いていた。


 そんな日々の中、社交界に招待されるようになるが、シャックスはそれらを断っている。

 アーリー達に誘われた時以外は、面倒に感じていたからだ。


 上流階級の人間として育った事のあるシャックスだが、そんな世界の者達との交流に興味はなく、その世界で生きようとも思えなかった。


 シャックスが、ワンドたちへの仕返しや、復讐に関して悩んでいたところ、顔の知った新聞記者がやってきた。


 その記者は、探索メンバーを決める試験のあと、ならず者にからまれていた際にシャックスに助けてもらった女性だ。


 レリードと名乗ったその女性は出会った時とは違い、男装していた。


 彼女は職業柄色々な場所に赴く事があり、大っぴらにはできない業界を調査することも多かった。


 そのため、変装しないと安心して表を歩けないのだと説明する。


 新聞記者という仕事は大変なのだなと、シャックスは思った。


 そんなレリードは、シャックスがクロニカ家の生き残りだという噂を聞きつけ、取材にやってきたのだった。


「今から質問するので、言いたいところだけ答えていただけませんか?」


 といっても、相手に無理やり聞き出す事はしない女性だった。


 相手の反応を見たり、様子を観察する事はあったが、取材対象に無礼を働いたりはしなかったのだ。


 それは、貴族相手の取材も任される事があったため、これまでの知識や経験で学んだためだ。


 シャックスは素直な感想を口にする。


「新聞記者は、もっとがつがつ話を聞いてくるものだと思った」


 レリードはそれに同意する。


「そうですよね。でも数年前に、とある貴族様を怒らせてしまってから、皆そういったやんごとなき方々には慎重なんですよ。あ、もちろん民衆相手にはそれなりにがっついてますけどね」


 レリードは自分もそれなりにやんごとなき方々の部類に入るという事を脇に置いて、発言する。


 シャックスは数年前に何かあっただろうかと首をかしげたが、セブンの元で修行していた頃だったため、分からなかった。


 レリードは親切心で疑問符を浮かべるシャックスに説明する。


「ロレンスという探索者がいますよね。その人とご師匠さんが、ある高名な魔法使いと諍いをおこした事があるんですよ。それで取材しにいった記者が無礼を働いて、悲惨な目にあったという……」


 話を聞いた結果、自分の身の回りにもある程度関係することだったため、シャックスはどういった顔をしてよいのか分からなくなった。


「だから、それ以来気をつけているんです。民衆からはもっと突っ込んだ取材をしろと不満を抱かれていますけど」


 それならば取材姿勢が慎重になるのも納得だとシャックスは思う。

 自分の知らなかった事を教えてくれたレリードに、シャックスは教えてくれたお礼を言う。


「悪事に手を染めていない取材対象とは、今後の事も考えてできるだけ良い関係を築いておきたいですからね」と笑った。


「そういえばうちの弟子と仲良くしてくださったとか。レッドというんですけど」


 シャックスの脳裏に、未踏大陸へ向かう前の出来事がよみがえる。


 レッドは師匠がいると言っていた記憶があった。

 だが、それが目の前の女性だとは思わなかった。


「一緒に闇オークション会場に行ったとか」


 とがめられるだろうかと思ったシャックスが身構えるがレリードは笑って、手を振る。


「いえ、文句を言うつもりなんでありません。あなたみたいな強い人がついていてくださってありがたいですよ。あの子は夢中になったらなんにでも一直線で危なっかしいですからね」


 確かにレッドは危ういところがあるなと、シャックスはうなづいた。


 見習いで手伝わせてもらえないとぼやいていたが、そういった点があるからだろう。


 ちなみにあの件で再開したプラムレは、シャックスがそれとなく王に知り合いだと明かして、保護してもらっている。


 ひいきをするようで少し心苦しかったが、見ず知らずのものならまだしも、親交のあるものであるため、見捨てる事ができなかったのだ。


 加えて、現実と戦うことを選んだ彼女を好ましく思うところもあったため、そのような行動にでた、


 未踏大陸で採取した薬草の研究が進んでいるようなので、間に合えばなんとかなるだろう。





 取材を終えた帰り際にレリードはこういった。


「うちの新聞社は顔が広いのが売りなんです。名前を売り出したい時は、どうぞお声がけを」


 そう言った彼女とは、今回の件で取材を受けた後、何度か顔を会わせ、クロニカ家の事について色々と話す関係になっていた。


 数か月後に、建国祭が控えているため、その時期にクロニカ家の闇を糾弾しようかと考えていたからだ。


 しかし、その時のシャックスは、それまでクロニカ家の状態が変わらないと考えていた。




 そんな最中、ナギの誘いを受けて、社交界に顔を出す事になった。


 目立つ場所はあまり好きではなかったが、共に戦場に立った仲であり、腹を割って話をした関係でもあるため、頼みごとを断れなかったのだ。


 そのため、社交界用の服を仕立てるために、ブランドショップのいくつかの店員と知り合った。

 貴金属や宝石をあしらった服をいくつか紹介されたが、そういった店の店員ではなく、シンプルで上品な仕立てを取り扱う店を選んだ。


 顔を出した社交界では、アンナの顔を見た事があった。


 だが、誰も彼女の相手をしておらず、アンナはなぜか孤立しているようだった。


 シャックスの耳に入った噂によると、サーズの死亡と未踏大陸の記事が出回った直後から、ミスが増えたという。


 ワンドがアンナを自慢する事がなくなったというのも影響している。


 ワンドは表に出る事はなくなり、屋敷の中で使用人たちに苛立ちをぶつける毎日を送っていた。


 それらの情報収集をしたシャックスは、ナギが自分の目的を果たすのを見届けた。


 社交界への参加で誘いをかけたナギは、幼馴染の病気の治療のため、富裕層の力をかりようとした。


 自分の知名度を利用して、貴族たちと知り合い、必要な薬を譲ってもらったり、治療施設を紹介してもらったりした。


 その効果はすぐには分からないが、ナギは共に参加しただけのシャックスに数えきれない程のお礼を言ったのだった。


「一人でいるよりも、二人。信頼できる友人と一緒にいる事はどんな事よりも心強いですからね」


 とナギに言われたシャックスは、寝食を共にした間からなのだから、自分達は仲間でもあり、友人でもあるのだろうと思った。


 同世代の友達が自分にできているのだなと、そういった存在のいなかった過去の自分と比べて感慨にふけった。





 社交界に出れば、シャックス達から直に話を聞こうとするものが増える。


 そこからまた、世に出回っている話以外の冒険物語が広まり、市民たちは血肉脇踊る話を耳にして、胸を湧き立たせた。

 

 世間の者達は、シャックス達の活躍を知って、目を輝かせるばかりだ。


 新聞記事は連日、未踏大陸の情報で賑わい、演劇やショーなどもそういった内容のものになった。


 通りで遊ぶ子供達も、未踏大陸関連に関するものだった。


 それ以外の面では、未踏大陸の情報をまとめた書籍や図鑑が発売されたり、未踏大陸さんの果物や素材が高値で取引されるようになった。

 貴族の世界では、それらのものを身に着けるのが流行とされていたが、クロニカ家の者は身に着けなかった。


 そんな日々の中、シャックスはクロニカ家の状況を情報屋に教えてもらいつつ、屋敷の管理と維持のために使用人を新たに雇っていた。


 そこで、再会したのがカーラだった。


 クロニカ家をやめたカーラは、シャックスの無事を喜び、涙ぐんだ。


 シャックスはそんなカーラを迎え入れ、屋敷の管理を任せた。


 カーラから手紙の話を聞いたシャックスは驚いた。


 自分がたまに意識を失う事があるのを知っていたが、それが決定付けられた瞬間だった。


 シャックスはカーラに自分の前世のことを話した。


 カーラは驚いたが、その情報を受け入れてくれたのだった。


 そんなシャックスは、そのまま未踏大陸踏破の英雄として、のんびり過ごしても良かったが、そうはしなかった。


 たまに、王や王妃から頼まれる特別な任務をこなしながら毎日を過ごしたのだった。





 そんな風に、新しい生活に慣れた頃、元の家族がやってきた。

 

 それはアンナだった。


 アンナは、クロニカ家から逃げ出してきたらしい。


 朝日が昇り切った頃に、困惑と怒りの感情を半分にまぜたカーラに起こされ、理由を知った時は、天変地異が起こったのかと思った。


 そんな事を思われているとも知らず、シャックスの顔を見たアンナは、毎日頭首としての仕事が多く、きついと言う。


 ワンドにあたり散らされる事が多くなり、もうあれは父親などではないといった。


 しかし、シャックスはアンナに手を差し伸べる事ができなかった。


「言いたい事はそれだけか」


 シャックスの喉が動いていれば、その声は冷え切ったものになっていただろう事は明白だった。


 テレパシーで声を聴いたアンナは少し驚いたが、それについては何も言わなかった。


 自分の事で手いっぱいのようで、いかに不幸な目に遭っているかを喋り始めた。


 アンナが言った言葉の中に、聞くべき事は一つもなかった。


 アンナの頭の中には、謝罪するという可能性などはまるでなかったのだ。


 シャックスに「もういい」と拒絶されたアンナは「家族だったのに」と怒り出す。


 その家族を殺そうとした人間が言うセリフじゃないな、とシャックスは思った。


「よくそんな事が言えるな。お前らのせいで、ニーナ姉さんも、フォウ兄さんも、母さんも死んだんだぞ」

「私が決めた事じゃないわ」


 アンナは、自分は悪くないと言い張る。

 シャックスはこれ以上会話したくなかったため、すぐに家の中に入った。


 アンナは押し入ろうとしたが、シャックスが国王に言いつけると脅して、帰らせることができた。


 アンナは、その後。

 何度か、ごろつきを雇ってシャックスを襲わせようとした。

 しかし、ごろつきは敵ではなかったため、シャックスはこれをさっさと撃退してしまったのだった。




 英雄に牙をむいたとして、犯行現場をおさえられたアンナは、牢屋に幽閉される事になる。

 面会するかと聞かれたが、シャックスは断った。

 アンナと話す事など、何もないと思ったからだ。


 この一件がクロニカ家の揉め事としての新聞記事として出回ったため、シャックスは正しい情報をーーこれまで秘めていた真実と共に追加で、大々的に流した。


 この件でのレリードの協力にはかなり助かった。


 自分はもうクロニカ家の人間ではなく、捨てられた身だという事。

 そして、家族は現在クロニカ家にいる者達と牢屋にいるアンナに殺されたという事を広める。


 これらの情報を耳にいた世間はシャックスに同情的になった。 


 ワンドの立場は一気に下がり、誰もが彼に指をさした。


 その事実が影響してか、ワンドは屋敷の外に完全に出なくなったらしい。


 ストレスで当たり散らされた事で、使用人たちも大勢やめたという。


 他人を見下している節のあるワンドだが、世間の評判というものはシャックスの予想以上に気にしていたのだった。


 それは本人ですら自覚していない事だった。


 ワンドは、自分が誰かの評判を耳にするたびに不快になり、その事実にまた不快になる事の繰り返しだった。




 そんな話が聞こえてきた中、シャックスはセブンと再会する。

 王都へやってきたセブンから、未踏大陸踏破のお祝いの品をもらったシャックスは、アーリーたちなどの仲間達も呼び、屋敷で盛り上がった。




 一方、孤独に牢屋で過ごすアンナは、昔の事を思い出す


 シャックスが生まれた時、可愛いと思った事。

 抱きしめたいと思った事など。


 しかしすぐに、憎しみや忌々しいという気持ちが沸き上がった。

 それらの感情は月日が満ちる事に膨れ上がり、元の感情を塗りつぶしていく。


 アンナが二人いるとしたら、以前のアンナはとっくの昔になくなって消滅してしまっただろうと、彼女自身は思う。

 それくらい、先日シャックスを見たときに抱いた負の感情は強烈なものだった。


 物思いにふけるアンナ。

 そんなアンナのいる牢屋の元に、黒い外套をまとった人物がゆっくりと近づいていく。




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